if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと

文字の大きさ
3 / 13

第三話

しおりを挟む
増田盛次と塙団右衛門の笑い声が城内に響き渡る。

「愉快! 愉快!」

二人は秀頼の前に数人の男を差し出した。

「秀頼さまぁ! これは良いところへ! ホラ、平伏せい!」

盛次と団右衛門は数人の男の頭を強引に擦り付けさせる。

「は、話が違う! 降伏すれば許すと言ったではないか!?」

叫んでいる男……秀頼は彼の顔見て、怒りに変える。
彼らは小出、織田信雄などの武将である。

ただ、秀頼の怒りの矛先は信雄たちにではない。

「何ということを……すぐに縄を解け」

団右衛門も理解できずに反論する。

「秀頼様! 何をおっしゃられるか!? 此奴らは裏切り者でございますぞ!」

「何を言うか! 織田殿も小出殿も私の親族ではないか!? 無礼にも程がある! 縄を解け!」

団右衛門は狂気の笑みを表情に残したまま、反論する。

「殿は戦国の世を知らぬようで……生かしておけば、また裏切られますぞ!」

「貴様……」


秀頼の言葉を遮るように淀君が現れて言う。

「団右衛門、盛次。よく捕らえてくれました。今からこの者らを斬首致し、家康に送りつけましょう」

「淀様は、戦国の世をお知りのようで何よりでございます」

団右衛門は下品な笑みを浮かべて淀君に礼を言う。
しかし、淀君は冷たい視線を彼らに一度送ったのみで去ろうとする。

「ならば、私を縛り上げ斬首に致せ」

淀君は秀頼の表情を見て、驚く。

ーー叔父上と同じ顔。

彼女の瞳の裏に薄ら見える叔父である織田信長……と同じ顔である。

しかし、二人の生き様、ベクトルが違う。
信長は比叡山を焼き討ちし……そして何より淀君の弟や父親である浅井長政を殺したという残酷なもの。
逆に秀頼は生かすという信念が見える。

淀君は烏合の衆だった兵士たちを秀頼が、まとめ上げた理由を暗に理解した。
織田と羽柴の血筋が持つ狂気がなく、信長と秀吉が持つ熱意だけを受け継いだのである。
しかも、彼は戦国の世を知らない。
死生観に関しては現代に近いものであり、情で動いている。
捕らえた織田信雄、立花宗茂たちにも食事は元大名と同じものを与え、沙汰が決まるまでという形で屋敷まで与えた。

当然、それに反発するものも現れる。

大野治房である。

「何故、甘い顔をするのですか? 罪人でございますぞ!」

秀頼は反論することすら面倒だなと態度に表す。

ーー私の真意がわからぬ者に何と言えば良いのか?

「私の弟は此奴らに……斬らねばなりませぬ。それが戦国の世の習い」

しかし、秀頼はその言葉にさらに反論する。

「私の母上はその習い故に私にとっての叔父上と祖父上を亡き者にされたのだ。それを終わらせたい。わかってはくれぬか?」

治房は理解できず反論されたことに苛立ちを覚え、声を荒げる。

「なりません! 即刻の斬首を……」

彼の言葉を遮るように後藤又兵衛が言う。

「秀頼様、拙者感服いたしました。武士の情けをお知りのようで」

「ま、又兵衛! お主、長政と繋がっておるのだろう! 斬首じゃ!」

「やめい! 治房!」

大野治長は感情的になり怒鳴り散らす治房を引き止めながら、共に去って行く。

そして、淀君は冷たく秀頼に言う。

「秀頼、貴方をそのように育てた覚えはございません。治房の言うことに理があります。私たちを裏切った者が揃い次第、首を刎ねる。良いですね? そして、イスパニアの援助が来たら、京へ家康を討ちます」

彼女の口調は冷たいが瞳の奥には明らかな狂気が見えている。

ーー淀……そなたも父上……そして、秀吉に似ておる

女子供関係なく殺した織田信長と豊臣秀吉。
その戦国武将としての冷酷さを淀は二人の男に影響され育ってしまった。

そして、何より今回の勝利で淀を止める者は誰もいなくなってしまう。

ーー母上はこの勝利で狂ってしまったようだ。

秀頼は苦々しく感じながらも頷いた……しかし、彼は行動に移し始める。
信頼できる木村重成と後藤又兵衛を通じて、立花宗茂らに大坂城から逃げるよう手配するという書状を渡したのだ。

公になっては秀頼に害が及ぶ。
宗茂たちは書状を燃やして、証拠を隠滅した。

ーーフン、今の大坂城など簡単に逃げれるわ! しかし、秀頼殿は面白い。西国無双のワシを破った男……次はどう出る? 暫くは近くで見させてもらうぞ。

宗茂は燃える書状を見つめニヤリと笑みを溢した。

続く


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月 後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。 ーーこんなはずちゃうやろ? それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。 果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?  そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

天正の黒船

KEYちゃん
歴史・時代
幕末、日本人は欧米諸国が日本に来た時の黒船に腰を抜かした。しかしその300年前に日本人は黒船を作っていた。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

ヤバイ秀吉

魚夢ゴールド
歴史・時代
題名通り、性格をヤバくした羽柴秀吉の伝記モノです。

処理中です...