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故郷5
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そして翌日から、法眼は翡翠に読み書きや天文学を教え始めた。翡翠は飲み込みが早く、法眼も教えるのが楽しくなっていた。
「お、もうこの文章を読めるようになったのか」
法眼は、書物の比較的難しい文章の書かれた頁を見ながら言った。光明の別邸に置いてあった書物である。
「はい、法眼様の教え方が上手いので!」
翡翠の笑顔を見て、法眼も微笑んだ。初めて会った時と違い、翡翠の目には希望の光が宿っていた。
◆ ◆ ◆
あっという間に時は過ぎて行き、法眼達がこの村を発つ前日になった。
その日の昼、珍しく翡翠は民家のある所まで出て来ていた。いつもきよに夜更かしをさせるのが申し訳ないので、たまには昼に遊ぼうときよを誘いに来たのだ。
一人でこっそりときよの家まで来た翡翠は、きよの父親がいないか、そっと家の中を覗き込んだ。そして、部屋の光景を見た翡翠は目を見開いた。
その頃、法眼と時子は法眼の実家にいた。家の中を掃除していると、弥彦が訪ねてきた。
「紅玉、また片づけを手伝いに来たぞ。差し入れも持って来た」
勢い良く扉を開いた弥彦は、開口一番そう言った。
「ああ、すまないな」
そう言って、法眼は弥彦からの差し入れを受け取る。木箱の中には、菓子が沢山入っていた。
「それと、これもどうだ?」
弥彦が、ニヤリと笑いながら徳利を差し出した。どうやら、上等な酒らしい。
「夜に頂くよ」
法眼も、悪い笑みを浮かべて言った。
徳利を眺めていた法眼は、ふと思い出して言った。
「そうだ。そう言えば、きよの家からも微かに酒の匂いがしてた。違和感の正体はこれだったんだな。あの父親は沢山酒を飲む印象が無かったから……」
法眼が言うと、弥彦はとたんに険しい顔になり、法眼の両肩を強く掴んだ。
「おい、紅玉、酒の匂いがしたって本当か!?」
「あ、ああ……それがどうかしたのか?」
戸惑いながら法眼が問い返すと、弥彦は唇を噛み締めて言った。
「……吉次さんはな……二年前に奥さんを亡くしてからしばらくの間、酒に溺れてきよに暴力を振るっていたんだよ」
「なっ……!!」
話によると、二年前たまたまきよの腕に痣があるのを見つけた弥彦達村の衆が、吉次を支えて酒を断たせたらしい。それからもそれとなく吉次やきよに目を配っていたが、吉次は一年以上酒を飲んでいないようなので、弥彦は安心していたのだ。
「それなのに家から酒の匂いがしているとは……吉次さんは最近商売が上手く行っていないと言っていたから、それでまた酒に溺れるようになったか……」
弥彦が呟くのを聞きながら、法眼は今までのきよの行動を思い返した。夜中に家を抜け出すきよ。翡翠の住む小屋から中々帰ろうとしないきよ。……まさか、いつも夜に暴力を振るわれていて、逃げる為にあの竹林に来ていたのか。
「……俺、今からきよの家に行って様子を見て来る」
「俺も行く」
「私も同行させて下さい」
そして法眼達が家を飛び出そうとした時、紙の姿をした法眼の式神が一体、ひらりと法眼の側にやって来た。式神達には、翡翠の見張りを頼んだはずだが。
「どうした?何かあったのか?」
法眼はそう言って手の平に式神を乗せた。そして、次の瞬間目を見開いた。
式神には、べったりと血が付いていたのだ。
「お、もうこの文章を読めるようになったのか」
法眼は、書物の比較的難しい文章の書かれた頁を見ながら言った。光明の別邸に置いてあった書物である。
「はい、法眼様の教え方が上手いので!」
翡翠の笑顔を見て、法眼も微笑んだ。初めて会った時と違い、翡翠の目には希望の光が宿っていた。
◆ ◆ ◆
あっという間に時は過ぎて行き、法眼達がこの村を発つ前日になった。
その日の昼、珍しく翡翠は民家のある所まで出て来ていた。いつもきよに夜更かしをさせるのが申し訳ないので、たまには昼に遊ぼうときよを誘いに来たのだ。
一人でこっそりときよの家まで来た翡翠は、きよの父親がいないか、そっと家の中を覗き込んだ。そして、部屋の光景を見た翡翠は目を見開いた。
その頃、法眼と時子は法眼の実家にいた。家の中を掃除していると、弥彦が訪ねてきた。
「紅玉、また片づけを手伝いに来たぞ。差し入れも持って来た」
勢い良く扉を開いた弥彦は、開口一番そう言った。
「ああ、すまないな」
そう言って、法眼は弥彦からの差し入れを受け取る。木箱の中には、菓子が沢山入っていた。
「それと、これもどうだ?」
弥彦が、ニヤリと笑いながら徳利を差し出した。どうやら、上等な酒らしい。
「夜に頂くよ」
法眼も、悪い笑みを浮かべて言った。
徳利を眺めていた法眼は、ふと思い出して言った。
「そうだ。そう言えば、きよの家からも微かに酒の匂いがしてた。違和感の正体はこれだったんだな。あの父親は沢山酒を飲む印象が無かったから……」
法眼が言うと、弥彦はとたんに険しい顔になり、法眼の両肩を強く掴んだ。
「おい、紅玉、酒の匂いがしたって本当か!?」
「あ、ああ……それがどうかしたのか?」
戸惑いながら法眼が問い返すと、弥彦は唇を噛み締めて言った。
「……吉次さんはな……二年前に奥さんを亡くしてからしばらくの間、酒に溺れてきよに暴力を振るっていたんだよ」
「なっ……!!」
話によると、二年前たまたまきよの腕に痣があるのを見つけた弥彦達村の衆が、吉次を支えて酒を断たせたらしい。それからもそれとなく吉次やきよに目を配っていたが、吉次は一年以上酒を飲んでいないようなので、弥彦は安心していたのだ。
「それなのに家から酒の匂いがしているとは……吉次さんは最近商売が上手く行っていないと言っていたから、それでまた酒に溺れるようになったか……」
弥彦が呟くのを聞きながら、法眼は今までのきよの行動を思い返した。夜中に家を抜け出すきよ。翡翠の住む小屋から中々帰ろうとしないきよ。……まさか、いつも夜に暴力を振るわれていて、逃げる為にあの竹林に来ていたのか。
「……俺、今からきよの家に行って様子を見て来る」
「俺も行く」
「私も同行させて下さい」
そして法眼達が家を飛び出そうとした時、紙の姿をした法眼の式神が一体、ひらりと法眼の側にやって来た。式神達には、翡翠の見張りを頼んだはずだが。
「どうした?何かあったのか?」
法眼はそう言って手の平に式神を乗せた。そして、次の瞬間目を見開いた。
式神には、べったりと血が付いていたのだ。
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