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故郷8
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その夜、法眼と時子は光明の別邸で荷造りをしていた。明日は都へ帰るのだ。一通り荷造りが終わった後、法眼は縁側に腰掛け、無表情で月を眺めていた。
「……綺麗な月ですね」
法眼の隣に腰掛けた時子が、穏やかな声で話しかける。
「……そうだな」
「明日も晴れると良いですね」
「そうだな。……時子」
「何でしょう?」
「俺は……女の子一人を救う事も出来ない不甲斐ない男だが……それでも側にいてくれるか?」
「当然です。あなたが私から離れると言っても離れません」
「……ありがとう」
しばらく二人で月を眺めた後、法眼がポツリと言った。
「……翡翠に陰陽道を教えている間、本当に弟子が出来たみたいで、嬉しかったんだ」
「はい」
「翡翠には、幸せになって欲しかったんだ」
「はい」
「……死んでほしく……無かったんだ」
法眼の声は震えていた。時子は、そっと法眼の身体を抱き締めて言った。
「泣いて下さい。以前私が麗子様の件で落ち込んでいた時、法眼様は泣いて良いとおっしゃいました。法眼様も、泣いて良いのです」
「……ありがとう……」
法眼の衣に、涙がぽたりと落ちた。
◆ ◆ ◆
翌朝、法眼と時子は村を発つ前に弥彦の家に寄った。吉次の事件の後処理などを任せてしまったし、色々世話になったので、礼を言いに来たのだ。
「もう行ってしまうんだな。紅玉、向こうでも元気でな」
「ああ、ありがとう……なあ、弥彦」
「ん?」
「……翡翠が赤子の時に保護した人間って、お前だったんだな」
弥彦は、一瞬顔を強張らせたが、諦めたように笑って溜息を吐いた。
「……ああ、そうだ。あの子、赤子の時から手を握る力が強くてな。お前という前例もあるし、まさかと思って翡翠の頭を良く調べてみたんだよ。……そしたら、一見すると分からないくらいの小さな角があった。本当は喜作さんや小千代さんみたいに愛情深く育てられれば良かったんだろうけど、俺にはそんな度胸は無かったよ。あの小屋にこっそり差し入れをするくらいしか出来なかった」
「……それでも、翡翠は嬉しかったと思う」
「……ありがとう」
時子が、おずおずと口を挟んだ。
「あの……きよは、これからどうなるのでしょうか。父親を失ったのでしょう?」
弥彦は、微笑んで言った。
「きよは、遠くに住む親戚のところに行く事になりました。……あの時は気絶していたが、父親の死の真相には薄々気付いているようです。翡翠の事も、いずれ受け止められるようになるでしょう」
「そうですか……」
「……弥彦、色々世話になったな。今度またここに来るから、その時は一緒に酒でも飲もう」
「そうだな。……紅玉、幸せになれよ」
「ああ、ありがとう」
法眼と時子は、弥彦の家に背を向けて歩き出した。弥彦は、二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
「……綺麗な月ですね」
法眼の隣に腰掛けた時子が、穏やかな声で話しかける。
「……そうだな」
「明日も晴れると良いですね」
「そうだな。……時子」
「何でしょう?」
「俺は……女の子一人を救う事も出来ない不甲斐ない男だが……それでも側にいてくれるか?」
「当然です。あなたが私から離れると言っても離れません」
「……ありがとう」
しばらく二人で月を眺めた後、法眼がポツリと言った。
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「はい」
「翡翠には、幸せになって欲しかったんだ」
「はい」
「……死んでほしく……無かったんだ」
法眼の声は震えていた。時子は、そっと法眼の身体を抱き締めて言った。
「泣いて下さい。以前私が麗子様の件で落ち込んでいた時、法眼様は泣いて良いとおっしゃいました。法眼様も、泣いて良いのです」
「……ありがとう……」
法眼の衣に、涙がぽたりと落ちた。
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「もう行ってしまうんだな。紅玉、向こうでも元気でな」
「ああ、ありがとう……なあ、弥彦」
「ん?」
「……翡翠が赤子の時に保護した人間って、お前だったんだな」
弥彦は、一瞬顔を強張らせたが、諦めたように笑って溜息を吐いた。
「……ああ、そうだ。あの子、赤子の時から手を握る力が強くてな。お前という前例もあるし、まさかと思って翡翠の頭を良く調べてみたんだよ。……そしたら、一見すると分からないくらいの小さな角があった。本当は喜作さんや小千代さんみたいに愛情深く育てられれば良かったんだろうけど、俺にはそんな度胸は無かったよ。あの小屋にこっそり差し入れをするくらいしか出来なかった」
「……それでも、翡翠は嬉しかったと思う」
「……ありがとう」
時子が、おずおずと口を挟んだ。
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「きよは、遠くに住む親戚のところに行く事になりました。……あの時は気絶していたが、父親の死の真相には薄々気付いているようです。翡翠の事も、いずれ受け止められるようになるでしょう」
「そうですか……」
「……弥彦、色々世話になったな。今度またここに来るから、その時は一緒に酒でも飲もう」
「そうだな。……紅玉、幸せになれよ」
「ああ、ありがとう」
法眼と時子は、弥彦の家に背を向けて歩き出した。弥彦は、二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
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