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加茂昭子の一日 1
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加茂昭子は、とんでもない女だった。漢文や天文学、その他諸々の知識が豊富な上に、呪術まで使えた。そんな昭子も人の妻となり、子を成した。
今昭子は旅をしていて、都に帰る途中だ。同行しているのは、昭子と同じ位の年齢の侍女と、八歳になる息子の二人。牛車の中で、御簾の隙間から外を覗くと、鉛色の空と枯れ木ばかりが見える。
「寒くなって参りましたね」
侍女の夕顔が呟いた。
「そうだな。今度はもっと暖かい時期に来たいな」
昭子はそう答えると、隣に座る息子の光明を見た。光明は、夢中になって書物を読んでいる。八歳の子供が読むには難しい内容だ。
「私が言うのもなんだが、光明、旅にまで書物を持って来なくても良かったんだぞ」
「続きが早く読みたかったので、これで良いのです」
光明は、少しだけ釣り上がった目を細めて笑った。容姿といい、性格といい、誰に似たのやら。
そうこうしている内に、辺りが暗くなってきた。目の前には寺が見える。今夜は寺で一晩過ごす予定だ。
寺の前で牛車を降りると、三人は寺の中に入っていった。古くてあまり広くない寺だが、庭の木などは綺麗に手入れされている。
中に進んでいくと、人影が見えた。住職が、貴族の夫婦らしい二人と話している。二人も旅の途中なのだろうか。品の良い笑顔を住職に向けている。二人を本堂の方に案内した住職は、こちらの方に向き直った。
「お待たせ致しました。お泊りですね? こちらへどうぞ」
三十代くらいの年齢に見える不愛想な住職は、何故か昭子達三人を、本堂や講堂ではなく、住職の住まいである庫裏のような場所に案内した。
「何かございましたら、お呼び下さい」
「ありがとう」
昭子は、一言だけ言って微笑んだ。
しばらくして、横になっていた昭子は目を開けた。横では、光明と夕顔が寝息を立てている。昭子は、二人を起こさないようにして庫裏を抜け出し、本堂の方に向かった。
「うっ」
小さいながらも、呻き声が聞こえた。昭子は急いで本堂に駆け付け、障子を開ける。
本堂の中の光景を見て、昭子は目を見開いた。
住職が槍のようなもので胸の辺りを貫かれている。槍を持っているのは、先程見た貴族の男。男の口から、牙が覗いていた。
「……人を食う鬼だったか」
昭子は、苦虫を嚙み潰したような顔で呟いた。
貴族の二人を見かけた時から、二人が人ではない事には気付いていた。しかし、人を食う鬼かどうか遠目でわからず、二人の実力もわからない状況だったので、闇雲に騒ぐわけにもいかず、様子を見る事にしたのだ。今回は、それが裏目に出てしまったが。
住職は、昭子に気付くと、声を振り絞った。
「……逃げろ……早く……」
男の鬼が昭子の方に顔を向ける。昭子は素早く呪符を取り出して呪文を唱えようとした。
しかし、横から女の鬼が飛び出してきて、鎌のようなもので昭子を襲おうとする。女の髪は、いつの間にか白髪になっていた。
住職は渾身の力で男の鬼の手から槍を引き離すと、自らの身体に刺さった槍を引き抜き、女の鬼に向けて槍を投げた。槍は女の鬼に刺さり、一瞬女の動きが止まった。
その隙に昭子が呪文を唱えると、炎が出現し、男の鬼を焼き尽くした。
「よくも私の夫を……」
女の鬼は肩の近くに刺さった槍を引き抜くと、昭子を睨みつけた。
「……お前にも、家族を失う苦しみを味わわせてやる」
そう言うと、女の鬼は鎌で本堂の壁を壊し、素早く出ていく。庫裏に行く気だ。そこには、光明と夕顔がいる。
昭子は急いで追いかけた。
今昭子は旅をしていて、都に帰る途中だ。同行しているのは、昭子と同じ位の年齢の侍女と、八歳になる息子の二人。牛車の中で、御簾の隙間から外を覗くと、鉛色の空と枯れ木ばかりが見える。
「寒くなって参りましたね」
侍女の夕顔が呟いた。
「そうだな。今度はもっと暖かい時期に来たいな」
昭子はそう答えると、隣に座る息子の光明を見た。光明は、夢中になって書物を読んでいる。八歳の子供が読むには難しい内容だ。
「私が言うのもなんだが、光明、旅にまで書物を持って来なくても良かったんだぞ」
「続きが早く読みたかったので、これで良いのです」
光明は、少しだけ釣り上がった目を細めて笑った。容姿といい、性格といい、誰に似たのやら。
そうこうしている内に、辺りが暗くなってきた。目の前には寺が見える。今夜は寺で一晩過ごす予定だ。
寺の前で牛車を降りると、三人は寺の中に入っていった。古くてあまり広くない寺だが、庭の木などは綺麗に手入れされている。
中に進んでいくと、人影が見えた。住職が、貴族の夫婦らしい二人と話している。二人も旅の途中なのだろうか。品の良い笑顔を住職に向けている。二人を本堂の方に案内した住職は、こちらの方に向き直った。
「お待たせ致しました。お泊りですね? こちらへどうぞ」
三十代くらいの年齢に見える不愛想な住職は、何故か昭子達三人を、本堂や講堂ではなく、住職の住まいである庫裏のような場所に案内した。
「何かございましたら、お呼び下さい」
「ありがとう」
昭子は、一言だけ言って微笑んだ。
しばらくして、横になっていた昭子は目を開けた。横では、光明と夕顔が寝息を立てている。昭子は、二人を起こさないようにして庫裏を抜け出し、本堂の方に向かった。
「うっ」
小さいながらも、呻き声が聞こえた。昭子は急いで本堂に駆け付け、障子を開ける。
本堂の中の光景を見て、昭子は目を見開いた。
住職が槍のようなもので胸の辺りを貫かれている。槍を持っているのは、先程見た貴族の男。男の口から、牙が覗いていた。
「……人を食う鬼だったか」
昭子は、苦虫を嚙み潰したような顔で呟いた。
貴族の二人を見かけた時から、二人が人ではない事には気付いていた。しかし、人を食う鬼かどうか遠目でわからず、二人の実力もわからない状況だったので、闇雲に騒ぐわけにもいかず、様子を見る事にしたのだ。今回は、それが裏目に出てしまったが。
住職は、昭子に気付くと、声を振り絞った。
「……逃げろ……早く……」
男の鬼が昭子の方に顔を向ける。昭子は素早く呪符を取り出して呪文を唱えようとした。
しかし、横から女の鬼が飛び出してきて、鎌のようなもので昭子を襲おうとする。女の髪は、いつの間にか白髪になっていた。
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その隙に昭子が呪文を唱えると、炎が出現し、男の鬼を焼き尽くした。
「よくも私の夫を……」
女の鬼は肩の近くに刺さった槍を引き抜くと、昭子を睨みつけた。
「……お前にも、家族を失う苦しみを味わわせてやる」
そう言うと、女の鬼は鎌で本堂の壁を壊し、素早く出ていく。庫裏に行く気だ。そこには、光明と夕顔がいる。
昭子は急いで追いかけた。
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