【完結】追放S級鍛冶師、孤児たちと最強ギルドを作る

東野あさひ

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第26話「囁く影、揺らぐ炎」

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夜風が窓を叩く。王都の工房宿舎は静まり返っていたが、オリンの心は冷えきっていなかった。

灰狐商会からの脅迫文が届いてから、数時間が経った。

紙片はすでに炉に投げ込まれ、燃え尽きた。けれど、あの文言は灰になっても頭から離れない。

「次の競技では“王都のやり方”に従え。さもなくば、弟子の手足が無事で済むとは限らぬ」

オリンは小さく唸り、火を見つめた。

「火の前で、嘘をつくな……か」

呟いた声に応えるように、サーシャが隣に立った。

「どうかした?」

「……少し、風が強いだけだ」

言い訳のように、炉の炎に薪をくべる。サーシャはそれ以上何も言わず、並んで座った。

「……脅し、だよね。あれ」

「……見たか」

「フェンが先に気づいて、私にも見せたわ。グリトとライラには……まだ、知らせてない」

オリンは黙って頷いた。弟子たちに不安を与えるわけにはいかない。

「どうするつもり?」

「変わらん。俺は俺のやり方で戦う」

「無茶はしないで。あの子たちの命、守らなきゃいけないのはあなただけじゃない」

サーシャの言葉には、かすかに怒りが滲んでいた。

「私だって、工房の一員よ」

「……わかってる。ありがとう」

そう言って、オリンはようやく視線を彼女に向けた。サーシャの目は強く、真っ直ぐだった。

翌朝、二次競技が始まった。

競技会場には、昨日とは違う張り詰めた空気が流れていた。主催者席には、王都の有力商会の名士たちが顔を揃え、その中には灰狐商会の紋章をつけた男の姿もあった。

「二次競技の内容は――『陣営兵装の設計と鍛造』」

司会官が布をはらりとめくると、巨大な模型が現れた。

「課題は、この攻城兵器用の補助装備だ。持ち運び可能で、攻撃を受け流す盾装置を設計し、実際に一機製作せよ。評価対象は、機構の創意性・防御性能・量産性の三点とする」

会場がざわつく。これは、単なる鍛造技術だけでなく、設計力・補助器の構造・分業の効率も問われる――まさに総力戦だ。

「よし、いくぞ」

オリンは全体の図面を弟子たちに配り、指示を出し始めた。

「フェン、骨格と芯材の構築を。ライラ、衝撃吸収の装甲配置。グリト、可動式の展開装置を設計。サーシャ、外装と動作補助、任せた」

「了解!」

弟子たちは即座に動いた。頭をフル回転させ、制限時間内に最高の装備を生み出すために。

だが、その間にも不穏な視線を感じる。灰狐商会の男は、競技の合間にどこかへ連絡を取っていた。

(会場内に手を回す気か……?)

オリンは警戒を強めながらも、集中を切らさないようにしていた。

やがて完成した装備は、折り畳み式の多層盾だった。

展開時には前方に半円形の防御壁を作り、中央に設置された緩衝機構が衝撃を吸収する。裏側には、展開と撤収を自動化する補助器が内蔵されていた。

その動作を確認するデモンストレーションの時――事件が起きた。

グリトが手順通りに補助器を起動させたその瞬間、側面の部品が爆ぜるように弾け、火花が散った。

「グリトッ!」

ライラが叫んで駆け寄る。グリトはすんでのところで手を引いていたが、肩が火傷していた。

「大丈夫……っす、ちょっとだけ、焦げただけ……」

「装置に細工が――」

「俺が見落とした……!」

オリンが装置を確認すると、明らかに規格外のパーツが混入していた。

(搬入時にすり替えられたか……!)

審査員たちが騒ぎ始める。

「故障か? 安全性に問題が――」

「まさかこのような事故を起こすとは……」

だが、オリンは一歩前に出た。

「この装置は不正に部品を混入された可能性が高い。作業記録と、各部材の証拠は残っている。検証していただきたい」

その声は冷静で、炎のように揺るぎなかった。

審査官の一人が言った。

「……了解した。後ほど運営にて調査する。ただし、今回の評価には影響を及ぼすことになる」

フェンが悔しそうに歯を食いしばる。

「くそっ……あんなの、俺たちのせいじゃないのに!」

「でも、誰もケガしなかった。それだけで、今回は充分だよ」

グリトが笑う。サーシャも淡く笑って言った。

「火を見てきた目に、偽りの部品は映らない……そうでしょう?」

オリンは頷いた。

「……俺たちの火は、揺れても消えない」

日が傾く王都の空に、再び鍛冶の火が灯った。
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