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第29話「火を継ぐ者たちへ」
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王都の鍛冶大会――その最終審査で《工房ハルド》は堂々たる優勝を果たした。
だが、それは終わりではなく、新たな旅路の始まりでもあった。
表彰式を終え、騎士団や商会からの依頼が殺到しはじめる中、オリンと弟子たちは一時の安息を得ていた。
彼らは王都郊外の宿屋に滞在しながら、今後の工房運営や受注方針について話し合っていた。
「……にしても、すっごい量の注文だなぁ……」
グリトが表彰状とともに手渡された“注文希望リスト”を広げて、げんなりしたように呟いた。
「ほとんどが王都の貴族か、上級騎士ばっかりだよ。なんか……商売臭がすごい」
「うれしい悲鳴、ってやつかもな」
フェンが苦笑するが、その目はどこか曇っている。
「こんなに人が集まってくると、また“奪われるんじゃないか”って……ちょっと思っちまった」
その言葉に、場が少しだけ静かになった。
サーシャが、ゆっくりと口を開く。
「でも私たちは、火を見て、鍛えてきた。だからこそ、“欲しがられる”ようになったんだと思う」
「うん……そうだね」
ライラも頷く。
「でも、オリン先生がいなかったら、きっとこんなふうに思えなかった」
そして、全員の視線が、無言で鉄槌を磨いているオリンに集まった。
オリンは、それに気づいたのか気づいていないのか、ふとだけ視線を上げて言った。
「火は、渡せないが……種火にはなる。お前たちが望むなら、火床を分けてやることはできる」
「それって……独立?」
グリトが息を呑む。
「お前たちには、それぞれの火がある。使いたい炉も、打ちたい刃も、違う。それを、ここで押し込める必要はない」
弟子たちは目を見交わし、やがてサーシャが静かに答えた。
「でも、まだ……もう少し、ここで学びたいです。私は、“人の想い”が通じる刃を作れるようになりたいから」
「オレも。戦場で使える武器、もっといろんな形に挑戦したい」
「わたし、盾と防具、もっと深く極めたい! 魔術との連携も!」
「……じゃあオレは、支援器具と“鍛冶を楽にする道具”を作る」
オリンは静かに頷いた。
「ならば、それでいい。俺は火を消さぬ限り、ここにいる」
その瞬間、弟子たちの中で確かに“火”が継がれたのだった。
数日後――
王都の鍛冶職人協会から、正式な工房認可証が届いた。
《工房ハルド・王都支部》の開設である。
「し、支部って……マジかよ!」
フェンが騒ぎ、ライラが興奮気味に書状を振り回し、グリトが「ロゴマークどうする!?」と叫ぶ中、サーシャは静かに小さな声で呟いた。
「……これで、あの人たちにも勝てたのかな」
“あの人たち”――サーシャが追放された、王都学派の鍛冶術師たち。
無意味な格式に縛られ、“情”を持つことすら排してきた人々。
だが、彼女の目にはもはや迷いはなかった。
その日の夜、オリンは工房の裏手にある小さな焚き火の前で、一人、静かに座っていた。
そこへ、誰かが足音もなく近づいてくる。
「――久しぶりだな、火守(ひもり)」
低く、穏やかな声だった。
振り返ると、そこには仮面を外したヴォルグがいた。
「お前……生きていたか」
「火が、まだ消えてなかったからな」
二人は言葉少なに火を見つめ合う。
「ここまで来たか。お前も、“鍛冶師”として、火を継いだんだな」
「……いや、俺はまだ“父の火”に追いつけていない」
「それでも、お前の火は確かに“誰か”を動かしている」
しばしの沈黙。
そして、ヴォルグが小さく笑う。
「――また、火の前で語らおう。今度は弟子たちも交えてな」
「……ああ」
灰狐商会の背後にある闇は、まだ完全に晴れたわけではない。
だが、《工房ハルド》には、未来があった。
それぞれの火が、これから誰かを照らすために。
だが、それは終わりではなく、新たな旅路の始まりでもあった。
表彰式を終え、騎士団や商会からの依頼が殺到しはじめる中、オリンと弟子たちは一時の安息を得ていた。
彼らは王都郊外の宿屋に滞在しながら、今後の工房運営や受注方針について話し合っていた。
「……にしても、すっごい量の注文だなぁ……」
グリトが表彰状とともに手渡された“注文希望リスト”を広げて、げんなりしたように呟いた。
「ほとんどが王都の貴族か、上級騎士ばっかりだよ。なんか……商売臭がすごい」
「うれしい悲鳴、ってやつかもな」
フェンが苦笑するが、その目はどこか曇っている。
「こんなに人が集まってくると、また“奪われるんじゃないか”って……ちょっと思っちまった」
その言葉に、場が少しだけ静かになった。
サーシャが、ゆっくりと口を開く。
「でも私たちは、火を見て、鍛えてきた。だからこそ、“欲しがられる”ようになったんだと思う」
「うん……そうだね」
ライラも頷く。
「でも、オリン先生がいなかったら、きっとこんなふうに思えなかった」
そして、全員の視線が、無言で鉄槌を磨いているオリンに集まった。
オリンは、それに気づいたのか気づいていないのか、ふとだけ視線を上げて言った。
「火は、渡せないが……種火にはなる。お前たちが望むなら、火床を分けてやることはできる」
「それって……独立?」
グリトが息を呑む。
「お前たちには、それぞれの火がある。使いたい炉も、打ちたい刃も、違う。それを、ここで押し込める必要はない」
弟子たちは目を見交わし、やがてサーシャが静かに答えた。
「でも、まだ……もう少し、ここで学びたいです。私は、“人の想い”が通じる刃を作れるようになりたいから」
「オレも。戦場で使える武器、もっといろんな形に挑戦したい」
「わたし、盾と防具、もっと深く極めたい! 魔術との連携も!」
「……じゃあオレは、支援器具と“鍛冶を楽にする道具”を作る」
オリンは静かに頷いた。
「ならば、それでいい。俺は火を消さぬ限り、ここにいる」
その瞬間、弟子たちの中で確かに“火”が継がれたのだった。
数日後――
王都の鍛冶職人協会から、正式な工房認可証が届いた。
《工房ハルド・王都支部》の開設である。
「し、支部って……マジかよ!」
フェンが騒ぎ、ライラが興奮気味に書状を振り回し、グリトが「ロゴマークどうする!?」と叫ぶ中、サーシャは静かに小さな声で呟いた。
「……これで、あの人たちにも勝てたのかな」
“あの人たち”――サーシャが追放された、王都学派の鍛冶術師たち。
無意味な格式に縛られ、“情”を持つことすら排してきた人々。
だが、彼女の目にはもはや迷いはなかった。
その日の夜、オリンは工房の裏手にある小さな焚き火の前で、一人、静かに座っていた。
そこへ、誰かが足音もなく近づいてくる。
「――久しぶりだな、火守(ひもり)」
低く、穏やかな声だった。
振り返ると、そこには仮面を外したヴォルグがいた。
「お前……生きていたか」
「火が、まだ消えてなかったからな」
二人は言葉少なに火を見つめ合う。
「ここまで来たか。お前も、“鍛冶師”として、火を継いだんだな」
「……いや、俺はまだ“父の火”に追いつけていない」
「それでも、お前の火は確かに“誰か”を動かしている」
しばしの沈黙。
そして、ヴォルグが小さく笑う。
「――また、火の前で語らおう。今度は弟子たちも交えてな」
「……ああ」
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それぞれの火が、これから誰かを照らすために。
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