【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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5章

62話「余命の告白」

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 春の朝の空気は、昨夜の祭りの余韻をほのかに残しながら、砦にも村にも静けさを運んでいた。
 広場の片隅では、子どもたちが新しく見つけた“奇跡の花”の苗を囲み、「早く咲かないかな」と声を弾ませている。
 砦の窓から外を見つめるノクティアは、胸の奥にもう一つの“芽吹き”を感じていた。

 (私は、そろそろみんなに……本当のことを伝えなくてはならない)

 手のひらの中には王都から届いた手紙。
 “余命は春を越せるかどうか”――あの日から、ノクティアの時間は静かに流れてきた。
 けれど、今はもう一人で抱えてはいけないと、心の奥で確かに思えた。

    * * *

 昼前、ノクティアは思い切って、エイミーとレオナートを砦の医務室に呼んだ。
 春の日差しが窓から差し込み、白いカーテンが柔らかく揺れている。

 「どうしたんですか、ノクティアさん? 何か、体のことで……?」

 エイミーが真っ先に心配そうに声をかける。
 レオナートも静かな目でノクティアを見守っていた。

 ノクティアは、ゆっくりと椅子に腰かけ、手紙を両手で包み込むように握った。

 「……ふたりには、ずっと黙っていたことがあります。
 本当は、もっと早く伝えるべきだったのだけど……」

 喉が詰まり、しばらく言葉にならなかった。
 それでも、目の前の二人がいてくれることが勇気をくれた。

 「私……王都の医師から余命を告げられていました。
 もう、春を越すのがやっとかもしれない、と……」

 エイミーは、顔色を変え「そんな……」と息をのんだ。
 レオナートも驚きに目を見開き、拳を膝の上で固く握った。

    * * *

 「ずっと、一人で悩んで、怖くて……
 みんなには心配をかけたくなかった。
 でも、もう隠していられないと思ったんです。
 もし私に何かあったとき、砦や村が困らないように、みんなに心の準備をしてほしくて……」

 ノクティアの声は震えていた。
 エイミーは泣きそうな顔で首を振る。

 「そんなの、絶対に――絶対に、ノクティアさんを失いたくありません!」

 レオナートも深く息をついて言葉を継いだ。

 「ノクティアさん……俺たちは、ここまであなたに支えられてきた。
 でも、あなたがいなくなってしまうなんて、考えたくもない。
 ……どうしたらいいんですか?」

 ノクティアは涙をこらえつつ、小さく微笑んだ。

 「ありがとう。ふたりとも……
 でも、私の命が尽きるまで、まだやれることがあると思うの。
 私がいなくなった後も、砦や村のみんなが笑って過ごせるように――」

 その時、エイミーが突然ノクティアの手をぎゅっと握った。

 「ノクティアさんがいないなんて、絶対に嫌です。
 奇跡の花があるじゃないですか! 
 あのお花が咲けば、きっと、何かが起きる気がするんです!」

    * * *

 ちょうどそのとき、花探し隊の子どもたちが医務室に駆け込んできた。
 「ノクティア様、大変! 奇跡の花の苗に、村の巫女様が来てくれたよ!」

 慌てて外に出ると、広場では村の巫女が、奇跡の花の苗の前で静かに祈りを捧げていた。
 みんなが息をひそめて見守る中、巫女はそっと語りかける。

 「この花は、“真実の願い”にだけ応えて咲く花。
 心からの祈りと、仲間の絆があれば――きっと花開くはずです」

 エイミーもレオナートも、子どもたちも顔を見合わせ、
 「じゃあ、みんなで一緒にお願いしようよ!」と声を合わせた。

 ノクティアは思わず涙ぐみながら頷く。

 「私も、みんなの幸せを――心から願うわ」

 エイミーが「ノクティアさんが生き続けられるように、絶対に諦めません!」と宣言し、
 レオナートも「俺たちがいる限り、希望は消えません」と力強く続ける。

 砦の大人たちも、村の子どもたちも次々と「ノクティア様が元気でいられますように」「みんなで春を迎えられますように」と祈りを重ねる。

    * * *

 その日の夕暮れ、ノクティアは奇跡の花の苗の前で、エイミーやレオナート、カイラス、子どもたちと手を取り合っていた。

 (私は、一人じゃない。
 みんなの祈りと優しさが、きっと明日の希望になる)

 心の中に静かな決意が灯った。

 「みんな、本当にありがとう。私は、こんなにたくさんの想いに包まれて幸せです。
 だから最後まで、ちゃんと“生きる”ね。みんなのために――自分のために」

 奇跡の花の苗は、まだ蕾のまま。
 けれど、その葉は春の陽射しの中で小さく揺れていた。

 (この花が咲くとき、きっと“本当の奇跡”が訪れる――)

 希望に満ちた静かな祈りが、砦と村に優しく降り注いでいた。
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