転生悪役令嬢、現代に転生したら学園の女王になってました!? 〜スマホって何ですの!?まずはそこから教えてくださいまし〜

HARy

文字の大きさ
1 / 20
異世界令嬢、現代に爆誕!

悪役令嬢、目を覚ましたら現代でしたの!?

しおりを挟む
 王城の大広間には、華やかな音楽も舞踏もなかった。

 夜会用に敷かれた深紅の絨毯の中央で、ひとりの令嬢がひざをつき、静かに頭を垂れている。

 彼女の名は――リリアーナ=フォン=エーデルワイス。
 高貴なる血筋にして、王国でも屈指の大貴族の娘。

 その姿に、誰もがかつては憧れ、恐れ、そして――いま、糾弾している。

「王太子殿下への侮辱、婚約の破棄、毒の所持……これらの罪、間違いないですな?」

 冷たく響く、侍従長の声。
 重々しい問いに、答えたのは、彼女自身ではなかった。

「間違いありません。私の目で確認いたしました」

 口を開いたのは、銀髪の青年。王太子・グレウス。
 幼きころより政略で繋がれた婚約相手であり、かつては「お前しかいない」と微笑んだ男である。

(あら、まるで――劇の台本みたいですわ)

 リリアーナはゆるやかに顔を上げた。
 群衆の視線が、一斉に自分へと集まる。
 怯え、憐れみ、優越、怒り、さまざまな感情が交錯しながらも、すべてが“終わり”を告げる目だった。

「私は……否定しませんわ」

 場がざわめく。
 グレウスが軽く目を見開いた。演技ではない、本物の驚き。

「私が毒を所持していたのも、あなたに恥をかかせたのも、事実。ええ、きっと、そういうことになっているのでしょう」

「リリアーナ……っ」

「でも、ひとつだけ違いますわ。私は、あなたを――本気で、お慕いしていましたわ」

 沈黙が支配する。
 次の瞬間、王太子の傍らにいた黒髪の少女――伯爵令嬢のソフィーナが、絹のドレスを揺らして前に出た。

「今さらそんなことを言っても無駄よ、リリアーナ様。あなたの悪事はすべて明るみに出たの。残るは、裁きのみ」

 涼やかな微笑と、勝利の色を浮かべた目。
 ……ああ、やはり。
 この瞬間すら、完璧に演出された“物語”の一部なのだ。

(ふふ、いいえ――最後くらい、私が主役であってよ)

 リリアーナは立ち上がる。
 体中に走る痛み。息も絶え絶え。だが、背筋は一寸も曲がらない。

「わたくしが、すべての罪を背負いましょう。この国の秩序のために。あなた方の正義のために」

 彼女は、王太子とソフィーナを交互に見据え、最後に微笑んだ。

「でも、せめて覚えておいていただきたいの。わたくしは――この国で、誰よりも強く、気高く、美しく生きていたということを」

 それは、悪役令嬢としての最後の演説だった。

「リリアーナ=フォン=エーデルワイス。王国法第十六条に基づき、貴族位剥奪、全財産の没収、および幽閉処分とする」

 判決が下された。
 会場には静寂が落ちる。誰も、何も、もう語らなかった。

 ――ただひとり、リリアーナを除いて。

(これが、わたくしの終わりならば……)

(生まれ変わっても、きっと、わたくしは――)

 思考がふっと、闇に吸い込まれていく。
 その最期の瞬間、彼女は願った。

「もう一度だけ、笑って……誰かと手をつなぎたかった」

 その願いが、神に届いたのか、あるいは気まぐれか――
 リリアーナの世界は、音もなく、幕を閉じた。

 ……そして、まったく異なる音が、彼女を迎え入れる。


 ***


 ピ――……ピ――……

(……なにかしら、この……音)

 遠くで、何かが鳴っている。無機質な電子音。

(暗い……けれど、温かい。痛いはずなのに……肌が柔らかい……?)

 瞼を開こうとして、ようやく気づく。

 ――ああ、わたくし、まだ生きているのですわね?
 意識が、再び“この世”に繋がれた。

 規則的に鳴る電子音。
 機械音に目を覚ましたリリアーナは、ぼんやりとした視界の中、真っ白な天井を見上げていた。

「……神殿?」

 それが、第一声だった。
 どこかの治癒院かと思ったが、空気が違う。魔力の流れがない。代わりに、妙にツンとする消毒液の匂いが鼻をついた。

「身体が……重い……」

 ベッドに寝かされている自分の身体を確認しようとするが、なにやら手首に細い管が刺さっている。

「……!? な、な、なにこれ!? 血が! 吸われて……!? 錬金術!? それとも、儀式の準備ですの!?」

 慌てて身を起こそうとするが、点滴チューブが引っ張られて痛みが走る。
 その瞬間、ガラリと扉が開いた。

「きゃー!? えっ、何!? 何かあった!?」

 入ってきたのは、白衣を着た若い女性――看護師だった。
 彼女は慌てて駆け寄ってきて、慣れた手つきでチューブを押さえる。

「江戸川さん、落ち着いてください! 大丈夫です、今は病院ですから!」

「エドガワ……?」

 リリアーナは、眉をひそめる。

「どなたのことかしら……? わたくしは、リリアーナ=フォン=エーデルワイス――あっ……?」

 言いかけて、口を押える。

(――いえ、違う……この名前、どこかで……聞いた気が……)

 リリアーナの中で、ふたつの記憶が揺れていた。

 一つは断罪された悪役令嬢としての自分。
 もう一つは、“江戸川りりあ”という名前を与えられた、この世界の存在。

「頭を打って、記憶が混乱してるのかもしれませんね……でも安心して。先ほどご両親がお見えになったわよ」

「……わたくし、本当に……生きているの?」

 リリアーナは呟いた。

 冷たい石の床ではなく、ふかふかの寝具に包まれ、やさしい人間に囲まれている。
 それはあまりに、異世界の終末とはかけ離れていた。

 そこへ、扉の向こうから声が響いた。

「りりあぁ! 起きたって!? 本当に!?」

 駆け込んできたのは、現代の“両親”だった。
 涙を浮かべた女性が抱きつこうとし、リリアーナは一瞬、肩をすくめる。

(……母親、ですの?)

 違和感はある。だが、その手の温もりは、確かだった。

「な、泣かないでくださいまし……わたくし、どうやら無事のようですわ」

「うん……よかった、りりあ……。ほんと、よかった……」

 そう言って涙ぐむ“母”に、リリアーナは戸惑いながらも微笑んだ。

(こんなに、あたたかい人が……? わたくしに?)

 そのとき、父親らしき男性がやってきて、医師と話しながらこう言った。

「急に倒れて頭を打ったもんだから、慌てたよ。後で検査して特に問題がなければ、明日には退院できますって。制服も用意してあるから、問題がなければ明後日から学校に登校できるよ」

「――……学校?」

 リリアーナは小さく反応した。

(また“学園”に通うのですの!?)

 政略と見栄と派閥争いにまみれた、あの地獄のような寄宿学園の記憶がよみがえる。

「わたくし、そこには……いえ、参ります。覚悟は、できておりますわ……!」

 唐突な決意に、家族は「?」という顔をしたが、それ以上は何も聞かなかった。


 * * *


 退院当日。両親が手渡してきた制服の袋を開いた瞬間――

「な……ななななな、なにこれぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」

 病棟の天井が割れそうな勢いで、リリアーナの悲鳴が響いた。

「この丈、この露出、この布の薄さ……っ! これを着ろと!? 正気ですの!? この国は貞操観念が滅びてますの!?」

 両親は苦笑しながら、「りりあが着たいって言ったんだよ」とだけ返す。

 その言葉にリリアーナは絶望する。

「そんな……っ。みんな、こんな“下着のような布”で学園に通っているというのですの!?」

 白いブラウスに、赤いリボンタイ。チェックのスカートは膝上十センチ。
 かつての彼女が生きた世界なら、それは”夜会用の舞台衣装”である。

「ですが……決まった以上は、逃げられませんわね……。受けて立ちます。この現代という名の戦場を……!」

 どこかで鳴ったチャイムに背を押されるようにして、リリアーナ=江戸川りりあは、ゆっくりと制服に袖を通すのだった。

「ぬぅ……っ、肩が、すーすーしますわ……っ……!!」

 頬を赤くしながら、戦地に向かう騎士のように立ち上がる。
 明日から通う“学園”という名の新たな舞台。
 そこで彼女は――思いもよらぬ“女王”としての地位を築き上げていくのだが、それはまた別の話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

処理中です...