転生悪役令嬢、現代に転生したら学園の女王になってました!? 〜スマホって何ですの!?まずはそこから教えてくださいまし〜

HARy

文字の大きさ
6 / 20
異世界令嬢、現代に爆誕!

わたくし、初めての恋バナでしてよ!

しおりを挟む
 昼休み、教室の隅。
 女子グループが机をくっつけて、お弁当を広げていた。

 そこには、リリアーナの姿もあった。

「りりあちゃ~ん! 今日はね、ウチらで“恋バナ”するから、覚悟してな!」

「コイバナ……? お魚の話ですの?」

「違う! 恋バナ! “恋愛話”の略!!」

 ほのかの宣言に、周囲の女子たちは「うわきた~!」「やっぱりお題それ!?」「誰から話す!?」と盛り上がる。

(……こ、これが……庶民女子による“情報戦”……!)

 リリアーナは警戒を強めた。

 異世界の貴族社交では、“恋話”とは裏切りと政略の温床。
 誰が誰を狙っているのか、誰が嘘をついているのかを見抜き、立ち回らねば命取りだった。

「じゃあまずはウチから~。今気になってるのはねぇ……隣のクラスの先輩♡」

「まじ!? あのバンドマンっぽい人?」

「そうそう! この前、傘貸してくれてさ~、神だった!」

「やば~それ告白案件じゃん!」

 リリアーナはそれを聞きながら、ふと思った。

(気になる、という感情。心がふわっとして、顔が熱くなって、言葉がうまく出てこなくなる感覚……)

「……!?」

 自分の中に、それに“似たもの”があることに、気づいてしまった。

(ま、まさか……!?)

「ねえ、りりあちゃんは? 今、好きな人とかいないの~?」

 ほのかの問いに、リリアーナはピクッと反応する。

「わ、わたくし!? い、いえ、そのような……わたくしにとって“恋”など、軽薄な……っ!」

「ちょっ、動揺してない!? 今、目ぇ泳いだよね!?」

「泳いでませんわ!! わたくしは水上での競技は専門外ですの!!」

「も~~~これはいるってやつだよ~~~!!」

 女子たちが「えっ誰!?」「誰なの!?」「朝倉くんじゃね!?」とざわつき始める。

「ま、まってくださいまし!? そのような、わたくしが、あの不遜な庶民男子などに――」

 (……でも、思い出してみれば……)

 ・スマホの通知で名前を見たときに、胸が跳ねた
 ・スタンプ一個で、心臓が爆発しそうになった
 ・“喋らなくてもおもろい”と言われたとき、なぜか嬉しかった

「――ッ!!」

 全部、朝倉蓮に関わることだった。

「……う、うそですわ。そんな、そんな、ありえませんの……!」

「はい来た! これは完全に恋です!!」

「お認めなさいなりりあ姫! あなた、恋してるのよ!!!」

「ちがいますのちがいますのちがいますのちがいますのぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 リリアーナ、机に顔を埋めて絶叫。

「これは陰謀ですわ! 心を惑わす魔術ですわ!! 理性が崩壊してますの!!」

 女子たちの間に爆笑が起こる。

「りりあちゃん、ほんっっっとおもろい!!」

「尊い……語彙が貴族すぎて恋愛脳になってないの好き」

「がんばれ姫、恋の攻略ルート突入~!!」

 その中で、リリアーナだけが本気で頭を抱えていた。

(な、なぜ……わたくしが……“あの男”などに……!?)

 でも、胸に芽生えてしまった感情は、否定できない。

 恋とは。
 自覚した瞬間、もう後戻りできないものなのである。


 ***


 放課後の西日が、校舎の裏側を金色に染めていた。
 リリアーナは人気のないその場所で、一人、ため息を吐いていた。

「……恋、ですの?」

 小さくこぼれた声は、誰にも届かない。
 胸の奥でざわつく感情。動悸、火照り、目線の彷徨――どれも彼女にとって未知のものだった。

「なぜ……よりによって、あの男……」

 朝倉蓮。皮肉屋で、素っ気なくて、でも時々、核心を突く。
 無遠慮なのに、不思議と目を逸らせない。

「はあ……こんな気持ち、初めてですわ……」

 そのとき、背後から足音。

「……お前、またひとりでうなだれてんの?」

 聞き慣れた、低い声。
 振り向かずとも、誰かはわかる。

「……庶民のくせに、なぜこうも空気も読まず接近してきますの……」

「その物言い、いつもブレないな」

 蓮がリリアーナの隣に立つ。
 無言の時間が数秒流れた。

「……なによ。用がないなら話しかけないでくださいまし」

「いや、用はあるよ」

 リリアーナが振り返る。蓮は、真面目な顔で続けた。

「……お前、最近テンパってんな」

「な……っ!」

 図星だった。
 リリアーナは顔を赤くしながら、ぷいと顔を逸らす。

「テンパってなどおりませんわ! これは、単なる、情報過多による混乱ですの!!」

「それを“テンパる”って言うんだけどな」

「~~~~っ!! う、うるさいですわね!!」

 しばし、沈黙。
 リリアーナがふと目を伏せた。

「……あなたのせい、ですのよ」

「……は?」

「わたくしを混乱させるのは、いつもあなた。スタンプでも、言葉でも、表情でも……。あなたという存在、意味がわかりませんの!」

 感情があふれた。思わず、口に出ていた。

 すると蓮は、ふっと笑って――

「そっか。じゃあ、俺が責任取るわ」

「……え?」

 リリアーナは時が止まったように固まった。

「お前、俺のせいでテンパってるんだろ? なら、俺が面倒見る」

「…………っ」

「だから、困ったら言えよ。“よろしくて?”でもなんでも」

 ――静かな沈黙の中。
 リリアーナの顔が、一気に真っ赤になった。

「な、なな、なななな、なにを言ってますの!?!?!?」

「事実言っただけだけど?」

「無自覚にわたくしの心をえぐるとは、あなた魔性の男子ですの!?」

「その称号、ありがたくもらっとくわ」

 呆れながらも、蓮は軽く手を振って去っていく。
 リリアーナはしばらくその背中を見つめたまま、動けなかった。

(こ、これは……この心の揺れは……やはり、恋……!?)

 その夜。
 ほのかにこの話を報告すると、彼女は机を叩いて叫んだ。

「スタンプで告白するより効くやつじゃんそれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 リリアーナはうつ伏せで顔を隠しながら、震える声でつぶやいた。

「わたくし……庶民の恋に、完全に巻き込まれておりますの……!」

 姫様、今日も心の中は大暴走中だったのだ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

処理中です...