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私、ジュリエット・フォン・シュタインハイムは、婚約者だったシリル・フォン・ベルクハイト伯爵との婚約破棄の原因を知るべく、エドワード卿のもとを訪ねた。

彼は心なしかやるせない表情をしながらも親切に丁寧に語ってくれた。

そして私は彼の口から語られたその事実に衝撃を受けた。

そもそも彼は最初から私のことを愛していなかったというのだ。私が信じていた愛は、全て幻想にすぎなかったのだろうか。そんなことは思いたくもないが、でも腑に落ちてしまった。エドワード卿が全てを赤裸々に話してくれたおかげで、彼が私を利用する計画に納得したのだ。

「そういうことでしたのね……」

しばらくぼーっとして、静かな時間を過ごした。

「落ち着きましたかね? なんて訊くのは野暮かな。裏切られたという事実にジュリエットが落ち込むのは仕方がない。私も申し訳なく思うよ。立場上何もできなくてねぇ……。だから君にヒントをあげよう。その首にかけたペンダント。それはジュリエットのためにアンナが残したものだろう。彼女とはすごく親しい仲だったよ。優秀な魔法剣士だった」


「なるほど。よくご存知で……アンナお婆様は私の家系でも特殊な立場にいらっしゃいました。けれど、貴族としての地位以上に彼女の魔法剣士としての実力は確かなものだったと、聞いております」

「ああ、そのとおりだったよ。ーーそれが答えだ。魔法剣士になりなさいジュリエット」




私は婚約破棄をされたことによって、人生が暗転した気でしばらく過ごしてきた。

けれど、真実を知ったからこそ自由を手に入れられる。そんな気さえするようになった。


私は裏切られたのだ。ならばもう悩む必要はなかろう。


元婚約者に心を壊された私は、自分自身の幸福についてよく考えた。

それが今後の人生にとってなによりも大切なことになると確信していたからだ。

自分自身の運命を切り開くという意味でも、魔法剣士になることを決意した。

以前は、貴族の娘として生まれたことに誇りをもってさえいたけれど、今となってはそんなものお飾りに過ぎない。身分ではなく私は私自身を選んだ。

アンナお婆様のような素敵な方に私もなりたい。

その決意を胸に私は新たな人生に大きな一歩を踏み出すことにした。

自由と、そして自身の幸福を求めて。
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