婚約者様、勝手に婚約破棄させていただきますが、妹とお幸せにどうぞ?

青杉春香

文字の大きさ
5 / 50
本編-1ヶ月前-

1-4

しおりを挟む
馬車で移動しはじめてから、しばらく経った。

生憎、時計は持ち合わせてはいないけれど、所有しているかなり広い領地の外に出たということはそれなりに進んだということだ。

緑が鮮やかに生い茂る森の中からレンガ造りの住宅街へと景色も変わった。

「街にも着いたようだし、移動しながらでいいから少しお話をしませんかアルゴ」

いつもより少し声を張って、彼女に問いかける。

「アマンダ様が今日は珍しく静かでしたもんね。何かあったのですか?」

「それは遠回しにうるさいと言っているのかしら?」

「まさか、そんなことはないとは言い切れませんけれど……」

アルゴはこのとおり、正直者だ。

故に、失礼な発言をすることもあるけれど、それは私たちの関係が良好という印でもある。

あくまでアルゴの担当はチェルシーだけれども、私とも仲が良い。

もっとも、うちの使用人たちは私たち姉妹とも他の使用人たちとも、皆仲が良い。

「アルゴは、知ってるかしら? ライダ様の件について」

「ライダ様に何か?」

「チェルシーから何も聞いていないのかしら?」

「そうですね。ライダ様に関係することは何一つ」

チェルシーは本当に私にしか、あの秘密を言ってなかったようだ。

それか、チェルシーがアルゴに口止めをさせているのか。

「最近、チェルシーの様子でおかしなところはなかったかしら?」

「確かになんだか悩んでおられるように見えました。どこか落ち着かない様子で、話をしていても上の空というべきか……チェルシー様とライダ様に何かあったのです?」

アルゴはやや馬車の速度を緩める。

「いいえ、特には。ただ、私からみてもチェルシーの様子がおかしかったから気になっただけよ」

「そうですか……では、今ライダ様の屋敷に向かっているのも?」

流石に勘が鋭い。何かを察しているようだ。

「えぇ、そうね。何かありそうだもの」

「なるほど……。それでは私も手を貸しましょう」

「……アルゴ?」

「チェルシー様に何か危害が及ぶようなことであれば止めなければなりませんし、アマンダ様も何か言いづらいことがあるようですし」

その声はいつもよりトーンが低かった。


想像とは裏腹にチェルシーのことで引き出せた情報はなかったけれど、これは大きなチャンスになりそうな予感がした。

「アルゴ。少し速度をあげましょう」

「えぇ。アマンダ様」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?

四季
恋愛
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?

妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルリアは、婚約者の行動に辟易としていた。 彼は実の妹がいるにも関わらず、他家のある令嬢を心の妹として、その人物のことばかりを優先していたのだ。 その異常な行動に、アルリアは彼との婚約を破棄することを決めた。 いつでも心の妹を優先する彼と婚約しても、家の利益にならないと考えたのだ。 それを伝えると、婚約者は怒り始めた。あくまでも妹のように思っているだけで、男女の関係ではないというのだ。 「妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?」 アルリアはそう言って、婚約者と別れた。 そしてその後、婚約者はその歪な関係の報いを受けることになった。彼と心の妹との間には、様々な思惑が隠れていたのだ。 ※登場人物の名前を途中から間違えていました。メレティアではなく、レメティアが正しい名前です。混乱させてしまい、誠に申し訳ありません。(2024/08/10) ※登場人物の名前を途中から間違えていました。モルダン子爵ではなく、ボルダン子爵が正しい名前です。混乱させてしまい、誠に申し訳ありません。(2024/08/14)

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました

柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。 「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」 「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」  私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。  そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。  でも――。そんな毎日になるとは、思わない。  2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。  私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。

Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。

「仕方ないから君で妥協する」なんて言う婚約者は、こちらの方から願い下げです。

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるマルティアは、父親同士が懇意にしている伯爵令息バルクルと婚約することになった。 幼少期の頃から二人には付き合いがあったが、マルティアは彼のことを快く思っていなかった。ある時からバルクルは高慢な性格になり、自身のことを見下す発言をするようになったからだ。 「まあ色々と思う所はあるが、仕方ないから君で妥協するとしよう」 「……はい?」 「僕に相応しい相手とは言い難いが、及第点くらいはあげても構わない。光栄に思うのだな」 婚約者となったバルクルからかけられた言葉に、マルティアは自身の婚約が良いものではないことを確信することになった。 彼女は婚約の破談を進言するとバルクルに啖呵を切り、彼の前から立ち去ることにした。 しばらくして、社交界にはある噂が流れ始める。それはマルティアが身勝手な理由で、バルクルとの婚約を破棄したというものだった。 父親と破談の話を進めようとしていたマルティアにとって、それは予想外のものであった。その噂の発端がバルクルであることを知り、彼女はさらに驚くことになる。 そんなマルティアに手を差し伸べたのは、ひょんなことから知り合った公爵家の令息ラウエルであった。 彼の介入により、マルティアの立場は逆転することになる。バルクルが行っていたことが、白日の元に晒されることになったのだ。

処理中です...