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オメガの母親
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「い……いらっしゃいませ」
なんと声をかけたら良いのかわからなくて、純はとりあえず、形式通りの挨拶を告げた。
高貴さんの母親だというその男は、年配ながら整った顔つきをしていた。
こまめに染めているのであろう黒髪は、白髪はもちろんのこと、1本のほつれも傷みもなく艶めいている。
小柄でほっそりした体を萌葱色の着物で包んでいて、どことなく上品な物腰は高貴さんに似ていた。
「ねえ、高貴……」
高貴さんの母親は純たちには一瞥もくれず、何か言いたげな様子で、高貴さんにせまってきた。
「母さん、わかったから。ごめん、みんな、しばらく話し合うから、店番頼んだよ。すぐ戻るからね。ほら、こっちに来て」
高貴さんの母親は、言われるままに高貴さんの後について、奥へ入っていった。
「何の話し合いかな?」
「すげー泥沼展開してそう。こりゃ長くなるかもなー」
純と仁志はヒソヒソ話し合ったが、長田さんに「こら、2人とも!」と言われて、あわてて仕事に戻った。
すでに客が何人か来ているし、今は店長の母親どころではない。
仁志の言うとおりに話は長引くものと予想していたが、高貴さんのお暇は思いの外短かった。
「失礼するよ!こんなとこ2度と来ないから!!」
あからさまに憤慨した様子で、母親が出てきたのだ。
あまりの剣幕に、純も仁志も長田さんも客も驚き、ぽかんとした顔をした。
「うん、2度と来ないでねー」
足早に店を去っていく母親の背中に向かって、高貴さんはひらひらと手を振った。
「……どうしたんですか?」
長田さんが高貴さんに歩み寄ってくる。
そばの席に座っていた客は、カレーをすくったスプーンを空中で止めたまま、呆然とこちらを見つめている。
「日菜乃ちゃんが皿に山盛りのスクランブルエッグ出して、母親が怒ったの」
「ああ……」
その場にいた全員、「なるほど」と納得いくような顔をした。
高貴さんの父親が若い頃、戯れに「男体盛りがしたい」と言って、母親の腹に焼きたてのスクランブルエッグを置いたところ、あまりの熱さに母親は悲鳴をあげて暴れ、父親のアゴを蹴飛ばしてしまったのだという。
これは高貴さんがしょっちゅう話す笑い話で、大貴や母親が来ると「スクランブルエッグ食べる?」とひやかすこともある。
「譲さんが悪いんじゃない。来て早々「こんな店さっさと畳んでおじいさんの会社継いだほうがいい」だもの」
日菜乃さんが気だるげな様子でエプロンの位置を直しながら、奥から出てきた。
この人はいつも、どこかアンニュイな雰囲気を漂わせている。
「譲さん…?」
「母さんの名前だよ」
日菜乃さんに続くようにして、高貴さんがエプロンの紐をくくり直した。
「日菜乃さん、名前で呼んでるってことは、知り合いなんですか?店長のお母さんと……」
「え?これ、言ってなかったかな?」
高貴さんがカクッと首を傾げた。
40近い男がこれをすると、可愛らしいというよりシュールさが勝つ。
「あー…ジュンちゃん、あのね、日菜乃さんって、店長の妹さんなの」
「え⁈でも、苗字が違いません?」
仁志の言葉を聞いて、純はぐるんっと首を動かして、日菜乃さんの方を見た。
「母親が違うもの」
純の動揺も構わず、日菜乃さんは淡々と答える。
「日菜乃さんのお母さんはねえ、親父から見たら、たしか愛人5号くらい?」
「10番目くらいだったと思うけど……」
店長も日菜乃さんも、えげつない事情を平気で口にする。
ひょっとして、これは遺伝なのだろうか。
なんと声をかけたら良いのかわからなくて、純はとりあえず、形式通りの挨拶を告げた。
高貴さんの母親だというその男は、年配ながら整った顔つきをしていた。
こまめに染めているのであろう黒髪は、白髪はもちろんのこと、1本のほつれも傷みもなく艶めいている。
小柄でほっそりした体を萌葱色の着物で包んでいて、どことなく上品な物腰は高貴さんに似ていた。
「ねえ、高貴……」
高貴さんの母親は純たちには一瞥もくれず、何か言いたげな様子で、高貴さんにせまってきた。
「母さん、わかったから。ごめん、みんな、しばらく話し合うから、店番頼んだよ。すぐ戻るからね。ほら、こっちに来て」
高貴さんの母親は、言われるままに高貴さんの後について、奥へ入っていった。
「何の話し合いかな?」
「すげー泥沼展開してそう。こりゃ長くなるかもなー」
純と仁志はヒソヒソ話し合ったが、長田さんに「こら、2人とも!」と言われて、あわてて仕事に戻った。
すでに客が何人か来ているし、今は店長の母親どころではない。
仁志の言うとおりに話は長引くものと予想していたが、高貴さんのお暇は思いの外短かった。
「失礼するよ!こんなとこ2度と来ないから!!」
あからさまに憤慨した様子で、母親が出てきたのだ。
あまりの剣幕に、純も仁志も長田さんも客も驚き、ぽかんとした顔をした。
「うん、2度と来ないでねー」
足早に店を去っていく母親の背中に向かって、高貴さんはひらひらと手を振った。
「……どうしたんですか?」
長田さんが高貴さんに歩み寄ってくる。
そばの席に座っていた客は、カレーをすくったスプーンを空中で止めたまま、呆然とこちらを見つめている。
「日菜乃ちゃんが皿に山盛りのスクランブルエッグ出して、母親が怒ったの」
「ああ……」
その場にいた全員、「なるほど」と納得いくような顔をした。
高貴さんの父親が若い頃、戯れに「男体盛りがしたい」と言って、母親の腹に焼きたてのスクランブルエッグを置いたところ、あまりの熱さに母親は悲鳴をあげて暴れ、父親のアゴを蹴飛ばしてしまったのだという。
これは高貴さんがしょっちゅう話す笑い話で、大貴や母親が来ると「スクランブルエッグ食べる?」とひやかすこともある。
「譲さんが悪いんじゃない。来て早々「こんな店さっさと畳んでおじいさんの会社継いだほうがいい」だもの」
日菜乃さんが気だるげな様子でエプロンの位置を直しながら、奥から出てきた。
この人はいつも、どこかアンニュイな雰囲気を漂わせている。
「譲さん…?」
「母さんの名前だよ」
日菜乃さんに続くようにして、高貴さんがエプロンの紐をくくり直した。
「日菜乃さん、名前で呼んでるってことは、知り合いなんですか?店長のお母さんと……」
「え?これ、言ってなかったかな?」
高貴さんがカクッと首を傾げた。
40近い男がこれをすると、可愛らしいというよりシュールさが勝つ。
「あー…ジュンちゃん、あのね、日菜乃さんって、店長の妹さんなの」
「え⁈でも、苗字が違いません?」
仁志の言葉を聞いて、純はぐるんっと首を動かして、日菜乃さんの方を見た。
「母親が違うもの」
純の動揺も構わず、日菜乃さんは淡々と答える。
「日菜乃さんのお母さんはねえ、親父から見たら、たしか愛人5号くらい?」
「10番目くらいだったと思うけど……」
店長も日菜乃さんも、えげつない事情を平気で口にする。
ひょっとして、これは遺伝なのだろうか。
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