【完結】オメガの純が夢見ていること

若目

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訪問者

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──誰だろう?

まったく心当たりの無い訪問だ。
きっと新聞の勧誘か、ネット回線だかウォーターサーバーだかの営業だろう。

だから、無視して居留守を使っても問題ないだろうと判断して、純はドアの向こうにいる相手が立ち去るのを待った。
そのうち諦めて帰るだろうと思ったが、相手は予想外の行動に出る。
ドアノブをしばらくガチャガチャ動かしたかと思うと、カチリと音がして、ドアが開く音がした。

──鍵開けて、入ってきた?てことは、母さんかな?

この部屋の合鍵を持っている人物は限られている。
純の頭に最初に思い浮かんだのは、母親だった。
しかし、母親ならわざわざインターホンを鳴らしたりしない。
では、いったい誰なのだろうか。
パタ、パタ、パタ、パタ、と足音が近づいてくる。

人影が純のベッドの前で立ち止まると、声を発した。
「ジュンちゃん、どうしたの?大丈夫?具合悪いの?」
訪問者の正体は、仁志だった。
そういえば、彼にも合鍵を渡していた。
万が一、帰り道などで発情期が来たとき、すぐに家に連れて帰って介抱できるようにとの考えからだった。
それこそ、何度か家に遊びに来たこともあるし、もはや勝手知ってる仲であるから、返事がなければ鍵を開けて入るのも、何ら不思議なことではない。

「……仁志、なんでここに?」
「いや、親戚からジャガイモ貰ったんだよ。それで、おすそ分けしようかと思って……」
仁志が、持っていたビニール袋を胸の高さまで上げた。
「そう……」
いつもなら軽い調子で「ありがとー!」くらい言えるのに、今はそれどころではない。
体が熱くて、まともに立つことすらできないし、頭もうまく回らない。

「あの、大丈夫?熱冷ましとか買ってこようか?水とかもいるよね?」
寝込んでいる純の様子を見た仁志が、不安げな顔をしてかがみ込み、純の顔を覗き込んだ。
おそらく、風邪と判断しているか、発情期のオメガに対する対処がわからないのだろう。
「……熱冷ましも、水も要らないよ。これ、風邪じゃないから」
「じゃあ、何か欲しいものある?買ってくるから、待ってて!」
仁志はジャガイモが入っているビニール袋をその場に置くと、すっくと立ち上がった。
「…何も買ってこなくていい」
「えっと、じゃあ…」
「……助けて」
仁志の言葉を遮るようにして、純は仁志の腕を掴んだ。
「あの、オレ、どうしたらいいかな?ごめんな、役立たずで……」
純の懇願に、仁志はオロオロしはじめた。
本当に、どうすればいいかわからないのだろう。


「……抱いて」
「…え?」
仁志が間抜けな声を出した。
いきなりこんなことを言われたのだから、当然と言えば当然の反応であろう。
「お願い……そうしないと、発情期が治らないんだよ」
「え、あ…あの、薬は?抑制剤ってのがあるんだよね?」
仁志が顔をキョロキョロ動かして、部屋中を見回した。


「さっき飲んだんだよ。あのね……仁志、ぼくは抑制剤が効きにくいんだよ。毎日きちんと薬飲んでても、ぜんぜん効果なくて…母さんも、おばあちゃんも、そうだったから……遺伝なんだよ。そういう人は、やっぱりダメなんだよ…周りに迷惑かけるから、嫌われたり、バカにされたりしても、仕方ないんだよ、どうしようもないんだよ……」
言ってるうちに、純はなんだか心細くなってきて、涙が流れてきた。

「泣くなよジュンちゃん。オレ、なんとか助けてやるからさ」
仁志は体をかがめると、幼児をあやすときみたいに、純の頭を軽くポンポンと叩いた。
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