【完結】オメガの純が夢見ていること

若目

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真知子

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「ええ、私は高貴さんの見張り役を買って出ました。ですが、高貴さんの行動を止めるとは一言も申し上げておりませんよ?」
真知子が冷淡に返した。

「ねえ、大貴さん。あなた、軽井沢さんの価値観を「そんな理由で番を組む者など探しても見つからない」と笑い飛ばしていたでしょう?そんなのはおとぎ話だと」
「それが何?」
いきなり話をふられた大貴が、困惑の表情を浮かべた。
「私から言わせていただければ、「咬み傷は所有の証だ」というあなたの理論も大概おとぎ話ですよ。
あんなものはただの生理現象のひとつです。皮膚を切れば血が出たり、お産をすれば腹に肉割れができるのと一緒です。何ら深い意味はございません」

真知子がゆっくりゆっくり、居間に入っていく。
「人間なんて、みんな平等に無価値ですよ。特に、「老い」と「死」の前においてはね。私たちの父がそうです。
生きている間は金も地位も土地も番も余るくらい持っていましが、老いてしまえば使いようがない。
死んでしまえば、自分が必死になってかき集めた金や土地は誰かのもの。番が何人いたかなど、何の意味もなくなります」

大貴の目前で、真知子は立ち止まった。
「あなたなら、わかるのではないですか?
父親の死を目の当たりにしたのですから。アルファのボンクラ御曹司だろうが、アメリカの大統領だろうが、中東の石油王だろうが、もちろん、あなただって。いきなり背中から刺されて大量の血を失えば死にます。
誰ひとり、「死」からは免れないのです。死神ほどの平等主義者はいませんよ」

ソファに座った大貴を見下ろした真知子は、フッと嘲るように笑った。
「それと、アルファとオメガは主従関係とおっしゃるなら尚のこと、オメガの皆さまを侮るべきではないかと。
イエス・キリストしかり、ユリウス・カエサルしかり、織田信長しかり、従者に裏切られて足元をすくわれた君主など、数えきれないぐらいいるんですから。あなたの父親だってそうでしょう?」

真知子が大貴の襟首を、両手で思い切り掴んだ。
「だからお前は豪貴の劣化版なんて呼ばれて、こんなところに追いやられてんだぞ!ベータにもオメガにも劣るボンクラがえらそうに!!」

真知子が一喝したと同時に、バチンッと大きな音が居間中に響きわたった。
真知子が大貴の頬を、思い切り引っ叩いたのだ。
「いってえ!」
叩かれた頬を押さえて、大貴は悲鳴をあげた。
「これに懲りたら、2度とうちの店に来るなよ。軽井沢くんはもちろん、従業員のみんなにも近づかないこと」
「このこと、私はメディアに漏らしはしませんが、上層部の皆さまには報告させていただきますね。
この件、私には少々目に余るように感じますし。
おそらく、このことで大貴さんの評価は著しく下がるでしょうね?」
高貴も真知子も、それぞれに言い捨てて、その場を去っていった。


「久しぶりに来たけど、この辺は相変わらず何も無いなあ、「ザ・田舎」ってカンジ!」
高貴は辺り一帯に広がる田んぼを見つめて、感想を述べた。
「まあ…牧歌的で、趣がありますよね」
とってつけたような褒め言葉を吐き出して、真知子はロングスカートのポケットから車のキーを取り出した。
2人は真知子の車でここまでやってきたのだ。
都心から離れたこの土地まで行くには、どうしても車が必要になる。

「ホンットに嫌になるよ、サッサと帰ろう」
譲たちの家から駐車してある平地まで、かなりの距離があるから、相当歩かなくてはならない。
この辺りは道路整備もろくになされていないから、駐車できる平地も限られているのだ。


「忍尾さん…いや、「真知子叔母さん」って呼ぶべきかな?」
歩いている道中、高貴はつい最近まで面識のなかった叔母に尋ねた。

高貴が真知子を自分の叔母だと知ったのは、大貴が軽井沢を犯そうとした日の翌日であった。
身分を明かされたときには心底驚いたが、それよりも、大貴が軽井沢にしたことに対する怒りの方が大きかった。

「自由にお呼びください」
「それで、なんだってアイツらに「私が高貴さんの見張り役をします」なんて買って出たワケ?」
「私が嫁いだ忍尾家に、あの厄介者たちが接近するようなことがあっては困るんですよ。だから、先にあなたのところで一悶着起こして、さっさと大人しくもらおうかと思いまして」
真知子が、まとめて結い上げていた髪をバッとほどく。
同時に、彼女が使っている整髪料の香りが、空中を舞った。
「ひどいなあ。僕をダシにしたのかい?」
「譲さんたちが真っ先にすがりついてくるのは、間違いなくあなただろうと思いましたので」
真知子のこの予測は大当たりと言えた。

──忍尾さん、とんでもない人だなあ…

結局、真知子の思惑通りに事は進んだワケだから、とんだ策略家ではないか。
高貴は少しばかり身震いした。
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