婚約破棄は綿密に行うもの

若目

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富豪商人婚約破棄計画

恐るべき貴夫人

「ベアトリーチェ様、ひょっとしてアタシをここに呼んだのは、ベンジャミン様に命の危機が迫っているからでございますか?あのお方の命を狙うヤカラがいて、それを退治したいからとか、そういうことでございますか?」

ジュスティーヌは、先ほどカップいっぱいに入れた紅茶を飲み干した。
飲まずに置いていたものだから、紅茶は少しばかり冷めていたが、それでも美味しかった。

──ベアトリーチェ様、こんないいところの茶を淹れてくださるとは、実にありがたい

死ぬか生きるかの話をしているのに、ジュスティーそんなことを考えた。


「なぜそんなふうに思うのかしら?」
リッシュ夫人が質問に質問で返した。
「…違うのでございますか?」
はて、違うとしたら自分はなぜ呼び出されたのだろう。
ジュスティーヌは、リッシュ夫人の真意を探った。

「違うわ。いまのところは目くじらを立てる人がいるけれど、命まで奪おうと考える輩はいない。少なくとも、それらしき人はいない。そういったところね。でもまあ、そう。そう言ってくださるということは、あなたはもしベンジャミン様に危険がせまったら、助けてくださるのよね?」

「ええ、まあ、こないだはなかなかの額の報酬をいただきましたからね…」
そう返した途端、リッシュ夫人の唇が意味深に弧を描いた。
それを見たジュスティーヌは、しまった!と思った。

「そう。では今後ともよろしくお願いするわね。何かあったら、また来てちょうだい。報酬はたくさん出すから」
リッシュ夫人がニッーと笑った。

「……ええ、かしこまりましたよ、ベアトリーチェ様」
ジュスティーヌは、自分の迂闊さを反省した。
同時に、リッシュ夫人の狡猾さに驚き感心もした。

──アタシとしたことが、こいつは一本取られた!

──────────────────────



リッシュ夫人の狙いは、これからもジュスティーヌを利用し続けることだった。
そして、そういった約束をジュスティーヌの側から取り付けることだったのだ。

なんだってこんな回りくどい手口を使ったのかといえば、それは彼女のやんごとなき生まれに深く関係している。

この国では、いや、この国に限らず、たとえ王侯貴族といえども、下の立場の人間を好き放題できるわけではない。
何か大変な願い事をするには相手の了承を得て、相応の報酬を与えることが、王侯貴族の暗黙の了解なのだ。

もし強制的に面倒を押し付けて、それを誰かに告発されたなら悪評が立ち、立場がまずくなる。

それを防ぐために、リッシュ夫人はこんな遠回しな手口を使ったのだ。

そしていま、事実上ジュスティーヌとリッシュ夫人との間に、新たな契約が成立した。 

ジュスティーヌは今後リッシュ夫妻やその家の人々のために働き、リッシュ夫人はそれに見合った報酬を渡す。

というものだ。
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