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エピローグ

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親愛なるエランヴェールのみなさんへ
私、ニコル・ドゥ・ヴェルミリオンは本日、立太子することになりました。
忌み子としてこの世に生を受けましたが、私を産んでくださった王妃様と生きる道を残してくださった国王陛下に感謝しております。
また、私の命を救い、我が子同然に育ててくださったラーンジュ辺境伯一家のみなさん、ラーンジュ領の領民に深く感謝いたしております。
私が育ったラーンジュ領は先の大戦で激戦地と化した領地です。
今では布の産地として復興していますが、領民の多くは家族を失い、命が助かっても火傷や身体の一部を失った者が多くいます。
それでも、人種の垣根を越えて互いに助け合い、産業を発展させるために力を合わせて生活をしてきました。
忌み子と呼ばれ王城を追われた私にも家族のように接してくださいました。
私はそこで、人を傷つけるのも癒やすのも、救うのも人だと教えられたのです。
だからこそ、私は一人でも多くの人を助けるために騎士になることを選びました。
そして、護衛官として派遣された領地で戦争の傷跡により課題を抱えていることを知ったのです。多くは若い働き手不足や後継者不足です。その原因は、家族や本人が望まない徴兵制により戦地へ赴き、そのまま帰って来ないことや、帰還しても怪我や障害により働くことができないためです。
私はこのようなことを今後、起こしたくありません。
私は我が国から戦争を追放し、中立国にします。
もちろん、一人で成し遂げられるような問題ではありません。
みなさんの力が必要です。
どうか、みなさんの力を貸してください。
そのために、貴族ではなくても優秀な人材や画期的なアイデアを持つ人材は、男女問わず登用するつもりです。
みなさん、新しい国の未来を一緒に考えましょう。

◇◇◇
「ニコルも立派になったわね」
ラーンジュ領にある領主夫妻の部屋。
ベッドの中でアゲハはアランが読んだ新聞の内容を聞き終えて呟く。
「あぁ。そうだな」
「奥様、こちらの新聞には、王女様が国民の歓声に応えようとして、バルコニーから落ちかけ、婚約者に助けられたと書かれていますぞ」
ハヤテがガハハと笑いながら新聞を渡す。
「まぁ、ニコルらしいわ」
アゲハは鷹揚に答えるが、アランは顰め面をする。
「王太子になったというのに落ち着きのない」
「そこがニコル様の良いところです」
ハヤテもアゲハに同意した。
「ハヤテ。それよりも新しいタオルと水を持ってきてくれ。ぬるくなってしまった」
「かしこまりました」
アランは用事を言いつけてハヤテを下がらせる。
こうしないと、ハヤテはアゲハから離れないからである。
「ごめんなさい。立太子の式典に呼ばれていたのに、私のせいで行けなくて」
アゲハはここ数週間、熱が上がったり下がったり、身体の痛みが激しかったりと体調不良でベッドから出られずにいる。
今も高熱で寝込んでいる。
「気にすることはない。ニコルには国王夫妻とマカオンがいる。それに、すでに国王が手を焼くような味方を付けたらしい」
「そう。それならニコルはもう大丈夫ね」
アランは熱で火照るアゲハの手を握る。
「あぁ。だから、ゆっくりおやすみ」
「えぇ」
アランの優しい声に導かれるようにアゲハは瞼を閉じた。
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みんなの感想(2件)

KTR48
2022.08.15 KTR48

ヒロインが良い。
ヒーローは無愛想だけど、なんだかんだヒロインを助けているのが良い。

神辺真理子
2022.08.15 神辺真理子

お読みいただきありがとうございます。
今後も良い作品を書くので応援してください。

解除
かじはら くまこ

お気に入り登録しました!続き楽しみにしてます。

神辺真理子
2022.08.15 神辺真理子

お読みいただきありがとうございます。
今後も良い作品を書くので応援してください。

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