恋人以上、恋愛未満

右左山桃

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1章 そんな風に始まった

24 心の行方・1

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もう二度と目覚めなくて良い。
そう思っていても、いつもと変わらず朝は来る。
スマホのアラームがうるさくて、私はゆっくりと体を起こした。

頭が痛い。
おまけに瞼が熱くて重くて開かない。
やっとの思いでアラームを切って、鉛のように重い体を支えながらよろよろとベッドから立ち上がる。
鏡に映った自分の姿を見て愕然とした。


「…………酷い」


化粧も落とさなかったし、着替えもしていない。
着替えどころかマフラーも外していないじゃないか……。
ぼっさぼさの頭に、半開きの目が何とも言えない近寄りがたい雰囲気を醸している。
なんか……例えて言うなら妖怪の類っぽい。
頑張って開眼しようとしても、腫れあがった瞼はこれ以上持ち上がりそうもない。
二重もどこへいったのか、一重になっている。

もう、妖怪でもなんでもいいや……。

それでも体が汚れているのは気持ちが悪かったので、風呂場へ向かう。
シャワーを浴びながら、働かない頭を巡らせて、今日が土曜日だということに気がついた。
そろそろご飯を食べて着替えをして化粧をして……バイトへ向かわないと遅刻してしまう。


「…………」


そう思っても、体は動かない。
職場の子に迷惑をかけるとか、店長に怒られるとか、色々なシチュエーションを頭に思い描いたけれど、どうにも”焦る”という気持ちが起きなかった。
ぼーっとしながらシャワーに打たれ続けて、なんか、もう、どうでもいいやと思った。
バスタオルで髪と体を適当に拭いて、部屋着に着替える。

どうせこんな顔だ。接客なんかできない。
行ったって周りに何があったんだと質問攻めにあうだけだし。


面倒くさい。


スマホの電源を落として、布団にくるまり直る。
ドライヤーも手を抜いたため、生乾きの髪が首に触れて寒い。
でも、そんなことももうどうでも良かった。

ただひたすら、ずっと眠っていたかった。



正気に戻ったのはその翌日。
また同じように朝を迎えて、バイトを無断欠勤した事実がジワジワときた。
スマホの電源を入れれば、バイト先からの着信通知が何件も入っていて、自分は最低なことをしていると真っ当な考えに戻れた。
今日は、行かなくちゃ。

自分の穴を誰かが埋めている。
それはやはり申し訳ないことだと思ったし、仕事を受け持っている以上、無断で放棄することは無責任だと思えた。
例え、その世界が自分が欠けても周るものだとしても。

そこから先の行動は早かった。
いつもの朝と同じように、着替えて髪をとかして化粧をする。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、机に放ってあった菓子パンを適当に取って食べる。
味は無くて。食事というよりも、動くために燃料を詰めているような気持ちになった。




「う、あぁ。浅木さーんっ! 大丈夫!? どうしたのー?」


私がお店に姿を現すや否や、ツインテールを揺らしながら弘瀬さんが駆けよってきた。
くりっとした大きな瞳で私の顔をじっと見つめると、心配そうに眉間にしわをつくる。


「浅木さん、目が腫れぼったいよ? もしかして、泣いてた……?」


そりゃ……一昨日は泣いて腫れてたんだろうけど。
今のこれは――。


「ただの寝すぎです。顔がむくんだんだと思います」

「え、えぇ?」

「すみません。どうしても起きられなくて丸一日寝てました」

「体調……悪かったの?」

「いえ、何も。いつも通りです。連絡しなくて申し訳ありませんでした」


店長にも、厨房にも、頭を下げに行かなければ。


「私の変わりに誰が入ってくれたんですか」

「ん、んー、誰も捕まらなくって……」


あぁ、戦場のような忙しさだったのが目に浮かぶ。


「本当に本当に……ごめんなさい……」

「んーん。それはもう……いいんだけどね。でも、カレシさんにはちゃんと言わなきゃ駄目だよ……」


彼氏。
その言葉が、胸にズシリときた。


「寒い中、ずーっと待ってたんだよ? 浅木さんのこと。私が『浅木さんは今日は休みで、連絡がつかないんだよ』って言ったら、カレシさんすごく心配そうにしてた。好きな人にあんな顔、させたら駄目だよ」

「……だから別に……好きな人じゃないです」

「……喧嘩したの?」

「違います。……多分、別れたんです」

「そうなの!?」

「はい」

「……やっぱり喧嘩なんじゃん……」

「喧嘩じゃないです」

「ちゃんと話し合わなきゃだめだよー」

「話したくないです」

「もー」


もしかして、とは思っていたけれど。やはり雅は来ていた。
どんなに私が可哀想だと思われているにしても、『嫌い』とまで言った女を迎えに来る神経は理解できない。
いったい、どこまでお人よしなんだろ……。

だけど、それなら、きっと今日も。
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