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「君が一番、このパーティに役立ってくれてるよ。」



ほら。



「僕も一番君を頼りにしてるんだ。」



やっぱり。



「僕も、君が一番好きだよ。」



その言葉、だれにでも言ってるんじゃない。





隣の部屋から漏れたベッドの軋む音と笑う女の声を聞きながら、わたしは壁へと項垂れる。

その隣の部屋にいるのは、この世界では有名な勇者様。



私の幼馴染、私の思い人だった人。





◇◇◇





小さな村に生まれた私と彼。

村の中で数少ない年の近い子供であった彼と私が仲良くなるのは当然のことだったと思う。

遊ぶのも仕事の手伝いも何をするにも一緒。

家も隣で彼と私の家族も仲が良く、身体が大人になるにつれ彼と私の間に婚約関係が結ばれたのもまた当たり前の事だった。

娯楽のない村の中で、彼と一緒に過ごすことは唯一の楽しみであり幸せでずっとこの瞬間が続くものだと信じて疑わなかった。

でもすぐに終わりが来る。



彼が勇者だと宣告された日から。

彼が生まれた時から存在する痣が勇者の証だと、唐突に来訪した王国の騎士は説明した。

魔王を倒す旅に出なければならない、これは王の命令であると突拍子もなく言われ小さな村に住むなんの権限も持たない彼の両親は首を縦に振るしかなかった。

せめてもの情けと、家族との別れのために準備期間と設けられた一日。

彼、ロビンは私に一緒に来てほしいと言った。

私は彼に手を伸ばされたから、ロビンが好きだったから私はその手をつかんだ。







それからというものの、徐々に仲間が増え勇者様のパーティーは剛健と名高いものとなった。

質実と付けなかったのは皆様お分かりだろう。

パーティーの男女比率は男5:女5

パーティーに在籍するほとんどの女性がロビンへ恋愛感情を抱いている。

そして彼は、その環境に甘んじた。



小さな村で私の婚約者として暮らしていた、私の思い人はいなくなったわけである。



徐々に女性の冒険者が仲間に加わるにつれ

徐々に彼が女性に向けられる好意に慣れていく様を見て最初は嫉妬の炎を燃やしていた私も、彼への失望が勝り、嫉妬すらするのが馬鹿らしくなってしまった。



こんな爛れた勇者様のパーティーも、魔王を倒すために旅路を進めていく。

どんどん戦う魔物は強くなるし、元々ただの村娘であった私はその戦いにもついていけなくなった。

婚約者であったロビンへの恋愛感情はなくなり、今所属している勇者のパーティーでは戦力外。

肩身の狭さを感じ、パーティーに居場所がない。





そして彼の浮気現場の目撃。

それも片手では収まらない数を何度も、何度も。

私は何のためにこのパーティ―に所属しこの旅をしているのか。この世界を救うためにとロビンは言うけれども、ただ貴方を信じて貴方のために戦った私は馬鹿そのものじゃないか。





◇◇◇





そうして私は、このパーティーからの離脱をすることに決めた

一瞬この世界のために戦う事を投げ捨ててしまうのはいいのかと悩んだが、私はそもそも特別な力を持たない村娘である。パーティーのみんなには申し訳ないが、なんの戦力にならない私がここにいる意味もない。



唐突にいなくなるのも悪いと思い、手紙をしたためておいた。これで探しには来ないだろう。

少し金品を頂戴したが手切れ金だと思って許してほしい。



これから、私の旅が始まるわけだ。

と、私は意気揚々に彼とパーティーの女性冒険者がいちゃつく宿から飛び出したわけであった。
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