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無事に森を抜けた私は、少し栄えた街に訪れていた。

いつもは煩わしく感じる都会の喧騒も、今は安らぎである。



魔王がいると言われている場所が近いのに何故こんなにも街が栄えているのかと疑問にも思ったことはあったが武力が必要になるからなのか、魔王の元へと近づくたびに強くなる魔物に比例し人々は増え、人集まる所に商売や物流が行われるのだから人間も案外逞しい。



人々の喧騒に囲まれ、安心感を得ていたが魔王の元から近いということは勇者様御一行とも近いという訳で安寧の地とはいかない。



勇者様御一行が私を探す必要性がないとはわかってはいるが、なんとなく気まずさを感じる私はなるべく離れようと私が生まれ育った村へと戻ろうとは思うのだがそもそも、村はロビンもとい勇者が育ったと言うことからなのか魔王軍の攻撃に遭い全焼しているので居住はできない。

私はロビン共々故郷を亡くし親とも死別しているのである。



だからこそ、ロビンと離れ難かったというのもあるがそれはそれこれはこれ。これからは私の幸せを一番と考え動こうと思う。





◇◇◇





「案外高いな~…回復魔法って…。」



ダイアウルフにやられた左腕を完治させようと、回復魔法を行う魔術師の店を見るが今の手持ち全てが無くなりそうな値段ばかり。



今までは、国もとい全土一の優秀な勇者様御一行の白の魔術師様が惜し気もなく回復魔法をしてくれていたので感覚が麻痺していた。



回復魔法は一瞬で傷が治るのは良いのだがやはり魔術師個人の技術力によって出来が異なるので、やはり腕利きとなると値段もそれ相応の額を要求される。



その額が払えない人々は薬草を煎じて飲んだり、軟膏など時間がかかる治療を受ける訳である。

時間に余裕があるのならいいのだが、至急この場から離れたい私にとっては回復魔法が好ましい…、のだが何せ金がかかる…。



「はあ…あそこしかないか…。」





◇◇◇



私が訪れたのは、教会であった。

教会は神の使徒として、回復魔法である白魔法を基盤とする魔術師が集まっておりインフレ化している他回復魔法の料金よりもお手軽価格で受けられる。

受けられるのだが…。



「貴女様は、勇者様のパーティーの一員であるラーナ様ではないですか。今日はどういった御用件でしょうか。」



これである。

勇者は魔王を倒すために全土から選出された英雄達であるため、その協力下である教会との結び付きは強い。教会のほとんど全てが、勇者御一行のことを知っているのである。



つまり、私は、勇者御一行という立場から教会内では有名人であるということだ。



そんな私が1人でしかも傷を負って現れた事に対して、訝しげな表情をするのは聖職者である彼らであっても仕方ないことであって…。



「魔族討伐の際に、深手を追ってしまって…。回復魔法を使えないのでこちらでの治療をと思い訪ねさせていただきました。」



「はあ…、そういった事でしたら勿論お力にならせて頂きたいと思いますが、勇者様方はどちらに?」





ほらほらほらほら、やっぱりだやっぱり。

勇者と長く過ごしていると、勇者+勇者パーティーの一心同体のような関係が生まれてくる。まあ、当たり前なのだが。そんな疑問に、勇者の浮気が耐えきれずパーティーを無断で離脱して逃亡してきたなんてどの口が言えよう。



「…今は、1人ですべき事がありますので勇者様方とは離れているのです。詳しいことは申し上げられないのですが…。」



「…わかりました、勿論治療はさせていただきます。治療費は結構です、これからもこの世界に平和と祝福を。」



「ええ、この世界に平和と祝福を。」





そんなわけで、事実タダで左腕が元どおりに治った。
あのズタズタに引きちぎられた腕がそんなことはなかったかのように存在する。

やっぱりすごいな、回復魔法って。覚えようと必死になったこともあったが魔法の一つも覚えられなかった。この恩恵全てが全てロビンのお陰なのだが、今までこの世界のために戦ってきたのだから許して欲しい。



これからも教会にお世話になるかもしれないのだが、遅かれ早かれいつかは勇者のパーティーを離脱した事が教会内に触れ回る事だろう。

その時に向けられるのは、失望か侮蔑か。

きっと私はその視線にいたたまれなくなってしまうのだろうなと、この潔白を象徴するかのような白い建物を眺める。この世界を恋人の浮気に居た堪れなくなったというだけで戦うのをやめた私は何となく罪悪感を感じた。

胸にほの暗さを抱え、逃げるように協会を立ち去る。
きっと大丈夫、私がいなくてもこの世界は救われる。

すべては時間が解決してくれる、そう信じて。


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