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交わることの無かった二人
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「うん、全く。そもそも相手は社長の息子でしょ? そんな御曹司様に興味持ったって意味ないと思うし、女を取っかえ引っ変えで不誠実な男に深入りしたところで、ろくなことないから」
それは、一切の迷いが無い言葉だった。
同僚たちは一瞬言葉を失い、やがて苦笑混じりの表情を浮かべていく。
「あはは、来海の男嫌いは相当ね」
「元カレと色々あって、男は嫌になったんだっけ?」
「まあね」
来海は短く答えると話を切り上げるように時計を示した。
「ほら、もうすぐ昼休み終わるよ。二人とも早く食べないと」
「うわ、本当だ!」
「メイク直ししなきゃ!」
時間を見せられ慌てて弁当を片付け始める同僚たちを横目に、来海は内心でほっと息をついた。
彼女は普段ほとんど化粧をせず、服装も地味でシンプルなものを好む。
長く艶のある黒髪ロングヘアを色気の無い黒いゴムで後ろに束ね、着ているのは白のカッターシャツでタイトな黒いスカート姿。
折角制服も無くて特に規制の無い条件下にあるにも関わらず、来海は他の女性社員たちのように着飾ることもせず、性格も控えめで仲の良い相手以外とは必要以上に距離を詰めたりもしない。
周りからすると、地味で冷めた女という印象に映るだろう。
けれど、それには理由があった。
学生時代、異性を巡るトラブルに巻き込まれて陰湿ないじめを受けた経験と、大学時代、初めて心を許した恋人に裏切られたことが重なり、彼女は自然と「目立たないこと」を選ぶようになったのだ。
異性に期待しない、深入りしない、感情を向けない。
特に、充輝のような「女性関係にだらしの無い人間」は来海にとって一番無縁かつ、関わり合いになりたく無い部類だった。
(羽柴 充輝……女好きで軽い男……そんなの、何が良いんだか……)
そう思いながら、来海は一足先に仕事に戻って行った。
関わることなんて有り得無い。
そう思っていた来海だが、この時既に運命の歯車は密かに動き出していた。
午後の始業開始から暫くして――
「向坂さん、ちょっといいかしら」
ふいにかけられた声に来海がキーボードから手を離して顔を上げると、視線の先には穏やかな表情を浮かべる先輩の姿。
彼女は来海が新人の頃に教育係だった矢嶋 絢香。
優しく面倒見の良い姉御肌タイプの女性で上司や後輩からも信頼されている女性だ。
「あ、はい」
「先日向坂さんに頼んだ書類なんだけど、確認したら一部足りない物があるのよ。早急に提出してもらえるかしら?」
「はい、分かりました」
そう答えながらも来海の胸に小さな違和感が生まれていた。
指摘された書類は提出前にきちんと見直して揃えたはずだったからだ。
絢香が立ち去るとすぐにフォルダを開いて確認するも、そこにあるはずのデータは見当たらなかった。
恐らく、提出が完了したこともあって不要になったデータとして削除してしまったのかもしれない。
(……作り直すしかないか)
ため息を飲み込んで気持ちを切り替えた来海は、探し回るより一から作り直したほうが早いと判断して資料作成に取りかかろうとした、まさにその時――
「あの、向坂 来海さん、いますか?」
総務課の入り口から、自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「えっと……向坂は私ですけど……」
少し戸惑いながら振り返った来海の視線の先に立っていたのは――システム課のエースであり社内でも一際目立つ存在で女性社員たちの間で話題に事欠かない男、羽柴 充輝だった。
名指しされた瞬間、来海は思わず目を見開く。
(……え? なんで私?)
業務上、システム課に属する充輝と関わる機会などほとんどないに等しいのに突然名指しされたことへの驚きと同時に、周囲から突き刺さるような視線を一斉に浴びて胸の奥がざわついた。
それは、一切の迷いが無い言葉だった。
同僚たちは一瞬言葉を失い、やがて苦笑混じりの表情を浮かべていく。
「あはは、来海の男嫌いは相当ね」
「元カレと色々あって、男は嫌になったんだっけ?」
「まあね」
来海は短く答えると話を切り上げるように時計を示した。
「ほら、もうすぐ昼休み終わるよ。二人とも早く食べないと」
「うわ、本当だ!」
「メイク直ししなきゃ!」
時間を見せられ慌てて弁当を片付け始める同僚たちを横目に、来海は内心でほっと息をついた。
彼女は普段ほとんど化粧をせず、服装も地味でシンプルなものを好む。
長く艶のある黒髪ロングヘアを色気の無い黒いゴムで後ろに束ね、着ているのは白のカッターシャツでタイトな黒いスカート姿。
折角制服も無くて特に規制の無い条件下にあるにも関わらず、来海は他の女性社員たちのように着飾ることもせず、性格も控えめで仲の良い相手以外とは必要以上に距離を詰めたりもしない。
周りからすると、地味で冷めた女という印象に映るだろう。
けれど、それには理由があった。
学生時代、異性を巡るトラブルに巻き込まれて陰湿ないじめを受けた経験と、大学時代、初めて心を許した恋人に裏切られたことが重なり、彼女は自然と「目立たないこと」を選ぶようになったのだ。
異性に期待しない、深入りしない、感情を向けない。
特に、充輝のような「女性関係にだらしの無い人間」は来海にとって一番無縁かつ、関わり合いになりたく無い部類だった。
(羽柴 充輝……女好きで軽い男……そんなの、何が良いんだか……)
そう思いながら、来海は一足先に仕事に戻って行った。
関わることなんて有り得無い。
そう思っていた来海だが、この時既に運命の歯車は密かに動き出していた。
午後の始業開始から暫くして――
「向坂さん、ちょっといいかしら」
ふいにかけられた声に来海がキーボードから手を離して顔を上げると、視線の先には穏やかな表情を浮かべる先輩の姿。
彼女は来海が新人の頃に教育係だった矢嶋 絢香。
優しく面倒見の良い姉御肌タイプの女性で上司や後輩からも信頼されている女性だ。
「あ、はい」
「先日向坂さんに頼んだ書類なんだけど、確認したら一部足りない物があるのよ。早急に提出してもらえるかしら?」
「はい、分かりました」
そう答えながらも来海の胸に小さな違和感が生まれていた。
指摘された書類は提出前にきちんと見直して揃えたはずだったからだ。
絢香が立ち去るとすぐにフォルダを開いて確認するも、そこにあるはずのデータは見当たらなかった。
恐らく、提出が完了したこともあって不要になったデータとして削除してしまったのかもしれない。
(……作り直すしかないか)
ため息を飲み込んで気持ちを切り替えた来海は、探し回るより一から作り直したほうが早いと判断して資料作成に取りかかろうとした、まさにその時――
「あの、向坂 来海さん、いますか?」
総務課の入り口から、自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「えっと……向坂は私ですけど……」
少し戸惑いながら振り返った来海の視線の先に立っていたのは――システム課のエースであり社内でも一際目立つ存在で女性社員たちの間で話題に事欠かない男、羽柴 充輝だった。
名指しされた瞬間、来海は思わず目を見開く。
(……え? なんで私?)
業務上、システム課に属する充輝と関わる機会などほとんどないに等しいのに突然名指しされたことへの驚きと同時に、周囲から突き刺さるような視線を一斉に浴びて胸の奥がざわついた。
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