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気づいた心
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(やっぱり、来なければよかった……)
トイレを済ませ、二人の居る個室へ戻ろうとしたその時だった。
少しだけ開いた扉から聞こえてきたのはエマの甘えた声。
「ミツキ、私……ちょっと酔っちゃったかも」
そう言ってエマは充輝の方へ身を寄せる。
「私ね、ずっとミツキに会いたかった。いつも一緒だったから、ミツキが日本に帰国して、寂しかった。だから、日本に来たら一番に顔が見たいって思ってたよ?」
「エマ、近いって……」
充輝は困ったように言いながらも強く拒むことが出来ずに視線を逸らすだけ。
その光景を目撃してしまった来海の胸は、痛みが心臓を強く締めつけていく。
入るタイミングを失った来海は視界に映る二人から目を逸らすことが出来ずに暫くその場に立ち尽くしていた。
「エマ、こういうのは困るよ」
やんわりと距離を置こうとする充輝を前にしたエマは少しだけ表情を曇らせる。
「……どうして? 傍に寄るの、ダメなの?」
「こんなにくっつく必要は無いでしょ?」
「あるわ、だって私は――」
二人のやり取りをこれ以上見たく無かった来海が何も知らないフリをしながら扉を開けると、エマは弾かれたように充輝から距離を取った。
ほんの一瞬の動きだったが、その場に微妙な気まずさが落ちる。
来海は先ほどのやり取りを見ていたことを悟られぬよう小さく息を整えた後で、
「ごめんなさい……少し酔ってしまったみたいなので、お先に失礼しますね」
そう告げると財布から五千円札を取り出してそっとテーブルの上に置いた。
来海の言葉を聞いた充輝は反射的に立ち上がる。
「それなら送るよ。今日はもう、お開きにしよう」
しかし来海は静かに首を横に振ると穏やかな微笑みを浮かべた。
「大丈夫です。エマさんはまだお話し足りないでしょう? 久しぶりの再会なんですから、お二人でゆっくりしてください。私は、一人で帰れますから」
そう告げられた充輝は引き留める言葉を見つけられず、先に部屋を出て行く見送ることしか出来なかった。
そんな中、来海の言葉を聞いた瞬間エマは胸の奥で小さく笑った。
(ふふ、勝ち目はないと悟ったのね)
そう確信した手応えが彼女をさらに大胆にさせる。
来海が店を出た後も会話は続き、二人きりになったことでエマは自然を装いながら更に充輝との距離を詰めて次の店を提案する。
「ねぇ、もう一軒行かない?」
けれど充輝は誘いに乗ることなく、きっぱりと言った。
「いや、もう帰ろう」
その声には迷いがなかったことで、エマは一瞬だけ悔しそうに唇を噛んだ。
それから店を出た途端、エマは足元をふらつかせ、わざとらしく充輝にもたれかかる。
「ごめん……急に気分、悪くなってきちゃって……」
甘えた声が耳元で囁かれたことで、充輝は思わず体を強張らせた。
「大丈夫? タクシー乗れそう?」
「うーん、このままじゃ、タクシーには、乗れなさそう……」
「…………」
突き放すわけにも放っておくわけにもいかない距離。
タクシーには乗れなさそうだと言うエマを前に少し考えた充輝は言った。
「……それじゃあ、少し歩いた先に公園があるから、そこで少し休もう」
本心ではホテルを期待していたエマだったが、その思惑を表に出すことはせずに素直に頷く。
「うん……ありがとう」
二人は並んで歩き出す。
ホテル街を抜けた先にある公園へ向かって。
その途中、街灯の下で肩を寄せ合う二人の姿を偶然にも会社の人間が目撃してしまう。
しかも、場所が場所なだけに事情を知らぬ者に誤解を与えるには十分な光景だった。
そして、週明けにその噂は瞬く間に広がっていく。
「金曜日の夜、ホテル街で一緒だったらしい」
「肩寄せ合って歩いてたって」
「二人は同僚だし、そういう仲だったってこと」
それはいつの間にか二人がホテルに入ったという話にまで膨らんでいき、当然その噂は来海の耳にも届いていた。
あくまでも噂だとは思うものの、事実かどうかを確かめる術もないまま来海の心を締めつけた。
(どうして、あの時帰ってしまったんだろう)
そして、あの日の自分の選択を来海は何度も何度も悔やんでいた。
社内に広がった噂を耳にした瞬間、充輝は迷わず行動に移した。
「その話は誤解です。ホテルには入っていません」
酒に酔ったエマを気遣い、肩を貸して歩いたこと。
ホテル街を抜けた先にある公園で休ませただけで、部屋に入った事実はないこと。
そして最後に、きっぱりとこう付け加えた。
「エマとはあくまで同僚で、それ以上でも、それ以下でもありません」
聞く側は表向きには納得したように頷いていた。
けれど充輝は分かっていた。
噂というものは否定すればする程に広がっていくことを。
(俺が軽率だった……向坂さんも疑ってるかな……)
噂を聞いた瞬間、充輝の頭に真っ先に思い浮かんだのは来海の顔だった。
すぐにでも誤解を解きたかったものの、来海の傍には常にエマがいた。
エマや他の社員の案内係として傍に居る来海と会社で二人きりになるのは無理だと判断した充輝は仕事が終わってから話をしようと思い、その日一日は仕事に集中出来ないまま過ぎていく。
トイレを済ませ、二人の居る個室へ戻ろうとしたその時だった。
少しだけ開いた扉から聞こえてきたのはエマの甘えた声。
「ミツキ、私……ちょっと酔っちゃったかも」
そう言ってエマは充輝の方へ身を寄せる。
「私ね、ずっとミツキに会いたかった。いつも一緒だったから、ミツキが日本に帰国して、寂しかった。だから、日本に来たら一番に顔が見たいって思ってたよ?」
「エマ、近いって……」
充輝は困ったように言いながらも強く拒むことが出来ずに視線を逸らすだけ。
その光景を目撃してしまった来海の胸は、痛みが心臓を強く締めつけていく。
入るタイミングを失った来海は視界に映る二人から目を逸らすことが出来ずに暫くその場に立ち尽くしていた。
「エマ、こういうのは困るよ」
やんわりと距離を置こうとする充輝を前にしたエマは少しだけ表情を曇らせる。
「……どうして? 傍に寄るの、ダメなの?」
「こんなにくっつく必要は無いでしょ?」
「あるわ、だって私は――」
二人のやり取りをこれ以上見たく無かった来海が何も知らないフリをしながら扉を開けると、エマは弾かれたように充輝から距離を取った。
ほんの一瞬の動きだったが、その場に微妙な気まずさが落ちる。
来海は先ほどのやり取りを見ていたことを悟られぬよう小さく息を整えた後で、
「ごめんなさい……少し酔ってしまったみたいなので、お先に失礼しますね」
そう告げると財布から五千円札を取り出してそっとテーブルの上に置いた。
来海の言葉を聞いた充輝は反射的に立ち上がる。
「それなら送るよ。今日はもう、お開きにしよう」
しかし来海は静かに首を横に振ると穏やかな微笑みを浮かべた。
「大丈夫です。エマさんはまだお話し足りないでしょう? 久しぶりの再会なんですから、お二人でゆっくりしてください。私は、一人で帰れますから」
そう告げられた充輝は引き留める言葉を見つけられず、先に部屋を出て行く見送ることしか出来なかった。
そんな中、来海の言葉を聞いた瞬間エマは胸の奥で小さく笑った。
(ふふ、勝ち目はないと悟ったのね)
そう確信した手応えが彼女をさらに大胆にさせる。
来海が店を出た後も会話は続き、二人きりになったことでエマは自然を装いながら更に充輝との距離を詰めて次の店を提案する。
「ねぇ、もう一軒行かない?」
けれど充輝は誘いに乗ることなく、きっぱりと言った。
「いや、もう帰ろう」
その声には迷いがなかったことで、エマは一瞬だけ悔しそうに唇を噛んだ。
それから店を出た途端、エマは足元をふらつかせ、わざとらしく充輝にもたれかかる。
「ごめん……急に気分、悪くなってきちゃって……」
甘えた声が耳元で囁かれたことで、充輝は思わず体を強張らせた。
「大丈夫? タクシー乗れそう?」
「うーん、このままじゃ、タクシーには、乗れなさそう……」
「…………」
突き放すわけにも放っておくわけにもいかない距離。
タクシーには乗れなさそうだと言うエマを前に少し考えた充輝は言った。
「……それじゃあ、少し歩いた先に公園があるから、そこで少し休もう」
本心ではホテルを期待していたエマだったが、その思惑を表に出すことはせずに素直に頷く。
「うん……ありがとう」
二人は並んで歩き出す。
ホテル街を抜けた先にある公園へ向かって。
その途中、街灯の下で肩を寄せ合う二人の姿を偶然にも会社の人間が目撃してしまう。
しかも、場所が場所なだけに事情を知らぬ者に誤解を与えるには十分な光景だった。
そして、週明けにその噂は瞬く間に広がっていく。
「金曜日の夜、ホテル街で一緒だったらしい」
「肩寄せ合って歩いてたって」
「二人は同僚だし、そういう仲だったってこと」
それはいつの間にか二人がホテルに入ったという話にまで膨らんでいき、当然その噂は来海の耳にも届いていた。
あくまでも噂だとは思うものの、事実かどうかを確かめる術もないまま来海の心を締めつけた。
(どうして、あの時帰ってしまったんだろう)
そして、あの日の自分の選択を来海は何度も何度も悔やんでいた。
社内に広がった噂を耳にした瞬間、充輝は迷わず行動に移した。
「その話は誤解です。ホテルには入っていません」
酒に酔ったエマを気遣い、肩を貸して歩いたこと。
ホテル街を抜けた先にある公園で休ませただけで、部屋に入った事実はないこと。
そして最後に、きっぱりとこう付け加えた。
「エマとはあくまで同僚で、それ以上でも、それ以下でもありません」
聞く側は表向きには納得したように頷いていた。
けれど充輝は分かっていた。
噂というものは否定すればする程に広がっていくことを。
(俺が軽率だった……向坂さんも疑ってるかな……)
噂を聞いた瞬間、充輝の頭に真っ先に思い浮かんだのは来海の顔だった。
すぐにでも誤解を解きたかったものの、来海の傍には常にエマがいた。
エマや他の社員の案内係として傍に居る来海と会社で二人きりになるのは無理だと判断した充輝は仕事が終わってから話をしようと思い、その日一日は仕事に集中出来ないまま過ぎていく。
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