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中等部編
リア充
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「…………うん。」
「何か言いたいことがあるなら言ってはどうですか、日和。」
球技大会開会式が終わり、解散となったところで一試合目から僕は試合があるので第一体育館へ向かう。ちなみに天原学園中等部には全4つの体育館が存在する。今回は、第一、第二でバスケ、第三、第四でバレーの試合が行われることになっているのだ。
全校生徒で行われる球技大会は円滑な運営のためにしっかりとタイムテーブルが定められており、なおかつ午前午後、それぞれ予選本線という形になっている。午前中には六試合行われ、自分の試合がないときは各々のクラスの応援に向かうことになっている。
一試合目からある僕たちと異なり、日和は第三試合目からドッヂの試合があるらしい。うっかりプログラムを見落とすと大変なことになる。
そして現在、僕らのバスケを観戦するらしい日和と、一緒のチームである蓮様、黒海と第一体育館に向かっているのだが、開会式の時から日和からなんとも言えない視線が送られるのだ。視線がうるさい。
「いや、さ……。体操服は女子も男子も同じデザインでしょ?だから男装してない涼ちゃんも普通に女の子に見えるかとも思ったんだけど……見紛う事なき男子だね。清々しいよ。」
「ぶふっ……!くくくっ……、」
「黒海、試合前に腹筋崩壊させんなよ?」
「ぐっ……そんなこと僕が誰よりも知ってますよ!」
改めて三人にじろじろと見られ居心地が悪くなる。
半袖ハーフパンツのジャージから伸びる足、腕は完全に男子のそれだ。色こそ白いものの女の子独特の柔らかさや丸みは一切ない。刀を握ってきた両手は普通の人よりも若干大きめで節が目立ち、肉刺が何度もつぶれては治ったため皮膚が厚い。身長自体は女子の中では高めという程度で男子の同じくらいという訳ではない。身体のサイズは普通なのだ。ただ柔らかさがない。脂肪はまったくついておらず、バネで動くため不必要な筋肉は完璧にそぎ落とされている。手足が細いもののの、それは女子の滑らかな曲線の細さではなくひたすらに骨と良質な筋肉しかないのだ。
別に今の身体能力を捨てて女の子のような体になりたいとは微塵も思わないのだが、まじまじと比べられると気にせざるを得ない。
「……いいですもん。完全無欠なイケメン目指しますもん。」
「もんとか、言うな……、男顔がそんなこと、言っても、可愛くも、なんともない……。」
「りょ、涼ちゃん!可愛いよ!?」
「進藤、無茶なフォローを試みるな。」
なぜ皆して傷口に塩を塗りこむような真似を……。
「でもよ、バスケの試合じゃあ男女混合だけど、女子に見えないお前じゃ手加減とかしてもらえなさそうだよな。」
「え?何言ってるんです?手加減なんてされたら相手を潰しにくいじゃないですか。」
相手の戦意を根こそぎ奪って這いつくばらせましょう。
一瞬の沈黙が四人の間に横たわる。
「涼……お前はバスケを、格闘技か何かと勘違いして、いる……。」
「うん、さすがにそれは拙いからそこそこに頑張ろうよ?」
「僕は相手が誰であろうと、自身の全力、持てる力のすべてを使い、敬意を持って相手を潰すのがポリシーですから。」
「なんかすごい懐かしいセリフ……!」
ある程度の手加減、相手にけがをさせないことなどいくつかを約束させられながら第一体育館に到着した。怪我をさせるつもりはないのに、どうしてあんなにも念入りに説得されたのが分からない。そう口にしたところ蓮様と黒海に声をそろえて、
「お前はテンション上がった時なりふり構わないうえに手加減を知らないから。」
と言われてしまった。
いったいどんな時の僕を見てそんな印象を抱いたのか、正直小一時間問い詰めたいところだ。
「じゃ、白樺君と黒海君頑張って!……涼ちゃんはほどほどに頑張って!」
「……なんか応援されてる気分じゃありませんね。」
男女混合ということもあり、使うコートは半面だけと小さい。
だが相手のチームと挨拶するときにふと気づく。女子が一人もいない。
男女混合というのはあくまでも名目で、必ず男女混合のチームにしなくてはならないというルールはないのだ。そしてこのやたらむさい状況が作り出されている。流石にバスケ経験者や女子バスケ部を入れているチームもあるのだろうが、大体がバレーかドッヂに流れてしまったのだろう。現に僕のクラスでも女子はほとんどバスケにでない。もう一チームバスケ経験者と部員で固めたチームもあるが、たぶんそれは男子ばかりのチームに当たらないように生徒会が調整しているのだろう。いろいろと腑に落ちないが、その分応援席に女子が来てくれることは喜んでおこう、うん。
「あれ、ここのコート男子しかいねぇな?」
「男女混合の意味ねぇわー。」
同じことを相手も考えていたようで。
「ぶはっ……くく、……!」
「いっそもう我慢しないで笑ってくださいよ……!」
まあ当然黒海が吹き出しつつも我慢する気があるのかないのか肩を震わせる。そしてチームメイトからは居たたまれない視線。
「き、気にすんな!赤霧もちゃんと女子だから、な!」
「そうそう!よく見れば女子に見えないこともないこともない!」
「バッカ、それ一周回って男子になってるぞ!?」
「もうフォローとか良いですからっ!慣れてますからっ!!」
フォローしようと頑張ってくれてるのは大変伝わるのだが、結果的にフォローどころか叩き落としている。本気でフォローしようとしてくれてる分、蓮様達より性質が悪い。そして地味に最近気付いたのだが、クラスの男子たちは女子には『さん』とか敬称を付けているのだが、僕は苗字で呼び捨て。日常生活から完全に男子扱い。
若干涙目の僕に追い打ちをかけるように蓮様がポン、と肩を叩いた。辛い。
「周りからどう見られてても涼は涼だからな!」
「あう……、」
何はともあれ、チームメイトに励まされながらゲームが始まる。素人集団なので、PGやSGなどは特に決まっていないため皆状況に応じて、とりあえずボールをゴールに入れることだけを考えている。
ピ――――ッ!
ジャンプボールはチームの中で一番背の高い人がやることになった。
味方か相手か、弾かれたボールをさっさと掻っ攫って腹いせにダンクを決めた僕は悪くない。悪いのは僕が女子だと気付かなかった相手とフォローが下手な心優しきチームメイト、なのです。
試合時間は二十分。十分でコートを交代の二セット。勝負がつかなかった場合のみもう一セットを十分行う。そのため、一試合につき余裕をもって三十分取られているのだ。球技大会を円滑に行うための、数年前の生徒会の素晴らしい策である。
まあそれと今回の試合は、全く関係ないのだけれど。
「安定の、涼、だな……。遠慮も手加減も、知らない……。」
「遠慮も手加減もしましたよ。全員無傷ですし相手もコートに這いつくばってません。」
「待って!お前の基準おかしい!!ていうか何で赤霧帰宅部なんてしてんだよっ!?」
結果だけ言うとそこそこ圧勝。数十点差はあるもののトリプルスコアまではいっていない。遠慮と手加減の賜物であると胸を張って言おう。
「まあそんなことより……蓮様大丈夫ですか?」
「だ、いじょうっ……ぶ、だっ……。」
ぜぇぜぇと息を整える彼の背中をさする。残念ながら、このチームはクラスの人数の調整のため六人ではなく五人で構成されているので、選手交代ができないのだ。つまり全員が二十分フルでコートに立つ。そして蓮様は虫の息だ。
「蓮、大丈夫じゃ……ない、な。」
「つうか白樺と赤霧、普通立場逆だろ。何で唯一の女子が一番余裕綽々なんだよ。」
「鍛え方が違うんです。」
「た、体力おばけ、畜生ッ……!」
「すいません、辛いならとりあえず黙ってましょうか。」
体力が尽き掛けている蓮様を窘めつつ、ふと二階の見学席を見ると、さっきまで最前列にいた日和の姿が見当たらない。
「……あれ?」
「涼ちゃーんっ!」
「ぐっ……!」
いつかのように日和が後ろから抱きついた。地味に、地味に痛い。遠慮なくぶつかってくるので最近背骨が折れやしないかひそかに危惧している。
「涼ちゃんかっこ良かったよー!ダンクすごかった!本当に男子と遜色ないどころか男子よりもずっとすごいね!……あ、みんなもかっこ良かったよ?」
「俺らはおまけか……。」
じゃれついてくる日和を適当にあしらっていると、相手チームの一人がぼそりと呟く声が聞こえた。
「イケメン最強リア充とか……爆発しろ。」
それが聞こえていたらしい黒海は、まあ例のごとく。
チームメイトからは可哀そうなものを見る目で見られた。畜生。
「何か言いたいことがあるなら言ってはどうですか、日和。」
球技大会開会式が終わり、解散となったところで一試合目から僕は試合があるので第一体育館へ向かう。ちなみに天原学園中等部には全4つの体育館が存在する。今回は、第一、第二でバスケ、第三、第四でバレーの試合が行われることになっているのだ。
全校生徒で行われる球技大会は円滑な運営のためにしっかりとタイムテーブルが定められており、なおかつ午前午後、それぞれ予選本線という形になっている。午前中には六試合行われ、自分の試合がないときは各々のクラスの応援に向かうことになっている。
一試合目からある僕たちと異なり、日和は第三試合目からドッヂの試合があるらしい。うっかりプログラムを見落とすと大変なことになる。
そして現在、僕らのバスケを観戦するらしい日和と、一緒のチームである蓮様、黒海と第一体育館に向かっているのだが、開会式の時から日和からなんとも言えない視線が送られるのだ。視線がうるさい。
「いや、さ……。体操服は女子も男子も同じデザインでしょ?だから男装してない涼ちゃんも普通に女の子に見えるかとも思ったんだけど……見紛う事なき男子だね。清々しいよ。」
「ぶふっ……!くくくっ……、」
「黒海、試合前に腹筋崩壊させんなよ?」
「ぐっ……そんなこと僕が誰よりも知ってますよ!」
改めて三人にじろじろと見られ居心地が悪くなる。
半袖ハーフパンツのジャージから伸びる足、腕は完全に男子のそれだ。色こそ白いものの女の子独特の柔らかさや丸みは一切ない。刀を握ってきた両手は普通の人よりも若干大きめで節が目立ち、肉刺が何度もつぶれては治ったため皮膚が厚い。身長自体は女子の中では高めという程度で男子の同じくらいという訳ではない。身体のサイズは普通なのだ。ただ柔らかさがない。脂肪はまったくついておらず、バネで動くため不必要な筋肉は完璧にそぎ落とされている。手足が細いもののの、それは女子の滑らかな曲線の細さではなくひたすらに骨と良質な筋肉しかないのだ。
別に今の身体能力を捨てて女の子のような体になりたいとは微塵も思わないのだが、まじまじと比べられると気にせざるを得ない。
「……いいですもん。完全無欠なイケメン目指しますもん。」
「もんとか、言うな……、男顔がそんなこと、言っても、可愛くも、なんともない……。」
「りょ、涼ちゃん!可愛いよ!?」
「進藤、無茶なフォローを試みるな。」
なぜ皆して傷口に塩を塗りこむような真似を……。
「でもよ、バスケの試合じゃあ男女混合だけど、女子に見えないお前じゃ手加減とかしてもらえなさそうだよな。」
「え?何言ってるんです?手加減なんてされたら相手を潰しにくいじゃないですか。」
相手の戦意を根こそぎ奪って這いつくばらせましょう。
一瞬の沈黙が四人の間に横たわる。
「涼……お前はバスケを、格闘技か何かと勘違いして、いる……。」
「うん、さすがにそれは拙いからそこそこに頑張ろうよ?」
「僕は相手が誰であろうと、自身の全力、持てる力のすべてを使い、敬意を持って相手を潰すのがポリシーですから。」
「なんかすごい懐かしいセリフ……!」
ある程度の手加減、相手にけがをさせないことなどいくつかを約束させられながら第一体育館に到着した。怪我をさせるつもりはないのに、どうしてあんなにも念入りに説得されたのが分からない。そう口にしたところ蓮様と黒海に声をそろえて、
「お前はテンション上がった時なりふり構わないうえに手加減を知らないから。」
と言われてしまった。
いったいどんな時の僕を見てそんな印象を抱いたのか、正直小一時間問い詰めたいところだ。
「じゃ、白樺君と黒海君頑張って!……涼ちゃんはほどほどに頑張って!」
「……なんか応援されてる気分じゃありませんね。」
男女混合ということもあり、使うコートは半面だけと小さい。
だが相手のチームと挨拶するときにふと気づく。女子が一人もいない。
男女混合というのはあくまでも名目で、必ず男女混合のチームにしなくてはならないというルールはないのだ。そしてこのやたらむさい状況が作り出されている。流石にバスケ経験者や女子バスケ部を入れているチームもあるのだろうが、大体がバレーかドッヂに流れてしまったのだろう。現に僕のクラスでも女子はほとんどバスケにでない。もう一チームバスケ経験者と部員で固めたチームもあるが、たぶんそれは男子ばかりのチームに当たらないように生徒会が調整しているのだろう。いろいろと腑に落ちないが、その分応援席に女子が来てくれることは喜んでおこう、うん。
「あれ、ここのコート男子しかいねぇな?」
「男女混合の意味ねぇわー。」
同じことを相手も考えていたようで。
「ぶはっ……くく、……!」
「いっそもう我慢しないで笑ってくださいよ……!」
まあ当然黒海が吹き出しつつも我慢する気があるのかないのか肩を震わせる。そしてチームメイトからは居たたまれない視線。
「き、気にすんな!赤霧もちゃんと女子だから、な!」
「そうそう!よく見れば女子に見えないこともないこともない!」
「バッカ、それ一周回って男子になってるぞ!?」
「もうフォローとか良いですからっ!慣れてますからっ!!」
フォローしようと頑張ってくれてるのは大変伝わるのだが、結果的にフォローどころか叩き落としている。本気でフォローしようとしてくれてる分、蓮様達より性質が悪い。そして地味に最近気付いたのだが、クラスの男子たちは女子には『さん』とか敬称を付けているのだが、僕は苗字で呼び捨て。日常生活から完全に男子扱い。
若干涙目の僕に追い打ちをかけるように蓮様がポン、と肩を叩いた。辛い。
「周りからどう見られてても涼は涼だからな!」
「あう……、」
何はともあれ、チームメイトに励まされながらゲームが始まる。素人集団なので、PGやSGなどは特に決まっていないため皆状況に応じて、とりあえずボールをゴールに入れることだけを考えている。
ピ――――ッ!
ジャンプボールはチームの中で一番背の高い人がやることになった。
味方か相手か、弾かれたボールをさっさと掻っ攫って腹いせにダンクを決めた僕は悪くない。悪いのは僕が女子だと気付かなかった相手とフォローが下手な心優しきチームメイト、なのです。
試合時間は二十分。十分でコートを交代の二セット。勝負がつかなかった場合のみもう一セットを十分行う。そのため、一試合につき余裕をもって三十分取られているのだ。球技大会を円滑に行うための、数年前の生徒会の素晴らしい策である。
まあそれと今回の試合は、全く関係ないのだけれど。
「安定の、涼、だな……。遠慮も手加減も、知らない……。」
「遠慮も手加減もしましたよ。全員無傷ですし相手もコートに這いつくばってません。」
「待って!お前の基準おかしい!!ていうか何で赤霧帰宅部なんてしてんだよっ!?」
結果だけ言うとそこそこ圧勝。数十点差はあるもののトリプルスコアまではいっていない。遠慮と手加減の賜物であると胸を張って言おう。
「まあそんなことより……蓮様大丈夫ですか?」
「だ、いじょうっ……ぶ、だっ……。」
ぜぇぜぇと息を整える彼の背中をさする。残念ながら、このチームはクラスの人数の調整のため六人ではなく五人で構成されているので、選手交代ができないのだ。つまり全員が二十分フルでコートに立つ。そして蓮様は虫の息だ。
「蓮、大丈夫じゃ……ない、な。」
「つうか白樺と赤霧、普通立場逆だろ。何で唯一の女子が一番余裕綽々なんだよ。」
「鍛え方が違うんです。」
「た、体力おばけ、畜生ッ……!」
「すいません、辛いならとりあえず黙ってましょうか。」
体力が尽き掛けている蓮様を窘めつつ、ふと二階の見学席を見ると、さっきまで最前列にいた日和の姿が見当たらない。
「……あれ?」
「涼ちゃーんっ!」
「ぐっ……!」
いつかのように日和が後ろから抱きついた。地味に、地味に痛い。遠慮なくぶつかってくるので最近背骨が折れやしないかひそかに危惧している。
「涼ちゃんかっこ良かったよー!ダンクすごかった!本当に男子と遜色ないどころか男子よりもずっとすごいね!……あ、みんなもかっこ良かったよ?」
「俺らはおまけか……。」
じゃれついてくる日和を適当にあしらっていると、相手チームの一人がぼそりと呟く声が聞こえた。
「イケメン最強リア充とか……爆発しろ。」
それが聞こえていたらしい黒海は、まあ例のごとく。
チームメイトからは可哀そうなものを見る目で見られた。畜生。
応援ありがとうございます!
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