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「生徒会長!?」
琴美は素っ頓狂な声をあげた。
「先輩、声大きいです」
「…ゴメン」
多分聞こえていたであろうマスターは、素知らぬ顔でグラスを磨いている。他の客も、こちらの話に聞き耳を立てている人はいないようだ。
「篠崎くんが告白してきたの?」
「びっくりしました」
「そうよね。そういうことするイメージないもんね」
篠崎武志は、二人が勤める県立高校の生徒会長であった。文武両道、健全な高校生の見本のような男であり、校内では「堅物」の代名詞としても名前が通っていた。
「やっぱり直球だった?」
純粋に興味を惹かれて、琴美は訊いた。
「豪速球。ストレート、ド真ん中」
「ちなみになんて言われたか訊いてもいい?」
「『愛してます。卒業したら結婚してください』って一瞬たりとも目を反らさずに言われました」
「それはまた……告白通り越してプロポーズね」
「そうなんですよ。あたしもビックリしちゃって」
「それで、そのド真ん中のホームランボールをどうしたの? 場外までかっ飛ばしたの?」
「バットが出なかったんです……」
深雪はガックリ肩を落とした。
ああ、いい球過ぎるとかえって手が出ないってアレね。
「オロオロして、挙げ句の果てに『少し考えさせて』って逃げてきちゃったんです」
放っておいたらどこまで落ち込むのか、という勢いで深雪は沈んでいく。
「いい年した女が…情けない……」
「情けないってそんな…争ってるわけじゃないんだから……」
「そんなのんきなこと言ってられません。この年になったら甘い球だけ待ってたらダメなんです。クサい球はカットで粘って、ストライクゾーンにきた球は絶対に見逃さない。そういう姿勢が必要になるんです」
「…左様でございますか……」
何だ、相談なんて言ってるけど、自分の中で答えは出てるんじゃない。ただ背中を押して欲しいだけなのね。
「卒業したらってことなら何の問題もないんじゃない?」
「つきあい自体はすぐにでもってことみたいなんですけど……」
「バレた時の覚悟はできてる?」
琴美は目力を強めた。
「生徒とつきあう場合、バレた時に一方的にリスクを負うのは教師の側よ。それは理解できてる?」
「はい」
「ならそれ以上わたしから言うことはないわ」
「反対しないんですか?」
「して欲しいの?」
「そういうわけじゃないんですけど……」
「ならいいじゃない」
琴美は微苦笑しながら言った。
「どうせあたしが反対したって、自分の気持ちは決まってるんでしょ」
「実はそうなんです」
深雪はぺろりと舌を出した。
「ただ、自分の気持ちを確かめたかったんです。先輩に強く反対されても揺らがないような気持ちなら前に進もうって思ってました」
「あら、じゃあ期待には添えなかったのかしら?」
「そんなことないです。おかげさまで覚悟、決まりました」
深雪は晴れ晴れとした笑顔で言った。
琴美も笑顔を返す。
「立場上頑張れとは言いにくいけどーー上手くやりなさい」
「はい。ありがとうございます」
二人は軽くグラスを合わせた。
琴美は素っ頓狂な声をあげた。
「先輩、声大きいです」
「…ゴメン」
多分聞こえていたであろうマスターは、素知らぬ顔でグラスを磨いている。他の客も、こちらの話に聞き耳を立てている人はいないようだ。
「篠崎くんが告白してきたの?」
「びっくりしました」
「そうよね。そういうことするイメージないもんね」
篠崎武志は、二人が勤める県立高校の生徒会長であった。文武両道、健全な高校生の見本のような男であり、校内では「堅物」の代名詞としても名前が通っていた。
「やっぱり直球だった?」
純粋に興味を惹かれて、琴美は訊いた。
「豪速球。ストレート、ド真ん中」
「ちなみになんて言われたか訊いてもいい?」
「『愛してます。卒業したら結婚してください』って一瞬たりとも目を反らさずに言われました」
「それはまた……告白通り越してプロポーズね」
「そうなんですよ。あたしもビックリしちゃって」
「それで、そのド真ん中のホームランボールをどうしたの? 場外までかっ飛ばしたの?」
「バットが出なかったんです……」
深雪はガックリ肩を落とした。
ああ、いい球過ぎるとかえって手が出ないってアレね。
「オロオロして、挙げ句の果てに『少し考えさせて』って逃げてきちゃったんです」
放っておいたらどこまで落ち込むのか、という勢いで深雪は沈んでいく。
「いい年した女が…情けない……」
「情けないってそんな…争ってるわけじゃないんだから……」
「そんなのんきなこと言ってられません。この年になったら甘い球だけ待ってたらダメなんです。クサい球はカットで粘って、ストライクゾーンにきた球は絶対に見逃さない。そういう姿勢が必要になるんです」
「…左様でございますか……」
何だ、相談なんて言ってるけど、自分の中で答えは出てるんじゃない。ただ背中を押して欲しいだけなのね。
「卒業したらってことなら何の問題もないんじゃない?」
「つきあい自体はすぐにでもってことみたいなんですけど……」
「バレた時の覚悟はできてる?」
琴美は目力を強めた。
「生徒とつきあう場合、バレた時に一方的にリスクを負うのは教師の側よ。それは理解できてる?」
「はい」
「ならそれ以上わたしから言うことはないわ」
「反対しないんですか?」
「して欲しいの?」
「そういうわけじゃないんですけど……」
「ならいいじゃない」
琴美は微苦笑しながら言った。
「どうせあたしが反対したって、自分の気持ちは決まってるんでしょ」
「実はそうなんです」
深雪はぺろりと舌を出した。
「ただ、自分の気持ちを確かめたかったんです。先輩に強く反対されても揺らがないような気持ちなら前に進もうって思ってました」
「あら、じゃあ期待には添えなかったのかしら?」
「そんなことないです。おかげさまで覚悟、決まりました」
深雪は晴れ晴れとした笑顔で言った。
琴美も笑顔を返す。
「立場上頑張れとは言いにくいけどーー上手くやりなさい」
「はい。ありがとうございます」
二人は軽くグラスを合わせた。
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