貴族令嬢の身代わりでお見合いしたら気に入られて輿入れすることになりました

猫男爵

文字の大きさ
88 / 136

第88話 作戦前夜

しおりを挟む
「お嬢様の様子はいかがですか?」

 パンナが騎士団付きの医師に尋ねる。アンセリーナは気を失った後この騎士団駐屯所の医務室に運ばれて寝かされていた。

「衰弱が激しいですが、今のところ安定しています。このまま休んでいれば大丈夫でしょう」

「よかった……」

「しかしどうするパンナ?父親が自分を利用しようとしていたとしればアンセリーナ嬢もショックを受けるだろう。エルモンド卿のところに帰していいものかな?」

 ボナーがアンセリーナの顔を見ながら言う。

「とりあえず作戦が終わるまではここで休ませて頂いて、それから事情を説明しましょう。旦那様の所に戻るかはお嬢様の意思に任せたいと思います」

「そうだな。君はもう少しここでアンセリーナ嬢に付いていればいい。君自身も疲れてるだろう」

「はい。ありがとう、ボナー」

 ボナーは微笑んで医務室を後にし、駐屯所の屋上に向かう。眼下では多くの騎士たちが帝国軍を迎え撃つ準備に動き回っていた。

「ここにいましたか、ファングさん」

 ボナーは手すりにもたれかかり下を見ているファングに声を掛ける。

「おう、ここの騎士たちは真面目だな。よく働いてるわ」

「団長のミリアさんがしっかりしてますからね。緊張感を持って任務に当たっているんでしょう」

「『白銀の剣姫』の噂は俺も聞いたことがある。実際会ってみて納得したよ。ありゃ相当の使い手だな」

「僕も同意見です。剣を持っていなくても隙がまるでない」

「あんたも相当の腕と見たがな。で、どんな話をするために来たんじゃねえんだろ?」

「ええ。あなた方を雇ってるHLO。それにあなたたちを創った天使の末裔が誰か教えてもらいたくて」

「ああ~。そうなるよな。あんたなら気付いてると思ったよ。俺の雇い主、それに創った連中がこの国の中枢にいることをな」

「ええ。それなりの財力と権力、それに情報収集力が無ければあなたたちのような存在を生み出すことは出来ませんし、あなた方を雇うどころか、天使の元から逃げ出したあなたたちとコンタクトすら取れなかったでしょうからね」

「その通りだ。あいつらのところから逃げ出してそんなに経たないうちにコンタクトを受けたからな。あれには俺たちも驚いた」

「『四公』、もしくは八源家オリジンエイトですね?」

「ここまで来たら隠しても無駄か。その通りだ。俺たちを創った天使の末裔は八源家オリジンエイトの一つ、アスモデウス家だ。そして俺たちの雇い主は『四公』の一つ、キシュナー家さ」

八源家オリジンエイトの中でも最大の権勢を誇ると言われるアスモデウス侯爵家と王国西部を統治するキシュナー公爵家か。なるほど、オランド君が情報通なのも納得だな」

「HLOは先々代の当主の時にキシュナー家に接触したらしい。それから王国中に情報網を張り巡らしたようだな」

「ということは最近までグランダ大陸からこの大陸に各勢力が渡って来ていたと?」

「そりゃそうだろう。現に異郷人エトランゼと呼ばれてる奴らがいるじゃねえか。船が遭難して偶然ここに流れ着いたやつもいるだろうが、大半はどこかの手の者さ」

「この国の中枢はかなりグランダ大陸の勢力に取り込まれてるんだな」

「俺に言わせりゃあんたの家がどこの勢力にも属してなかった方が不思議なくらいだ。帝国と接しているってのが大きな理由なんだろうが」

「『四公』のうち南部のイグニアス家は純血の上位霊種スピリチュアー派。西部のキシュナー家はHLO派。東部のゴンドアナ家はどうなんですか?」

「あそこはキシュナー家の調査でもよく分からんらしい。商国と密かに取引があることは分かっているがな」

「商国ですか。……グララさん、でしたか。彼が王国内にも商国で略奪行為を行っている大物貴族がいると言っていたらしいですね。リーシェから聞きました」

「ふうん、おそらくゴンドアナ家だろうな。商国の中央会議にいる奴とコネを作ってるんだろう」

「商国はそれに関してダンマリですか?」

「全ての種族がそうではなかろう。どこかの勢力がそこに付けこんでいる可能性は高いな。商国は海に面しているしな」

「商国の獣人族ワービースト上位霊種スピリチュアー異能ギフトを与えられているんでしょうか?」

「ありうるな。商国はイグニアス家の統治する南部からは遠いが、イグニアス家はあちこちに飛び地を持ってるんだろう?」

「ええ。この近くだと商業特別自治区というのがあります。商国との国境にあり、メキアの森の東端ですね」

「おあつらえの場所じゃねえか。獣人族ワービーストに接触するならよ」

「どうにか調査に入りたいですね」

「今回の作戦が成功して帝国のオーディアル信徒がイリノアの説得に応じりゃやりようはあるんじゃねえか?」

「そうですね。どちらにせよ各勢力に取り込まれていない者たちで徹底的な調査をしなければならないでしょう」

「王家を味方に付けるのが肝要だな。あんたが今回の作戦で武功を上げ、発言力を高めるのも重要だぜ?」

「分かってます。この国、いえこの大陸を守るためにも」

 ボナーはそう言って固く口を結んだ。



「国境周辺の村の制圧が完了したそうよ。本隊が明日モースキンに攻め込むわ。うちも騎士団を出すことになったわ」

 パンナたちがモースキンに着いた翌日。オネーバーの居城でギルディス・タイア・マードック辺境伯が叡智樹懶ワイズスロースの男に向かって話す。ボボルが思考を読んでいるギルティス家の軍師、ピピルである。

「ふん、気に食わんな」

 ピピルは長いかぎ爪で頭を掻きながら呟く。

「何がよ?」

「話が上手くいきすぎている。本当に王国の獣人族ワービーストはこっちに付いたのか?」

「そう聞いてるわよ。実際バーガットって大尉が占領した村を見てきたらしいし」

「そのバーガットに接触したのは鎧蜥蜴アーマーリザードなんだろう?」

「そう聞いてるけど?」

「ガニア卿が商国で鎧蜥蜴アーマーリザードの管理する鉱山を略奪したという話は聞いてるか?村でかなり非道な真似をしてるそうだ」

「ガニア卿が?いいえ。逆に何であんたが知ってるのよ?」

「それくらいの情報網を持たなきゃ軍師とはいえんだろうよ」

「それはそうね。なら何であたしに報告しなかったの?」

「とりあえずは必要が無いと思ったからだ。しかしこういう状況になると話は変わってくる」

「その鎧蜥蜴アーマーリザードが裏切っていると?でも大尉はメキアの森で見つけた個体に声をかけたそうよ。それがその奪われた村の出身とは……」

「考えにくいだろうな。帝国軍だと言った時点で襲われてるだろう」

「でしょ?考え過ぎじゃない?」

「万一の事態まで予測しておくのが俺の仕事だ。ギルティス、派遣する騎士は最低限にしておけ。王国との交渉の余地を残しておくんだ」

「まさかあの数で攻めて負けるというの?」

「言ったろう。万一の事態まで考えておくとな。何とでも理由を付けて騎士の派遣は抑えておけ」

「考え過ぎだと思うけど分かったわ。あんたの献策にはこれまでも助けられたしね」

 ギルティスはそう言って何と参謀本部に言い訳しようかと考えを巡らせた。



「各隊の編成、完了いたしました」

 大隊長の報告を聞き、今回の大規模侵攻作戦の指揮を任されたグランツ・マインスキフ大佐が頷く。参謀本部きってのタカ派であるコーゼン・カールストフ少将の腹心であり、地方の反乱鎮圧で多大な戦果を挙げた猛将だ。

「大砲の一斉射撃を合図に王国内のケダモノたちがモースキンの門を内側から開けるという手筈に変わりはないな?」

「はっ!バーガット大尉からもそのように伺っております」

「ふん。銃火器も碌に揃っていない王国相手にケダモノどもの力を借りるというのは面白くないが、背に腹は代えられんからな。兵糧の方はどうだ?」

「三日もすれば尽きるかと」

「どちらにせよここが限界だ。ケダモノどもの協力が無くても作戦をこれ以上遅らせることは出来ん。辺境伯からの増援は?」

「それが町で不穏分子が確認されたとのことで、予定の半分も来ておりません。食料の支援は多少ありましたが」

「ちっ!怪しげな教団などさっさと排除すればよいものを。まあいい。本隊だけでも十分勝てる」

 グランツはそう言って貴重な飲み水をぐい、とあおった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私、実はマンドラゴラです! 仲間が根絶やしにされかかってたので守ってあげることにしました! 街でポーション屋を開きつつ、ついでに魔王軍も撃退

あなたのはレヴィオサー
ファンタジー
【一行あらすじ】  擬人化マンドラゴラの女の子主人公が仲間たちを守るために街でポーション屋を開きつつ魔王軍を追っ払う話。 【ちゃんとしたあらすじ】  とあるポーション屋の店主、アルメリア・リーフレットの正体は"擬人化"したマンドラゴラである。魔物について、とりわけ強い魔力を持つ個体は、成長に伴って人の姿へ近づく——そんな現象が古くより報告されてきた。スライムからドラゴンまで前例は様々あるが、アルメリアはなんとその希少すぎるマンドラゴラ版。森で人間の少女として拾われ、育てられた彼女はある日ふと思う。——もしかしてこの広い世界のどこかに、自分と同じような存在がいるのではないか? そうと確信し、旅に出る。やがて通常のマンドラゴラたちがひっそりと暮らす集落にたどり着くが……。そこではちょうど彼らを巡って、魔王軍と冒険者たちが衝突しているところだった。このままではいずれ、自分たちは根絶やしにされてしまうだろう。シクシクと泣いている彼らをまえに、見捨てて立ち去るわけにもいかず。アルメリアは深いため息とともに覚悟を決めた。 「……はぁ、わかりました。そういうことでしたら」

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...