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#22-2年末年始には時期尚早でして
しおりを挟む噎せ返るほど濃厚な葡萄の匂いが鼻腔に充溢する。
匂いはキツイが開けた空間に投げ出されたのが肌で分かった。
「みんな!」
すかさず翼を広げて旋回する。
カリスと骨小僧はなんとか空中でキャッチできたものの、骨士くんと骨魔ちゃんまでは手が届かず取りこぼしてしまった。
「あっ……!」
「いー」
「いーいーっ」
気にする必要はないという意を叫んだ剣士と魔法使いの人骨は、あっという間に紫煙の向こうへと消えていく。
慌てて追いすがるも、視界が悪すぎて完全に見失ってしまった。
仕方がない。地面でバラバラになってたら後で繋ぎ合わせてあげよう。
相変わらずノーリアクション芸なカリスと、興味深そうにきょろきょろ辺りを見回す骨小僧を両脇に抱え、足場らしき地面に降り立った。
ぐにゅり、という妙な着地音にどんどん嫌な予感が増していく。
紫煙越しにうっすら見える地面は、鮮やかなピンク色。
その場で足踏みすれば、僅かに足が沈んだ後に押し上げる感触。
「い?」
俺の胸元の高さにある骨小僧の頭蓋骨がカタカタと遠くの方を見遣った。
つられるように俺とカリスも視線を追いかけると、紫煙の向こうから何かの音が聞こえてくる。
ドッドッドッドッ……と腹の底を静かに殴りつけるような重低音。
ドラム音に似ているが、妙な生々しさがある。
地獄の底から這いあがってくるような不穏な音に混じり、どこからか甲高い奇声や悲鳴が上がった。
それを契機に、やたらと歪で細長いピンク色の紐がバラバラと天井から降ってくる。
「うおっ……」
「イッ!」
ここの主は随分とエキセントリックな趣味をお持ちらしい。
目の前でストリングカーテンのように垂れ落ちてきたそれが、あろうことか生き物の臓物だと認識して、思わず声が出る。
骨小僧も三センチくらい頭蓋骨が飛び上がった。
カリスは鉄壁のクールフェイス。
やがて地鳴りのような響きと共に、馬鹿デカい影がこちらに向かってきた。
とてつもなく不穏な何かが近づいてくる。
俺はカリスと骨小僧を背後に、前に出た。
この紫煙は竜気。
となれば、これから出てくるものの正体は既に答えが出ている。
ズシン、と重量級のピンクの塊が、その姿を現した。
『シャッフルターイム!』
中年親父のような胴間声が響き渡るのと同時に紫煙が晴れ、中の空間がその姿を見せる。
袋小路の洞窟を占拠する、全面どピンク。
ありとあらゆる生物の肉を用いた造物で埋め尽くされていた。
天井にはルーレット、壁面には様々なゲーム盤がびっしりと掛けられ、地面にはチェス盤と駒が敷かれている。
何もかもが特大サイズで、その全てが生肉製。全方位肉尽くし。
血液は軽く除かれているせいで不思議と不潔感はなく、どこもかしこもピカピカだ。肉だけど。
生皮を剥がされ、剥き出しの肉で造られたカジノのど真ん中、これまた巨大なピンクの竜らしきものが鎮座していた。
全体的にみると確かに竜だ。
だがその体は、様々な肉塊の継ぎはぎで造られており、それぞれがうごうごと蠢いている。
先ほどからドッドッと音を鳴らしていたのはドラムでもなんでもなく、この肉による脈動だった訳だ。
肉と肉の継ぎ目に紫煙が渦巻いているので恐らく竜気で繋ぎ合わせ、その集合体を自身の肉体として操っているのだろう。
彼らが元はどんな生物だったか分からないが、この巨大な竜を形成するのに少なくとも五百体以上は殺されたんじゃなかろうか。
うわーい。すごーい。
アメリカのハロウィンシーズンにありがちなグロにグロ寄せてグロで固めてグロで炊き込んだみたいなホラーハウスみたーい。
そんな感じに真顔で現実逃避したくなるような光景である。
そしてなにより。
『よく来た、皆の衆。早速だが、お主らカードは何が好きか? ポーカー? バカラ? ブラックジャック? ババ抜きも良きかな。言うておくが、むろん賭けのゲームぞ!』
薄い肉のトランプを継ぎはぎの翼を使って器用にシャッフルする竜に、邪気はあっても反省はない。
どれだけ犠牲者を出したのかは知らないが、痛む良心など元より持ち合わせていないだろう。
なぜなら、やりたい事をやりたいようにやるのが竜だから。
正しく傲慢を体現している。
それはもう清々しいほどに。
その証拠にぽっかり空いた暗い眼窩には、生き生きとした青火が燃え盛っていた。
『何を賭けるか? 賭けるものは自らにとって大事であればあるほど良い。オススメは命! なぁに心配するでない。吾輩、色んなものを賭けすぎて肉体も骨も失ったのであるが、竜であるからして、今でも竜気と肉を媒介にピンピンしておる。芳醇な勝利の歓喜、辛酸たる敗北の絶望。命の賭けは最高のスパイスとなろう。さあさ遠慮はいらん。皆の衆、近う寄れ。賭けるぞ、さあ賭けるぞ、今すぐ賭けるぞ!』
「はは……竜名わかりやす~い……」
パチンカスかな。
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