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#50-2角を矯めて牛を殺すお話でして
しおりを挟む磨りガラスを挟んだような視界で素早く辺りを伺う。
ぼんやりしていても檻の向こうの外壁に明かりを灯されているおかげで柵の影がはっきりしている。
柵の終わりは大人二人が両手を広げて少し余るくらい。背後の挽肉機を運び入れるためか広めの檻に通されたようだ。
そうこうしている内に檻の向こうでガチャガチャと金属の擦れ合う音が鳴り響く。
騎士二人の影がせわしなく動いていることで何らかの準備をしているのが分かった。
ジルヴァ団長が楽しい自由研究がどうの言っていたので、まあ十中八九あんまり楽しくない道具だろう。
「準備が整うまで少し話をしようか。平和主義の竜よ」
団長がそう言うと、ギィ……と金属の軋む音とともに鉄柵の一部が動く。
視界がぼやけているせいで押戸か引き戸かは分からないが出入り口は俺から見て右脇の位置。
ジルヴァ団長が檻の中に入ってくるのを見ながら、いざという時のために記憶する。
そういえば、ここと似た場所を前世で見たな。
あれは金旅行のフランスだったか。豪勢な金尽くしのヴェルサイユ宮殿に直行したかったのに同行者がパリの地下納骨堂に行きたいとかで引きずられていった記憶が……あれ。
金旅行に行く時、俺は大抵一人だったはず。金を愛でる時はたっぷり時間をかけたかったから複数人で行くことはまずなかった。
じゃあ同行者ってなんだ? あれは、誰だったっけ。
歯抜けになった記憶に疑問符を浮かべたところで、首に衝撃。
強引に引き抜かれた剣が喉の肉を抉って血飛沫をあげるのが分かった。
「おぐっ……」
やだあ。変な声でちゃった。
お耳汚しすみませんねえ、と心内で謝りながら軽く吐血する。
ぼやけた視界に赤いものが広がり、同時に錆っぽい新鮮な血臭が鼻を刺した。お掃除係さん、すみません。クリーニング頑張って。
中々な目に遭っているが、こいつは願ってもない状況だ。
咳き込みながらも瞬時に首回りの骨肉が再生していき、新鮮な空気が気道を通り抜ける。妨げられない呼吸って素晴らしい。
「人間のなりをしていても、やはり化け物は化け物だな」
鼻で笑うジルヴァ団長に、なんとか口角を引き上げ、笑みを浮かべる。
「竜の再生パワーすご~い! って意味だよね? 誉めてくれてありが」
言い終わらないうちにガンッと胸に激痛が襲った。
背後からの異物感と衝撃で視界が揺れる。やべ。拍子にまたちょっぴり血をゲボっちゃった。
頭の中が銅鑼を叩かれたようにぐわんぐわんする。
まとまらない思考は少ししてから背後から胸に刺さった剣の柄を蹴られたようだと結論を出した。
いやいやムカついたからって蹴らなくてもよくないか。短気なのか。鉄分足りてるか。そこの鉄柵でも舐めて補給しなよ。
ただでさえ入っちゃいけない柄の部分まで入ってんだぞ胸の剣。
言いたいことは山ほどあるのに猛烈に吐き気が込み上げてきて言葉にならない。
「報告通りのふざけた竜だ。日頃から自ら強者であると思い上がっている証拠だな」
否定できなくて耳が痛いです。まあ竜は傲慢だからね。しょうがないね。
「なあ竜よ、お前はカリスをずいぶん気に入ったようだな」
正面にまわってきたジルヴァ団長が俺の前髪を鷲掴みして、無理やり上を向かされる。
ぎょえー。頭皮の痛みといっしょに俺のキューティクルヘアーがぶちぶち切れる音がするんだけど。ハゲたら治療費請求してもいいかな。
「第二傀儡・魔術師団の人形を破壊して、カリスは負の感情を覚えた。感情に振り回されるカリスはさぞ見物だっただろうな。ん?」
ん? のリズムで鷲掴みされた頭を揺らされる。
いいだろう、ぶっちゃけて言おうじゃないか。
かなり見物でした。めちゃくちゃ可愛かったです。頬をほんのりプクッとさせて怒るカリスも、ムッとして眉間に筋を作るカリスも大いに愛でさせて頂きました。ありがとうカリス。カリスという存在に感謝。
痛みでしかめていた顔を、これみよがしに口角を吊り上げてやる。
直後、視界が横にブレた。
俺のお口から歯が家出する。利かん坊な純白のエナメル質くんは甲高い音を立てて、ぼやけた世界へと旅立っていった。まあ竜の再生力で新人くんが生えたけど。
グーパンでの右頬殴打で、さらに血の味が舌に広がる。
んもーなんだよ。短気すぎるよ、この団長さん。全然話進まないじゃん。思春期なの? もう俺はこの騎士団が独裁政権下になっていないか心配だよ。
コンスタントに繰り出される暴力にうんざりするも、次にジルヴァ団長が放った言葉によって、一瞬でどうでもよくなった。
「カリスから人間性を奪って満足か?」
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