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木の章04 私の瞳に映ったもの

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「使うって、どう使うの?」

 どうやら私の提案に興味を持っていただけたようです。

「嘘発見器として使うんです」

 我ながらよい考えだと思ったのですが、ココの反応は芳しくありませんでした。

「出来るの? そんなこと」
「えぇ、魔導具より正確だと思いますよ」
「それが可能ならお願いしたいところだけど、大丈夫なの」
「この目と何年も付き合っているんですよ。心配は無用ですよ。ただ裸眼だと無駄な情報が多過ぎて判断に迷う場面も出て来るかもしれませんけどね。かと言って眼鏡をかけてしまうと完全に欲しい情報が遮断されてしまうんですよね」

 ココは顎に手を当ててしばし考え込んでいました。やがて結論が出たのか、こくりと一度ちいさく頷きました。

「それなら眼鏡に組み込まれている情報制限の刻印術式を、今のものより軽減させた物つくろうか?」
「お願い出来ますか」
「ただ用意するまでにかなりの時間を要することになるかも。栞の眼鏡を軽くみた感じ、そのまま複製するだけでも難しそうだもん。レンズには積層状に刻印術式が施されてるし、フレームにも細々と術式が刻まれてるしね」
「眼鏡の見本があった方がいいのかな」
「借りれるなら借りたいところだね。さすがに1から類似した物をつくるのは無理があるし」
「でしたら今お持ちになっている物を、そのままお貸ししますよ」

 そう言いながら私は予備の眼鏡を取り出して見せました。

「それなら遠慮なく借りるね。んじゃ、時間も惜しいから早速作製に取り掛かるね」

 ココは張り切った様子で私の部屋を出て行きました。彼女を見送った私は、手にしていた予備の眼鏡かけます。それは普段使いの眼鏡と見た目こそ一緒ですが、レンズには情報遮断の刻印術式もなにも組み込まれていない代物でした。

 ココには悪いと思いましたが、護錠四家と関わりの深そうな問題でしたので、彼女には内緒で独自に調査することにしました。
 ついさきほど目にしたココの記憶から彼女が嘘をついていたのが明白だったことも大きな要因のひとつでした。彼女の記憶の中で死にかけていた少女に私は見覚えがあったのです。あれは間違いなく、西楯の当代魔嬢候補であるつかささんでした。

 ふたりともギリキンに所属していますので接点があっても不思議ではありませんが、ココの記憶にあったのは10歳前後の姿をした司さんでした。
 それだけ昔から面識があったみたいなのですが、ココは司さんにではなく、なぜ私の元に聖鍵の話題を持ち込んだのでしょうか?
 いえ、もしかしたら既に話を持ちかけたあとなのかも知れませんが、私には知る由もありません。ですので私は直接確かめようと部屋を出ました。

 七色に彩られた屋内を物の輪郭と記憶を頼りに司さんの入居する『金盥』の間に向かいました。扉をノックしますと、あまり間を置かずに扉が開かれました。

「東端先輩、こんな時間にどうされたのですか?」

 司さんの身体を初めて情報を遮断せずに目にした私は驚きを押し隠すのに精一杯で、すぐに返事を返すことが出来ませんでした。彼女の身体の大半は生身と見分けのつかない融合型の魔導器で補われていたのです。そしてそれは私の見たココの記憶が事実であったと裏付けました。

「ごめんなさい、こんな夜分に。少し頼みたいことがあったものですから」
護錠四家私たちに関することでしょうか?」
「いえ、それとは関係ありませんから安心してください」
「込み入ったお話でしょうか?」
「大したことではないのですが、頼みごとって言うのは小野木さんのことなのです」

 対面している司さんの姿は、七色に彩られた人型の輪郭でしかありません。ですので、はっきりとは断言出来ませんが、ココの名を口にした瞬間、司さんはちらりと視線を動かして部屋の中を気にしたようでした。

「先輩、申し訳ありませんが私には力になれそうもありません」

 そう言った司さんは、頼みごとの内容を聞くこともなく扉を閉めてしまいました。
 閉じられた扉を前に私は困ってしまいました。ココのときと同様に司さんの記憶をどうにか読み取れないものかと思っていたのですが、どうにも彼女の身体を補う魔導器の刻印術式に情報の取得を阻害されているのか、何の情報を引き出すことは出来ませんでした。
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