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土の章07 ままごと

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「それでボクはなにをすればいいんすか。ただ魔錠エウレカを連れて来させるためだけにここに呼んだんじゃないんすよね?」
「指示を出すだけなら閾下支配ラングイディアだけで充分ですが、知恵さんの持つ知識で勝手に脳内補完され、私の意に沿うように目的を捏造されてしまいますからね。その知識を補うために直接お話する必要があったんですよ」

 自覚しないまま操られていると言うのならそうなってしまうのだろうと理解する。南雲先輩も自身の中で南境先輩を殺す理由をでっち上げられていたのだろうと察した。

「じゃあ、今後貴女の指示に従って活動させられる上で必要な情報は、全て話していただいたんすかね」
「あとはそうですね。私の方で絞り込んだ方々に関してですか。私の目的は概ね理解しておられると思いますが『外なる世界』から持ち込まれた能力ちからの回収です」

 魔錠も『外なる世界』から持ち込まれた能力ちからなのだろうけれど、そちらもう調査済みなのだろう。でなければ魔錠もなしに小規模ながらも紅脈を塞ぐなどということが出来たとは思えない。だから魔錠を失ってしまう危険を冒してでも未知なる能力ちからを求めたんだろう。

「それでそれを現在保有している可能性が高いのは──」

 リストアップされたのは以下の通り。

・結城 零緒:カドリング1年
・風巻 竜姫:ギリキン 1年
・犬飼 都音:ギリキン 1年
・西楯 司 :ウィンキー2年
・猿賀谷 翼:ウィンキー2年
・暮石 美穂:ウィンキー2年
・北壁 密 :ギリキン 2年
・蜂峰 優花:ギリキン 3年

 ボクは候補にひとり足りていないことを不思議に思った。

「洞泉先輩はいいんすか?」
「彼女は私の能力ちからのひとつ自律素体カボチャ頭のジャックなので問題ありません。それに現在は燐紅さんに成り代わっていますからね」
「南雲先輩は当人はどうされたんです?」
「さきほどお伝えしましたよね。紅脈を塞ぐ素材になっていただきました」

 虐殺された南境の人達だけで事足りていたとばかり思っていたけれど、そうではなかったらしい。それにしても死者に成り代わっても疑われないほどに、南雲先輩として立ち振る舞いは完璧だったのを思い返す。それなら目の前のセンパイも同じように自律素体カボチャ頭のジャックで造られたものなのかもしれない。

自律素体カボチャ頭のジャックで死者の複製体って何体くらい用意出来るんすか」

 複数体用意出来るのならボクを頼る必要はない気もしたので率直に尋ねる。

「発現された能力ちからの関係で、私の断片を宿されていた方しか再現出来ない上に、その断片がないとつくれませんので数はそれほど」

 南境先輩の宿していた断片はエウレカの中に魔錠と一緒にあるので無理だとして、目の前のセンパイはどうなのだろうかと思い確かめる。

「センパイの姿をしてるそれは違うんすか」
「この器は私自身が立ち回るために用意した憑依素体チペタリウスです。研究をさせるにも閾下支配ラングイディアだけでは限界がありましたし、その結果として9年前の事故を引き起こしてしまいましたからね。ですがその事故がなければ私は憑依素体チペタリウスを得ることが出来ませんでしたから因果なものです」
「そうなんすか。でもなんでセンパイの姿をしてるんすか。たぶん小野木先輩を懐柔するためなんでしょうけど。9年前に憑依素体チペタリウスを得たんなら元々別の姿だったんすよね」
「えぇ、以前は花木豆涙の名で活動していました。それで栞さんに成り代わった理由ですが、確かにココのためですね。この『内なる世界』で彼女と過ごすためには最も適した器ですから」
「小野木先輩にも閾下支配ラングイディアが効かなかったってことっすか」

 そう尋ねると彼女は目をつぶり首を横にふった。

「いいえ、ココは既に閾下支配ラングイディアの影響下にあります。それは彼女が私たちふたりだけで話すのに都合良いように、眠りに就いたことからもわかっていただけるでしょう。それに栞さんの凄惨な死を目の前で目撃しているにも関わらず、疑いもぜずに私を彼女だと信じているくらいですからね」
「じゃあ、なんのためっすか。魔錠を持っているから保護してるってのはわかるんすけど付きっ切りでいる必要はないっすよね」
「わかりませんか?」

 閾下支配ラングイディアの影響なのか脳裏にひとつの答えが浮かぶ。ただそれは世界が危機的な状況にさらされた中にあっては、バカげているとしか思えなかった。

「ままごとでもするつもりっすか」
「いけませんか? こうしてペットも連れて来ていただきましたし、あとは子どもが欲しいところですね」

 そう言った彼女は膝の上で眠るエウレカを見て、なにかいいことを思いついたとばかりに顔を輝かせ、ぱちんと軽く両の手を合わせて微笑む。

「あぁ、そういえば智世さんは亡くなられたのですよね。でしたら彼女に私たちの子どもになってもらいましょうか」

 などと無邪気にはしゃいでいた。
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