48 / 118
048 盗賊さん、報告する。
しおりを挟む
成り行きでラビィを錬金術ギルドで引き受けることになった。それはそれでいいとして、話を戻すようにボクは改めて領主に話を切り出す。
「今後、錬金術ギルドで作製したポーションはこちらで引き取ってもらうってことでかまわないですか」
「あぁ、そちらでそのまま販売するのは難しいだろうからね」
「助かります。ギルドの運営資金をどうしようかと思っていましたので」
「こちらとしても助かるからお互いさまさ。レッドグレイヴ産のポーションと遜色のない品を、どうにか一般に普及させたいと思っていたからね。領主公認の魔法薬店を近いうちに出店させるつもりだよ」
「薬師ギルドとの折衝はどうされるのです」
「ポーションに関してだけは、あちらも口出し出来るような立場にはないからね。基準の品質に満たない品の販売を制限させるよ。そうなれば横流しされたポーションに混ぜ物をした品を店頭に並べられなくなる。それだけで充分に効果はあるだろうさ。元々ポーションの売り上げに頼らなくともギルドの運営に支障はないはずだから、割りに合わないとなるとポーション販売からすぐに手を引いてくれるだろう」
「これを機に横流ししていた衛兵の摘発もなさるのですか」
「そのつもりだ。長年見過ごしていたことで、強盗騎士のような輩を生み出すことになってしまったからな」
これまでの会話から暗にポーション作製出来る者が現れなければ、今後も見過ごしていたと言っているようなものだった。それに関してはボクがあれこれと口出しするようなことではないので、差し出がましいことは言わなかった。
ただ隣に座るラビィは、領主に対してなにか言いたげだったが、部外者であるボクがいる手前か、それとも父親に対して強く出られないのか、その場で噛み付くような真似は控えているようだった。そんな彼女は、手が白くなるほどに強く握り込んでいた。
「では、ポーション関連のことは全てそちらにお任せしますね」
「あぁ、任せておいてくれ。それと他になにか要求などはあるかね。出来る限り尽力させてもらうが」
これで錬金術ギルドに関わる内容はひと通りまとまった。ここで切り上げてもよかったが、新たに発見したダンジョンのこともあったので、報告を兼ねて話をすることにした。
「でしたら東門から南南東の森の奥に新たなダンジョンを発見しましたので、調査隊を送ってもらえませんか。枯れた湖の跡地にかなり深い縦穴があり、底の方にダンジョンにつながっているらしき、横穴が複数ありましたので」
それを聞いた領主は軽く腰を浮かせるように身を乗り出した。
「それは事実かね」
「えぇ、森の奥で魔草が群生した魔素溜りを見つけまして、そこから真っ直ぐに草木一本生えていない古い集団暴走跡がありましたので、それをたどった先で発見しましたから」
「そうか。では、近いうちに調査隊を送ることにしよう。ところで、そのダンジョンが再び集団暴走を起こすような兆候はあったかね」
「魔素濃度もそれほど濃くありませんでしたから、その心配はほぼないかと」
勝手に上層階を崩壊させて蓄えられていた魔素を拡散させちゃったし、あれだけダンジョン入口が深ければ簡単に魔物が溢れ出すことはないだろうしね。
「それだと時間的な余裕はありそうだな。調査隊を出す前に、冒険者ギルドに簡単な調査の依頼を出しておくか。それに開拓の人員募集もしなければならないな……」
ぶつぶつと今後の方針を煮詰めていた領主は、深みにはまる思考を一度切って、背後の執事に「冒険者ギルドに調査依頼の手配を頼めるか」と告げた。それを承った執事は、冒険者ギルドに依頼を出す手筈を整えるため、即座にその場を辞した。
「報告感謝するよ」
「いえ、たまたま発見しただけですから。それにまだそのダンジョンからどういった資源やアイテムが産出させるかもわかりませんし」
「まぁ、そうなんだがね。新発見のダンジョンとなると領都外からの人員流入も少なからず期待出来るので、こちらとしてはありがたいのさ。長いこと深層の攻略が滞っている領都内のダンジョンを、攻略してくれるような人材が現れないとも限らないからね」
ダンジョン深層でドロップするアイテムは特殊な効果を持った物は多いけれど、生活する上で役立つ物や資源は少ない。それに他領とやり取りすることを制限されているのに、深層のアイテムを求める意味はあるのだろうかと少し気になった。
「ひとつ質問なのですが、深層のドロップアイテムはどうされるのですか。他領との取引で使用することは出来ないのですよね」
「確かに他領とは取引することは出来ないね。だがダンジョン産のアイテムや魔獣の素材は、王家直轄の組織である冒険者ギルドに売却した総額で王家からの評価が下される。その評価によって領都予算が決定され、王都で発行されている貨幣が年間予算として配布されるのさ。他領と資源のやり取りをするにはどうしても貨幣が必要になってくるから、ダンジョンの攻略状況ってのは、そのまま領都経済に深く関わってくるんだよ」
「今後、錬金術ギルドで作製したポーションはこちらで引き取ってもらうってことでかまわないですか」
「あぁ、そちらでそのまま販売するのは難しいだろうからね」
「助かります。ギルドの運営資金をどうしようかと思っていましたので」
「こちらとしても助かるからお互いさまさ。レッドグレイヴ産のポーションと遜色のない品を、どうにか一般に普及させたいと思っていたからね。領主公認の魔法薬店を近いうちに出店させるつもりだよ」
「薬師ギルドとの折衝はどうされるのです」
「ポーションに関してだけは、あちらも口出し出来るような立場にはないからね。基準の品質に満たない品の販売を制限させるよ。そうなれば横流しされたポーションに混ぜ物をした品を店頭に並べられなくなる。それだけで充分に効果はあるだろうさ。元々ポーションの売り上げに頼らなくともギルドの運営に支障はないはずだから、割りに合わないとなるとポーション販売からすぐに手を引いてくれるだろう」
「これを機に横流ししていた衛兵の摘発もなさるのですか」
「そのつもりだ。長年見過ごしていたことで、強盗騎士のような輩を生み出すことになってしまったからな」
これまでの会話から暗にポーション作製出来る者が現れなければ、今後も見過ごしていたと言っているようなものだった。それに関してはボクがあれこれと口出しするようなことではないので、差し出がましいことは言わなかった。
ただ隣に座るラビィは、領主に対してなにか言いたげだったが、部外者であるボクがいる手前か、それとも父親に対して強く出られないのか、その場で噛み付くような真似は控えているようだった。そんな彼女は、手が白くなるほどに強く握り込んでいた。
「では、ポーション関連のことは全てそちらにお任せしますね」
「あぁ、任せておいてくれ。それと他になにか要求などはあるかね。出来る限り尽力させてもらうが」
これで錬金術ギルドに関わる内容はひと通りまとまった。ここで切り上げてもよかったが、新たに発見したダンジョンのこともあったので、報告を兼ねて話をすることにした。
「でしたら東門から南南東の森の奥に新たなダンジョンを発見しましたので、調査隊を送ってもらえませんか。枯れた湖の跡地にかなり深い縦穴があり、底の方にダンジョンにつながっているらしき、横穴が複数ありましたので」
それを聞いた領主は軽く腰を浮かせるように身を乗り出した。
「それは事実かね」
「えぇ、森の奥で魔草が群生した魔素溜りを見つけまして、そこから真っ直ぐに草木一本生えていない古い集団暴走跡がありましたので、それをたどった先で発見しましたから」
「そうか。では、近いうちに調査隊を送ることにしよう。ところで、そのダンジョンが再び集団暴走を起こすような兆候はあったかね」
「魔素濃度もそれほど濃くありませんでしたから、その心配はほぼないかと」
勝手に上層階を崩壊させて蓄えられていた魔素を拡散させちゃったし、あれだけダンジョン入口が深ければ簡単に魔物が溢れ出すことはないだろうしね。
「それだと時間的な余裕はありそうだな。調査隊を出す前に、冒険者ギルドに簡単な調査の依頼を出しておくか。それに開拓の人員募集もしなければならないな……」
ぶつぶつと今後の方針を煮詰めていた領主は、深みにはまる思考を一度切って、背後の執事に「冒険者ギルドに調査依頼の手配を頼めるか」と告げた。それを承った執事は、冒険者ギルドに依頼を出す手筈を整えるため、即座にその場を辞した。
「報告感謝するよ」
「いえ、たまたま発見しただけですから。それにまだそのダンジョンからどういった資源やアイテムが産出させるかもわかりませんし」
「まぁ、そうなんだがね。新発見のダンジョンとなると領都外からの人員流入も少なからず期待出来るので、こちらとしてはありがたいのさ。長いこと深層の攻略が滞っている領都内のダンジョンを、攻略してくれるような人材が現れないとも限らないからね」
ダンジョン深層でドロップするアイテムは特殊な効果を持った物は多いけれど、生活する上で役立つ物や資源は少ない。それに他領とやり取りすることを制限されているのに、深層のアイテムを求める意味はあるのだろうかと少し気になった。
「ひとつ質問なのですが、深層のドロップアイテムはどうされるのですか。他領との取引で使用することは出来ないのですよね」
「確かに他領とは取引することは出来ないね。だがダンジョン産のアイテムや魔獣の素材は、王家直轄の組織である冒険者ギルドに売却した総額で王家からの評価が下される。その評価によって領都予算が決定され、王都で発行されている貨幣が年間予算として配布されるのさ。他領と資源のやり取りをするにはどうしても貨幣が必要になってくるから、ダンジョンの攻略状況ってのは、そのまま領都経済に深く関わってくるんだよ」
0
あなたにおすすめの小説
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。
故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。
一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。
「もう遅い」と。
これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる