踏ん張らずに生きよう

虎島沙風

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ごめん(㊀)

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 ついに遥輝が風哉の目の前まできてしまった。
「風哉くんに近づかないで……」
 叫びすぎて枯れているので声は迫力皆無だったが、海結は風哉と遥輝の間に押し入って両手を大きく広げた。『絶対に守る』という言葉は嬉しかったが素直に頷けない。私が風哉くんを守るんだ。
「ちょっと海結?」
 風哉の困惑したような声が聞こえたのと同時に後ろから肩を掴まれたが、海結は足を踏ん張って意地でも動かなかった。
「ありがとう。海結は俺を守ろうとしてくれてるんだよね? でも、俺が遥輝に訊きたいことがあって呼び止めたんだ。そんなに威嚇すると遥輝が傷つくからどうかやめて欲しい」
「別に俺は傷つかねぇよ」
 遥輝が控えめに首を横に振った。
「浜崎の反応は正常でお前のウェルカム反応の方が異常だ。それで、俺に訊きたいことって何だ?」
「異常かなぁ?」
「異常だ」
「そっか……。訊きたいことはいくつかあるんだけどまずは……裕平と優護は俺への虐めをやめると思う?」
「……ゲームじゃなくて虐め。虐められてるってもう認めるんだな……。浜崎に嘘を吐いて必死に否定してたのに」
「……ああ、うん、まあ」
 風哉は曖昧な相槌を打った。海結が心配になって振り返ると、寂しそうな表情で俯いている風哉がいた。
 だが、こちらの視線に気づくとすぐに顔を上げて笑う。風哉がそうやって口角を上げて笑う度に腫れた両頰が焦げ茶色の綺麗な瞳の方に押し上がってどうしても目についてしまう。
「今までずっと……裕平がよく口にするように、楽しいゲームなんだって自分に言い聞かせてたけど、やっぱり無理だった。自分を騙しきれなかったよ」
 面白い話ではないのに風哉は「残念!」と明るく笑った。
 海結が風哉と遥輝の間から抜け出して、風哉と遥輝の二人の顔がよく見える位置にそっと移動し終えた時にちょうど、遥輝が僅かに目を逸らしつつ「そうか」とそっけなく言った。
「……質問の答えだけど、あいつらはやめねぇ。すげぇ根に持つタイプだから今頃お前に復讐する計画を立ててるだろうし何よりお前のことが大嫌いだからな」
「大嫌い、ね……。まあ、好かれてないのは分かってたけど明言されるとショックだなぁ。嫌いな理由って聞いたことある?」
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