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第12話 王子様の正体
しおりを挟む「んで……。どういうことだ?」
何故か女性の体を持った王子様が着替えてから、俺は赤くなった鼻を押さえつつも問う。
「いやっ! 君だって!」
全裸状態からラフなワンピース姿に変身した彼女も顔を真っ赤にしながら口にする。
「待て待て。俺が来た理由を明かすにしても、本当にあんたがカイ王子なのかどうかを理解してからだ」
ここへ来た理由は『俺をスカウトしたカイ王子』にしか話せない。
向こうも俺に対して言いたいことがあるようだが、まずは事情を聞かせてくれとお願いした。
「……私は君をスカウトした王子で間違いないわ」
「……男装してたってこと?」
彼女は静かに頷いた。
「本当の私はローゼンターク王国第一王女、リリ・ローゼンターク。カイの姉――双子の姉よ」
よし、ちょっと待てよ。整理しよう。
ローゼンターク王国王家には双子の姉弟がいる。
第一王女のリリが姉。第一王子のカイが弟。
カイ王子は幼少期から病弱だったらしいが、病気を克服して倒れた王に代わり政務を担当している。
加えて、リリ王女もカイ王子と入れ替わるように体を壊した。現在は伏せっているという話だったはずだ。
しかし、この話は嘘だったってことだろう。
「本当は……。弟のカイはまだ病に冒されている。私はカイに代わって王子を演じているの」
リリ王女は顔を伏せながらも語り出した。
まず、カイ王子が幼少期の頃から病弱であったのは本当の話。小さな頃からずっと病に苦しんでおり、二十になっても未だ完治していない。
食事や会話は出来るようだが、少しでも体を動かすと体調が悪くなるようだ。
逆にリリ王女は元気そのもので、昔から外を駆けまわれるほどの体に恵まれたという。
「うん、ここまでは理解した。どうして王子のフリを?」
「弟が王位を継ぐためよ」
――ローゼンターク王国は王家に生まれた男子しか王位を継げない。
女王は誕生しない、というのがこの国の決まりになっているようだ。
「もしも、お父様の病状が悪化して……。最悪の事態になればカイが王位を継ぐ。だけど、病に冒されたままではまともに政務はできないでしょうね」
仮にできたとしても国内の貴族から不安の声が噴出するだろう、と。
『病弱な王子が王となって大丈夫なのか? この国は存続できるのか?』
国の舵を取る王家への不安はよろしくない。貴族にとっても国民にとっても。
加えて、他の不安もあると彼女は語る。
「カイが王位を継いだ時、よからぬことを抱く者もいるかもしれないでしょう? カイの妻として自分の娘を送り出し、王家の血を取り込んで――」
「王になった王子を傀儡とし、権力を手に入れようってか?」
またしてもリリ王女は静かに頷く。
要は病弱な王子様と結婚して『王妃』の座を手に入れりゃいい。王家の仲間入りを果たしてしまえばいい。
王妃となった貴族の娘、いや、この場合は娘の親か。
親の言いなりになった王妃役が『夫は病弱なので王妃である自分が指揮を執ります』と言うとか。
あるいは『夫が言ってました』などと口にすれば、王家に入り込んだ貴族の意向通りに国が動く。
権力の掌握ってやつだな。
「王女であるあんたが――いや、それはダメなのか」
「ええ。王家の決まりとして、王女は政務に参加できないの。王女の役割は他国に嫁いで同盟を構築することだから」
いつか国を出て行ってしまうが故に国の行く末を左右する仕事には関わらせないってことなのかな。
「君をスカウトする時にも言った通り、この国には腐敗している部分があるの。裏でよからぬことを考えている貴族が存在する。そんな状況の中、弟に責任を押し付けるなんて出来なかった」
彼女は唇を噛み締めた。
昔から病弱だった弟を見てきたが故に。弟と違って健康な体を手に入れた自分への罪悪感もあって。
たとえ王女は国外に嫁ぐという役割があろうとも、今の状況を可愛い弟に押し付けられない、と。
「ああ、だから男装してカイ王子を演じたのか。王子は十分に政務を執り行うことができて、キレ者など知れれば……。貴族共も諦めるってか?」
「ええ。信頼できる貴族達と話し合った結果、私が弟のフリをすることにしたの。代わりに王女が病になったと噂を流してね」
二人は双子だ。
顔は瓜二つ。身体的な特徴も隠せば問題無い。
本来はまだ病に苦しむ王子を『王女』として、本来は元気な王女が『王子』を演じる。
病に苦しんでいるって点も入れ替わるには都合がいい。世話係を仲間に引き込み、王城内に「他人に病が移るといけないから」と接触させなければいいんだからな。
その間、王子役を演じるリリ王女が手腕を発揮すれば――何も知らない貴族達は「なんて有能な王子なんだ! ローゼンターク王国も安泰だ!」となるわけだ。
将来、本物のカイ王子が病を克服すれば盤石な王が誕生する。
その後は、姉が作り上げた国を――俺達を使って悪党を排除した国を無難に運営していけば文句も出ないだろうしな。
「なるほどねぇ。あれ? もしかして、噂になってた婚約破棄は?」
「あれは私が破棄したの。弟には相応しくない相手だったから」
一時期、国内を賑わせたカイ王子の冷徹な一面。あれはリリ王女が起こしたことらしい。
曰く、病を克服した王子を演じだしたリリ王女に猛アタックをしてきたんだとか。その猛アタックがあまり「よろしくない行動」だったらしい。
……まぁ、想像つくよな。
権力を欲した親とその娘だ。さっさと結婚しようだとか、子供を作ろうだとか言って迫ったんじゃねえかな。
「婚約者と言っても、まだ内定すらしてない相手だったわ。同時に最近はよくない噂を聞く家の令嬢だったしね。そんな相手に可愛い弟を渡してたまるもんですか」
どうやらこのリリ王女、弟を心から心配しているようだ。
俺をキッと睨みつける目がそう語っているよ。ビンビンにね。
「しっかし、こうして訳を知ってみれば……。何となく納得できる部分もあったな」
「どういうこと?」
「あんたが俺を捕まえた時だよ。目の前に座って喋っているあんたを見て違和感を感じた。あの正体はあんたの隠しきれない女らしさ、だったのかもな」
今思えば……。一つ一つの仕草から女の匂いが感じられたのかも。
「何それ。匂いって……。変態みたい」
リリ王女はすっごく嫌そうな顔を見せたが、逆に俺は満面の笑みを浮かべる。
「へへっ。良い女を見抜く嗅覚には自信があるんだ」
散々、娼館で遊んできたからな。
たぶん、俺の本能が「こいつは女だ!」って知らせていたんだろうよ。
さすがだぜ、俺。
「王様も知ってんの?」
「ええ。もちろん。次代を盤石にするためにもって納得してもらったわ」
続けて、政務以外は敷地内にある離れで過ごしている理由も「ずっと闘病生活を続けていたせいか、人が多いところは落ち着かない」「まだ完全に治ったわけじゃない」などと言って、王女であることがバレないようにしているらしい。
護衛がいなかった理由はこれか。なるほどねぇ。
ただ、こうやって話を聞くと国のトップも大変だわな。
俺が当事者だったら御免被りたいよ。
「それに……。私は凶兆の証だからね」
「凶兆?」
小さな声で言った彼女の表情は苦しそうで、悲しそうな……。
「ええ。ローゼンターク王家に伝わるお伽話みたいなものかしら。双子が生まれた際、片方が姉だと不吉なことが起きるんですって」
王家や貴族の間では双子自体もあまり良い印象を抱いていないようだが、特に忌避されているのが双子の中でも『姉と弟』という組み合わせ。
大昔に何やらよくないことがあったらしく、この組み合わせの子供が王家に生まれると「災いが起きる」と言われているんだとか。
「現に私達が生まれた直後、お母様が亡くなったわ。その後は弟が病気になった」
リリ王女の母親である王妃が亡くなったのは出産から一ヵ月後の出来事だった。
事故死だったらしいが、貴族達の間では「凶兆であるリリ王女の呪い」なんて囁かれているんだとか。
続けて弟であるカイ王子が病に冒されると、こちらも「弟が病弱で姉が元気なのは、母親の腹の中で弟の命を吸ったからだ」などと囁かれていたという。
「お父様が病気になったのも……」
「ふぅん。あんたはそれを信じてるのか?」
「え? いえ……。信じたくはないけど……。でも……」
俯きながら言う彼女を見て、俺はつい鼻で笑ってしまった。
「アホらしい」
「……何よ」
キッと鋭い目付きで俺を睨みつけるリリ王女であるが、俺は肩を竦めながら言ってやる。
「仮にあんたが呪いを使えるんなら、悪党共を呪い殺してみろよ。噂を囁くアホ共も一緒に殺したらどうだ? 全部解決するじゃねえか」
そう言ってやると、彼女は「そんなこと」と口にした。
「そうさ。双子の呪いなんざ使えない。存在しない。所詮は大昔の爺さん婆さん共が偶然起きた不幸な出来事を呪いのせいにしただけだ。呪いって便利な言葉で片付けただけなんだよ」
カーッ! やってらんないね!
俺はワイン瓶を掴むと、そのまま口に咥えて中身を飲み干した。
「呪いが実在するなら、今頃俺は恨まれてる野郎共に呪い殺されてるぜ。ここであんたと会話なんてしてねえ。あの世で添い寝してくれてる爆乳女神様とキスしてるだろうよ」
いや、天使様でもいいな。
「この世にあるのは魔術と魔法だけだ。呪いは無い」
口の端から零れたワインを腕で拭う。
「……スカウトした時から思ってたけど、君って馬鹿よね」
リリ王女は呆れるように言う。
だが、表情は笑っていた。
「ふふん。そう言ってられんのも今のうちだぜ?」
俺はたっぷりと自信を持って言ってやった。
呪いだとか凶兆だとか、言えないようにしてやるぜ。
「これ、なーんだ?」
コートの内ポケットから取り出したるは例の切れ端。
「それは?」
「これこそ、俺があんたを訪ねてきた理由だよ」
俺は破いたページをリリ王女に手渡した。
「病気の王様、舌が黒く変色してるって本当か?」
「え、ええ。それをどこで?」
「セレスティアから。ところで、その紙にラミアの毒って単語があるだろう?」
俺の言葉を聞き、リリ王女は視線を落としながら頷いた。
「まさかっ!?」
どうやら察したようだ。
彼女は早く続きを話せ、と言わんばかりに俺の言葉を待つ。
だが、俺は言葉よりも先に指で丸いマークを作った。
「ここからは有料だぜ?」
ニヤッと笑いながらね。
「……クズ!」
表情を一変させたリリ王女は、再び俺を睨みつけた。
「ホッホー! 美女の罵倒もたまんねえなぁ!」
だが、罵倒されたところで俺の考えは変わらない。
俺は足を組み、またニヤッと笑ってやった。
「俺を撥ねて捕まえた頃とは逆の立場になっちまったなぁ? 王様が抱える病気の原因に王子様の正体。二つも秘密を知っちまったぜ」
さぁ、どうするよ。
リリ王女様?
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