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第24話 世界一の大悪党ジョン
しおりを挟む「ハッ。生まれて初めて幽霊なんてモンを見たぜ」
俺はドアを背にして立つボルドー侯爵――いや、ボルドー侯爵に成り代わっている者に対して鼻で笑う。
「それとも顔を変えたのかい?」
だが、すぐに自分の言葉を否定した。もっと現実味のある答えと一緒に。
当然ながら幽霊なんてモンは存在しない。アンデットなんざお伽話の中にしか出てこない存在さ。
じゃあ、目の前にいるボルドー侯爵は何者か?
答えは単純だ。
ボルドー侯爵に化けている他人ってこと以外考えられない。
「よく分かったね」
ドアの前に立つ者の顔にノイズが走る。ジジジと黒と灰のノイズが走ると、本来の顔が露わになった。
ボルドー侯爵に化けていた男は三十代くらいだろうか? 黒の短髪と青い目が特徴的なヒューマンだった。
「擬態の魔術は消費が激しい。随分と贅沢な使い方をするねぇ」
へへっと笑ってやると、男の手から魔力を失って透明になった魔宝石が落ちた。
「ほう。よく知っているね。擬態の魔術は最近になって開発されたばかりなのに」
「いやね? よく教えてくれる存在がいるんだよ。俺の周りにはね」
俺は自分の耳をトントンと叩く。
「ふむ。それは興味深い話だ。だが、ある程度は私も把握しているよ。君は最近、私の周りをコソコソと嗅ぎまわっていただろう?」
男は懐から『黒いナイフ』を取り出した。
刀身も持ち手も全部真っ黒なナイフだ。
それを見て、俺は思わず目を細めてしまう。
「だとしたら? いやいや、言いたいことは分かるさ。自分達の計画を邪魔するなって言いたいんだろう? だがなぁ……。さすがに人身売買と王様に毒を盛るのはマズくないかねぇ?」
肩を竦めながら言ってやると、男の視線が鋭くなる。
「この際だからよ、色々教えてくれよ。真実ってやつを」
ここで聞いておかないと気になって眠れないぜ。だから頼むよ、と。
「おたくの狙いはこの国に眠るマナステルなんだろう?」
「……正解だ」
黒いナイフを向ける男は一歩、二歩と距離を詰めながら「よく調べたな」と俺を褒め称えた。
「だろう? 俺は優秀だからね」
まぁ、俺だけの成果じゃないんだけどね? ここは素直に賞賛を独占しておこうか。
「どうしてさっさと王家をぶっ殺さないんだ? わざわざ、黒染め病の毒まで飲ませて。ひと思いにぶっ殺せば楽じゃねえか」
「事は単純ではないのだよ。この国と王族にはまだ利用価値がある」
へぇ、こりゃいいことを聞いた。
少なくとも王子様を演じる王女様がすぐに殺される心配はなさそうだ。
「王が死ねば国は次世代に向けて一気に動き出す。王子が次の王となり、今後の国政方針に向けて貴族も平民も一気に動き出すのさ。嫌でもね」
だからこそ、入念な準備が必要だと男は語る。
「入念な準備をした上で王には死んでもらう。国が慌ただしく次の世代へ向かって行くのに乗じて、一気にこちらも計画を動かすのだよ」
「ふぅん。なるほど。王様が死んだ途端にマナステル採掘事業と国内エーテル生成事業をスタートさせようってか?」
「そうだ。王の死と同時に計画を進め、次の段階へ移行する」
さて、ここまでは俺達の推測通りだ。
ただ、ちょっと違うのはマナステル採掘権を現段階で奪おうとしていないことか? 単純にマナステル採掘とエーテル生成を始めたいだけのように見える。
となると、次の段階ってのが問題かな?
「王子にはこちらで用意した女と結婚してもらう。そして、正当な血筋を残してもらうのだ」
単純な結婚話じゃない。
こいつの意思を汲んで動く女と結婚させて、王家そのものを乗っ取ろうってことだ。
子供が産まれたら用済みだろうな。今度こそ本来の王家は消え失せる。
要は「全部奪う」つもりだ。
マナステル採掘権もエーテル生成もそれらが生む利益も。国を支配する王家の血筋も。
ローゼンターク王国全体を頂こうってのがこいつの計画か。
「なるほどねぇ。……あれ? 王女様は? 殺すのか?」
「いいや。彼女も頂くよ」
俺の問いに対し、男は首を振った。
「ふぅん。どっかに嫁がせるとか?」
「いいや、私が頂く。王女の顔が好みでね。それに前々から高貴な女を鳴かせたいと思っていたんだ」
「あ、そう……」
乗っ取り計画に乗じて自分好みの女まで手に入れようとしちゃってるじゃん。
むしろ、そっちが本命なんじゃねえの……?
しかし、ここでピンとくる。
こいつは王女様が王子様を演じていることを知らないんじゃないか? どうも、王子様自身を影から操ろうって感じに聞こえるが。
……いや、まぁ、いいか。
「んで、次はイデア王国あたりの属国にでもするのかい?」
王女様の件は置いておき、俺は野郎の計画に関する核心を突く。
こいつはイデア王国に捕まえた者や禁制品を送っていたんだ。イデア王国にも仲間がいて、本拠地はそっちにあると考えるのが妥当だろう。
そんな奴らがどうしてローゼンターク王国を掌握しようとするのか。
答えは簡単。
魔導技術の発展を狙うイデア王国の養分にするため。
ローゼンターク王国に眠るマナステルを採掘して大量のエーテルを生成する。ローゼンターク印のエーテルを手土産にイデア王国へ国ごと献上するんだ。
そうすりゃ、魔導技術を発展させたいイデア王国はエネルギー問題から解消される。エーテルは使い放題で何の心配もせずに魔導技術を発展させられる。
その後、世界中にエーテルと魔導技術をセット販売するんだ。
「するとあら不思議、世界中の国はイデア王国無しには生きていけなくなりました――ってね?」
こいつらは欲しがりさんだぜ? 全部欲しがるんだ。
技術も燃料も独占して、世界中の国も掌握する。
「……正解だよ」
ようやくローゼンタークにチョッカイをかける理由が判明したな。
ようし、王女様からの仕事はここで終わり! こっからは俺の目的を達成させてもらうぜ。
「だが、それが最終目的じゃない」
俺はニヤッと笑って、コートの内ポケットからコッペン商会本店で見つけたカードを取り出す。
同時に後ろにあった黒板を手でコンコンとノックしてやった。
「お前は――いや、お前達は世界を掌握しながら魔法の解明を目論んでいる。だろ?」
このカードに描かれた王冠と杖のマーク。
これは、とある組織のマークだ。
「……貴様、何者だ?」
「ははっ! 顔色が変わりやがった!」
俺はお前達のことをよく知ってるぜ。
嫌ってほどな。
ようし、ここからは俺のターンだ。吠え面かかせてやるよ。
「大昔から神の奇跡である魔法を解明しようと活動を続けてきた組織。それがお前らマギフィリアだ」
マギフィリアは大昔から存在する組織だ。
元は魔法の謎を解き明かそうとしていた魔術師と錬金術師の集まりであったが、徐々に形態を変えて『秘密結社』になっていった。
だが、組織形態を変えようとも目指すところは変わらない。相変わらず魔法を解明することが最終目標であったが……。
「突如世界に現れた本物の魔法使い。神の奇跡を使う魔王の誕生により、組織は嫉妬の炎に焼かれたってね」
大昔から魔法の謎を解き明かそうとしてきたが、世界にはとんでもない存在が生まれてしまった。
それが魔王だ。
クライブス魔王国の王にして、神の奇跡たる魔法を使う王。
「そりゃ嫉妬もするだろうね。長年解き明かそうと研究してきたのに、横からいきなり本物が現れちまったんだ!」
これまでの努力が水の泡。全部パァだ。
どんだけ頑張ろうが、もう本物が世の中にいるんだから。
そもそも、マギフィリアは解明ができてなかった。何歩も何十歩も後ろにいたと己の無能さを突き付けられたんだ。
「だからこそ、お前達は魔王を世界の敵にしたんだろう?」
自分達以外の人間が魔法を使うなど相応しくないと嫉妬して、神の奇跡を悪用する世界の敵として、各国の王へ連合軍を結成するよう裏から働きかけて。
魔王と魔王国を潰そうと画策したのだ。
「だが、相手は本物の魔法使いだ。お前達は念には念を入れた。古のシステムである勇者召喚の儀まで使い、徹底的に魔王を潰そうとしたわけさ」
勇者召喚の儀がどんなものなのか、どうしてこの世界にそんなものがあるかまでは知らないが……。
古の時代、神がこの地上を去る時に残した『保険』であると教えてもらったっけ。
まぁ、とにかくだ。
勇者召喚を使い、異世界から勇者達を召喚した。
「複数の異世界から召喚された勇者は全部で三人。異世界から召喚された勇者達はそれぞれ圧倒的な力や知識、技術を保有していた。勇者達の力で魔王と魔王国を圧倒しようとするが……。一人の勇者が連合軍を裏切った」
連合軍を裏切った勇者は魔王と魔王軍に協力して連合軍に――いや、真の敵であるマギフィリアに反抗。
結果、短期決戦で終わると思われた戦争は十年も続いてしまう。
ここからは世界中の人達が知っての通り。
魔王と裏切りの勇者は殺され、十年戦争と呼ばれた争いは終結した。
「魔王を殺したのも、裏切りの勇者を殺したのもお前達マギフィリアだ。魔王と勇者を殺し、二人が所持していた遺品を回収したのもお前達」
俺は男の手にある黒いナイフを指差した。
「それは裏切りの勇者が所持していたナイフだろう?」
「ど、どうしてそれを……!? いや、そもそも、どうしてそんな情報を知っている!?」
ほうら。見事に吠え面かかせてやったぜ。
いい気分だ。
ようし、いい気分ついでにもう少し教えてやるか。
向こうもローゼンタークに対する狙いを喋ってくれたからな。お互い様さ。
「お前、裏切りの勇者がどうして連合軍を裏切ったか知ってるか? どうして魔王に協力したか知ってる?」
「え? ど、どうして、だと? そ、それは勇者が魔王と共に魔法を独占しようと……」
「いいや、違う。それはマギフィリアが作り出した嘘だ。本当は――魔王に惚れたのさ」
言いながら俺は「ハッ」と鼻で笑ってしまった。
「ほ、惚れた?」
向こうも信じられないって顔だな。
だが、残念ながらマジだぜ。アホみてえな話だけどな。
「ああ、マジな話さ。裏切りの勇者――マキ・イチイは魔王リオンに惚れたから裏切ったのさ。愛ゆえにってやつ?」
まぁ、これはもっと深い話があるんだが……。秘密にしておくか。
「ははっ。どうよ? 驚いた?」
「…………」
心底驚いたって顔だな。
へへっ。やったぜ。
「……貴様、本当に何者だ? 魔王軍の者か?」
「まさか。違うさ」
俺は肩を竦めながら首を振る。
「では、何だ!? 何なんだ!? 何が目的なんだ!? 我々の秘密を暴き、我々の計画を阻止したいのか!? ローゼンターク王国を救いたいだけなのか!?」
「う~ん。惜しいかな? 一応、それは今仕事として請け負っていることだけど」
ただ、厳密に言うと違う。
俺の目的は、俺がこの国に来た目的はまた別のこと。
「じゃあ、何だ!? 貴様の真の目的は何だ!?」
男は黒いナイフを俺に向けた。
「それだよ」
「え?」
「それ。お前が握ってるナイフ。それが俺の目的さ」
俺は黒いナイフを指差す。
「こ、このナイフ? 勇者のナイフが目的だって言うのか……?」
男にとっては意外な答えだったようだ。
マギフィリアの計画を世間に晒すことでもなく、ローゼンターク王国を救うことも「ついで」扱いだと言ったのだから無理もないかな?
だが、俺の目的はずっとそれだ。
ずっとその「ナイフ」を探していた。
最初から、この国を訪れた時から、東部から王都へ移動してきた頃から一貫して目的は同じ。
義賊と称して活動していた理由も遺品探しが目的だったんだからな。
「ああ、そうさ。そいつは俺のお袋のナイフだ」
そう、そのナイフはお前のモンじゃない。お前達が所持していい物ではない。
正当な持ち主は俺だ。
「返してもらうぜ」
俺は指に挟んでいたカードを壁に向かって放った。
同時にこうも呟くのだ。
「鳴け、雷」
すると、投げたカードは一瞬で雷を帯びる。バチバチと帯電しながら高速で飛んでいき、壁に突き刺さって消滅した。
「な、そ、それは……!? ま、まさか、お前は……!」
「そうさ。俺はお前達が血眼になって探すモノの正体。魔王と裏切りの勇者が残した遺産ってやつ」
魔王と裏切りの勇者は愛し合っていた。
男と女が愛し合って出来るモンっていえばなんだろうね?
答えは簡単さ。
「ま、魔王と裏切りの勇者の――遺児、なのか?」
目を剥きながら口にする男。
「へへっ。正解!」
そう。
俺は人類の敵と呼ばれた魔王。
連合軍を裏切った、裏切りの勇者。
その二人の間に生まれた子供。世界の敵であった男女の子供。
「世界で一番の大悪党。それが俺の正体さ」
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