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本編
3 なぜ?
しおりを挟む王都から脱出したリーズレットと侍女のサリィは魔導車で街道を行く。
街道といっても整備はされておらず、オフロードのガタガタ道。王都内を走る為に整備された魔導車のタイヤでは揺れが激しく、タイヤも貧弱なのでいつパンクするかもわからない。
ただ、文句は言ってられない状況なので行ける所まで進もうという考えだった。
2人には当てがなく、とにかく王都から離れた方が良いと思って南に向かう。
門を爆破したのが功を奏したのか追手はない。前時代の建物が風化し、戦争の爪痕が残ったような風景を他所に夜まで車を走らせた。
「お嬢様。お腹空きましたか?」
と、聞くサリィ。リーズレットが答える前に彼女の腹がグゥと鳴った。
「あう」
顔を真っ赤にしてお腹を押さえる妹分にリーズレットは笑顔を浮かべる。
「昼過ぎから走りっぱなしですものね。この近くで休憩しましょう」
リーズレットは街道から少し離れた場所にある建物の残骸の影に魔導車を停車。
「と、言っても食べ物はありまして? 無ければ――」
鳥でも落として焼くか、と蛮族のような事を言いかけたリーズレットにサリィが後ろの席に置いてあった2つのバッグ、片方を手に取ってジッパーを開けた。
むふん、と鼻息を荒く取り出したのは惣菜パンと水の入ったボトル。屋敷にあったのを頂戴してきたのだろう。
「サリィ、貴方は素晴らしいわ」
「えへへ」
何とも準備がよろしい。リーズレットは獣耳が生えるサリィの頭を撫でた。
「水のボトルは取っておきましょう。水魔法で補充して使えますから!」
「ええ。そうね」
加えてリーズレットは即席爆弾の入れ物にも使えるわね、と内心で用途を追加する。
車内で2人揃って惣菜パンをパクパクと食べていると、サリィがリーズレットに問う。
「お嬢様。これからどこに行くのですか?」
「そうですわねぇ……」
リーズレットは頬に指を当てて「んー」と悩む。
ローズレットの記憶には頼れる相手などいない。そして、ここはリーズレットが生きていた時代でもない。
即答はできなかった。答えたのは結局、食事が終わってからだった。
だが、サリィは途中で一言も催促しない。よく訓練された侍女である。
「ちょっと今夜中に考えをまとめておきますわ。貴方はゆっくりお休みなさい?」
リーズレットが後ろの席で寝て良い、と言うとサリィはぶんぶんと首を振る。
「お嬢様が後ろをお使い下さい!」
「構いませんのよ。何かあったらすぐに車を出せるようにしなければなりませんわ」
「私も車の運転が出来れば良いのですが……」
シュン、としょげるサリィの頬を撫でてリーズレットは微笑んだ。
「気にしないでよくってよ。貴方は今のままでいらして」
サリィの尻尾がパタパタと暴れた。可愛らしいと思いながらも、彼女を後ろの席へ移動させる。
10分後。
「すぴぴ」
譲っていたわりには爆睡したサリィ。逃走劇で精神的に疲れていたのだろうか、と彼女の顔をチラリと見る。
そして、リーズレットは運転席に座りながら思考を巡らせた。
題材・題目は「なぜ」という一言に尽きる。
なぜ、ローズレットからリーズレットになったのか。
自分は確かに死んだはずなのに、なぜ生きているのか。
リーズレットには心当たりがあった。嘗てリーズレットとして生きていた時の記憶の中に、この体験をしている者達を知っている。
嘗て、帝国が技術革新に使う為に確保していた『転生者』と同じだ。
嘗て、アイアン・レディが救い出した転生者達と同じ状況に自分がなっている。リーズレットの記憶を持ちながらローズレットの体で生きている。
(まさか、私が)
まさか自分がそうなるとは思うまい。
ここはリーズレットが生きていた時代とは違う。まるで違う。
ローズレットとして生きていた部分の記憶を参照すれば、世界は一度『終わった』のだという。
前時代は戦争の果てに滅亡し、新しい文明が生まれた。
滅んだ前時代の技術を回収、解析して急成長・復興した文明が今だと言われている。
相違点はそれだけじゃない。
人類全てが強弱の違いはあれど、魔法を行使できる。人差し指を口に咥えて『水を出したい』と願えば魔力で作られた水が指先から出る。
火を出したいと言えば小さな火が出て、火種代わりにもなるだろう。
(これは便利ですわね)
王国の警備員が持っていた魔法銃もそうだ。これは、リーズレットが老衰で死ぬ頃に開発された魔力銃に似ている。
魔力銃は魔力を持っていた者にしか使えない銃であったが、それを改良したのだろうか、とリーズレットは推測した。
あとは……一部の動物が変異して魔獣と呼ばれる野生の変異動物が存在している事だろうか。
(結構、時間が経ってそうですわね……)
さて、リーズレットが死んでから何年が経過したのだろうか。全くもってわからない。
彼女は目を閉じてリーズレットの記憶に潜る。
前世を思い出せば老衰で死んだはずの自分と、独身なのに最後までマム、母、と慕われていた人生。
死ぬまで夢見ていた『素敵な結婚生活』は叶わなかったが、あれはあれで悪くなかった。
(今度の人生は結婚できるかしら? いや、でも……)
もう一度夢を叶えるチャンスを得た。これについては素直に嬉しいと思う。
だが、アイアン・レディはどうなったのだろうか。見習い淑女達や組織の幹部であった子らはもう生きていないだろう。
彼女達がどうなったのか、それが気になってしまう。
リーズレットはローズレットの記憶にある、学園の授業で習った世界地理を思い出した。
ラインハルト王国がある場所は嘗ての帝国領土内であると脳内で事実を確認する。
(帝国、南……。そうですわ!)
帝国の南にアイアン・レディの拠点があるじゃないか。そこを目指してみるのも悪くないと思いついた。
もしかしたら、何かヒントを得られるかもしれないと期待して。
(行ってみて、考えましょう)
目的地が決まった。そうなれば明日に備えて仮眠を取ろう。そう思った矢先、街道の方向から魔導車の走行音が聞こえた。
音はどんどん近くなっていき、遠くからリーズレット達の車を見つけたのかオフロード使用の魔導車が隣に停車した。
「ヒュウ! 女だぜ!」
どうやら乗っていたのは下賤な男のようだ。まだここは王国内。女性にとって地獄の場所である。
「おい、お前! 外に出てシモの世話をしな!」
そう言われて、リーズレットは外に出た。
「お、美人じゃねえか! ツイてるぜ!」
「お、マジだ! やりィ!」
リーズレットの美貌を見た2人の男は舌舐めずり。
「ええ。そうですわね。ツイてますわね、汚物が」
1人がニコリと笑ったリーズレットの肩に手を伸ばすと、パンと音が鳴った。
「あ?」
パンパンと連続で2発。肩に手を伸ばした男の股間に3発魔法の弾が撃ち込まれる。
倒れる男。男の頭部に向かってもう1発撃ち込むリーズレット。
「お前――」
仲間が倒れるのを見た、残りの1人がジャケットの中に手を入れた。だが、もう遅い。
パン、と男の額に新しいケツの穴が生成される。
「いつの時代も豚は豚のまま。嫌になりますわね」
クセで魔法銃からは出ない硝煙を息で消してしまう。
後ろを振り返れば、
「お嬢様~? どうかしましたか~?」
ムニムニと目を擦るサリィが窓越しに問いかけてきた。
「いいえ。豚さんがいただけですのよ」
「へぇ~。豚さんですか~」
サリィは「明日は豚肉のソテーが食べられたいいなぁ」と言ってもう一度夢の中に落ちていった。
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