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本編

6 人として死ね

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「キャインキャイン!」

 淑女によるショウが開幕すると、2匹の狼魔獣はリーズレットの恐怖に負けて逃げていく。 

 本日の演目は『赤い淑女による豚の皆殺しショウ』と名付けるのが正しいか。

「クソアマァ!」

 笑うリーズレットに向かって、モヒカン男の1人が発砲。銃口から飛び出した魔法の弾はリーズレットの顔に向かって一直線に飛んでいく。

 だが、当たらない。リーズレットは左足を軸にして、くるりと回る。

 まるでダンスのターン。ピンで纏められていないサイドの長いプラチナブロンドがヒラリと舞う。

 回っている最中に胸の谷間から魔法銃を取り出して、伸ばした腕はモヒカン男の頭部に向ける。

 ワンショット。豚男の頭部がトマトのように赤く弾けた。

「な! テメ――」

 動揺する仲間達、既に走り始めたリーズレットはもう1人の男に肉薄。

 顎の下に銃口を押し付けて発砲。当然、頭の中身が飛び出て死ぬ。

「頂きますわね」

 2匹目の豚を出荷すると、男が倒れる前に銃を奪う。素早く指をトリガー部分に差し込んで、指で銃をクルクルと回しながらグリップを握った。

 両手持ちとなったリーズレットは残り2人に銃口を向ける。

 タン、タンと両方のトリガーを引いて発砲。1人には避けられたが、もう1人は胴と頭を撃ち抜かれて死亡。

「ちくしょう!」

 ここまでやられて、残された男が反撃しないわけがない。

 銃を無茶苦茶に乱射する男の弾を魔導車の影に隠れてやり過ごす。

「クソ!」

 無茶苦茶に撃ったせいで弾切れになったのだろう。魔法の弾が飛んで来なくなった。

 すぐにリーズレットは車体の影から飛び出す。男は死んだ仲間の死体から銃を取っている最中であったが、リーズレットの方が早い。

 ゴリ、と男の後頭部に銃口を押し付ける。

「お、俺達が戻らなかったら、他の仲間がこの町を襲うぜ!」

 命乞い、もしくは脅しのつもりだったのだろう。男は両手を上げてそう言うが、

「それがどうかしまして?」

 リーズレットには一切関係ない。

 仲間が来ようが関係ない。町が蹂躙されようが関係ない。リーズレットを追って来ようが関係がない。

「全員殺せばよくってよ?」

 リーズレットはそう言ってトリガーを引いた。後頭部に穴が開いて男は死んだ。

 豚共を全員殺したリーズレットは地面に落ちている銃からマガジンを抜き取って、魔法銃の魔力残量を移し替える。

 すると、助かった女性と他の町民達がリーズレットに駆け寄った。

 傭兵達を排除した礼を言うのかと思いきや、

「なんて事をしてくれたんだ!」

 リーズレットは凄い剣幕を浮かべた老人に思いっきり怒られる。

「このままじゃあ、ヤツ等の仲間が来て無茶苦茶にされる! 全員殺されてしまう!」

 お前の責任だぞ! と捲し立てる町民達にリーズレットは笑顔を浮かべた。

「だから、それがどうかしまして? 私には一切関係ない事ですわ」

「な、なにを言って……」

 リーズレットにとっては当然の主張だった。自分は魔導車と銃のマガジンが欲しいから殺した。

 敵対してきたから殺した。

 別に町を助けようなんて正義感は持ち合わせていない。それに、女性が襲われている時にリーズレットは確信した。

「安心なさって。どうせ、貴方達は遅かれ早かれ死にますわよ」

 そう、今の彼等はリーズレットが行動を移さなかったとしても遅かれ早かれ、あの傭兵達に殺されていただろう。

 リーズレットにとって、今の町民達は無価値な人以下の生物だった。

「何を言っているんだ! お前がヤツ等を殺さなきゃ……!」

 町民達にはリーズレットの言葉の意味が理解できなかった。 

「ハッ! よく喋るおフェラ豚ですわね! 無抵抗、絶対服従! 大変よろしくてよ! 人としての尊厳を捨てたおフェラ豚にはお似合いですわ!」

 彼等には人としての価値が無い。なぜなら、彼等は人として生きていないからだ。

 仲間や家族が殺されようと、犯されようと無抵抗で時が過ぎるのを待つだけ。

 抗う事も、手を払う事すらもしない。人としての尊厳すらも自ら捨てた人以下、豚以下のクズである。

「人の行動に文句を言う前に、自分の行為をもう一度見つめ直した方がよろしいのではなくって?」

 リーズレットは人である。ローズレットの時も弱いながらに人であった。人であろうとした。そこが彼等とは決定的に違う。

 淑女である前にプライドと意思、尊厳を持った人間だ。

 彼女は確かに弱者を救済してきた。戦場で足掻く女性傭兵を見捨てずに束ね、アイアン・レディを創設したのが何よりの証拠だ。

 だが、尊厳を捨て、抵抗心を捨て、全てを諦めて、生きる事すらも捨てた無価値なクズはどんな者であろうと救わない。

 それは死者と同義だからだ。息をして心臓を動かしながらも、死んでいるのと同じだ。

 彼女が救済するのは必死に生きようと、足掻こうとしている弱者に限る。

「でも……。私達は戦えません……。戦う術を知らない……。あの人達に勝てません」

 結果的に助かった赤毛の女性はリーズレットにそう言った。

 彼女の言葉に淑女は笑顔で答える。

「別に勝てなくてもよろしくってよ? 戦って人として死ぬか。抗わず屈辱を受け入れ、尊厳を失った豚として死ぬかのどちらかですわ」

 戦って生き残る。それは重要な事だ。誰もが勝ちたいと思うだろう。生き残りたいと思うだろう。

 だが、もっと重要なのは人としての尊厳を最後まで持つかどうかだと彼女は語る。

 最後にリーズレットは魔法銃を1丁、女性の前に投げた。

「ここに人を殺す道具がございますわよ。ですが、手に取るか取らないかは貴方の自由」

「…………」

 人として戦って、足掻いて死ぬか。

 それとも今まで通り、尊厳を捨てて意思を封殺された醜い豚でいるか。

 町民達が見守る中、女性は手を伸ばして銃を拾った。

 銃を握って、涙を拭いて、リーズレットを意思ある瞳で見つめる。

「私は戦います。人として、死にます」

「よろしくってよ」

 リーズレットは笑って女性に手を差し出した。

「貴方の名は?」

「私の名前はココです」

 ココはリーズレットの手に自分の手を重ねた。

「よろしい。ココ、私が豚の殺し方を教えてあげますわ」

 華が咲き誇るように笑うリーズレットはココの手を握った。

 彼女の決意に感化されたのか、他の町民達も戦うと言い出した。

「まずはどうすれば……?」

 リーズレットに問う町民達。彼女は皆に告げる。

「まずは豚共の死体を町の入り口に飾りますわよ」
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