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本編
69 バカンス後半戦
しおりを挟む街にいた共和国軍を排除して再占拠を果たしたリリィガーデン王国軍は、北部戦線の時と同じようにグリア人の商人や上流階級達から財産を没収。
公開処刑は共和国軍人達だけにして、残りの住人は街から追い出す。
この街から逃げ出した元住人が逃げるとしたら東側にある海岸沿いの街だろう。そこを経由して首都に行く、もしくは別の街へと行くはずだと読んだ。
そこで、街を占拠したリリィガーデン軍の隊長クラスは街の集会所に集まって次の行動に対するブリーフィングを始める。
「次はここから東にある共和国最南端の街を堕とします。共和国南部を制圧して、共和国人を北と東側へ追いやるのが目的です」
街の雑貨屋から拾ってきたスケッチブックに共和国領土全体の図を描き、現在地からどう侵略していくのかを説明するのは情報部の男。
リーズレット、ガーベラ、オブライエン、国の上層部と軍の司令官との作戦会議を出発前に王城で終えていた情報部は共和国との戦争において彼らを北側、つまり連邦側へ追いやるのが重要だと語る。
「例の麻薬か」
情報部の説明を聞き、頷きながら言ったのはブラックチームリーダーのブライアン。
彼の言葉に情報部の男も頷きを返した。
「ええ。現在、連邦西部のラディア人難民と2ヵ国国境沿いを中心に流入を広げています。共和国を堕とす際、あまり麻薬の効果は望めません」
麻薬中毒者を敵国内に蔓延させるには時間が必要だ。しかし、マギアクラフトという強大な組織がバックに控える2ヵ国相手にそんな悠長な事はあまり言ってられない。
特に長く苦しめられたドラゴンライダーの量産、加えて連邦へ物資輸出を担っている共和国を堕とさなければ、リリィガーデン王国軍が大陸上最大の国土を持つ連邦と真正面からぶつかり合うのは厳しいだろう。
「そこで、南から北に追いやる事で共和国人を麻薬の流入地へ向かわせます。同時に逃げ出した住民の中に麻薬を持った情報部の人員を紛れ込ませました。逃げる共和国人の流れに乗って中央へと流入させます」
連邦西部のラディア人難民と同じ手法だ。恐怖でトラウマを植え付け、夢の薬に手を伸ばすよう仕向ける。
連邦西部、連邦南の国境、そしてリリィガーデン軍の被害にあった共和国人が内部から北上していく事で麻薬中毒者を徐々に量産していこうという作戦だ。
リリィガーデン軍の作戦が進み、被害者が増えていく。被害に遭った共和国人が辿り着く果てはベレイア連邦。
そうなったら、連邦はラディア人の他に共和国人の難民も抱える事となる。しかも、麻薬で汚染された者達だ。
彼等の姿、甘い声に誘われた心の弱い連邦人はどうなるだろう? ラディア人と共和国人を利用した連邦への汚染作戦は、対連邦戦となった際にボクシングのボディーブローのように効いて来ると情報部は確信していた。
「それと共和国軍人を尋問した結果、ドラゴンライダーに使用するドラゴンの繁殖地が分かりました」
情報部の男はスケッチブックに描いた共和国領土全体図の下側、現在地から東にある大陸外の小さな島に丸をつける。
「共和国内じゃないのか?」
「はい。ここは異種族の島です。共和国に制圧され、属国となった島ですね」
異種族。この存在、実は前時代には存在していなかった。
世界が再スタートした際に現在の共和国首都がある場所で多く発生・出現した人種である。誕生のきっかけは未だ分かってはいないものの、確かに獣的な特徴を持った異種族という存在はこの世に生きているのだ。
彼等の特徴はリーズレットの侍女であるサリィを見れば分かりやすいか。人でありながら獣の尻尾や耳を持った存在で、嗅覚や聴覚に優れた者が多い。
しかしながら、人間という存在は自分とは違った容姿・特徴を持つ相手に脅威を感じる。それ故に、彼等は迫害されて南に追いやられた。
共和国誕生の歴史の中には共和国人と異種族の小さな戦争も含まれており、人間との戦争に負けて今では人口を多く減らした異種族は共和国によって南の孤島に封じ込められた。
共和国人の中には異種族を同じ人間として見ていない者もいて、今はあまり無いが過去そういった差別の目を持つ者は異種族を捕まえて奴隷のように扱っているという事実もある。
サリィがリーズレット――記憶を取り戻す前のローズレットの実家であるオーガスタ家にやって来た理由もそうだ。
オーガスタ家当主であったローズレットの父が共和国人の商人から異種族を見せられ、物珍しい海外産の特産品感覚で購入したという経緯があった。
「異種族ってのは誕生が謎に包まれてますが、共和国人から早々に迫害されたせいもあって我々とは違う独自の文化を持っています。その中の1つが魔獣を従わせる技術です」
人間に迫害され、安住の地を求めて彷徨う異種族。世界には魔獣という存在が溢れ、その脅威から身を守るべく彼等は魔獣を手懐ける技術を確立させた。
「ドラゴンライダーのドラゴン種にはその技術が使われています。異種族が飼育したドラゴンにマギアクラフトが技術利用して開発した首輪を装着。そうして操っているそうです」
マギアクラフトは異種族の持つ技術を取り込み、それを魔導具化したという。いくら飼育されたドラゴンだったとしても恐ろしい魔獣を100%手懐けるのは不可能だったようだ。
飼育したドラゴンを戦争利用しようと考えた共和国が首輪無しで試みたところ事故が多発。そこでマギアクラフトが完璧に操る為の補助装置として首輪が開発したようで。
情報部が尋問した軍人曰く、ドラゴンライダー誕生の裏にはそういった経緯があったようだ。
「我々は共和国南部を制圧し、この島を奪います。ドラゴンの飼育をする大元を奪えばドラゴンライダーの量産は止まるでしょう」
そうなれば、空を支配するのはリリィガーデン王国のイーグルとなる。
空を支配され、苦しめられたリリィガーデン王国軍が今度は相手を苦しめる番になるわけだ。
「なるほど。了解した。作戦の承認は?」
「孤島の件は既に本国へは通信済みで陛下と司令官から頂いています。2人ともマムから承認を得られれば良し、と」
「そうか」
首都にいるガーベラとオブライエンから承認を貰った情報部はリーズレットの同意を得られれば次の作戦に向けて動き出せる。
ブリーフィングを終えた情報部の男はさっそく承認を……と歩き出そうとするが、ブライアンが腕時計をチラリと見た後に制止する。
「あと1時間後にした方が良い」
「え? どうしてです?」
「今、マムはビーチで女性軍人達とバカンス中だ。穴あきチーズにはなりたくないだろう?」
時間指定されてはいるものの、ビーチには軍に所属する女性達とリーズレットが海で遊んでいる息抜き時間だ。
海で遊ぶと言ったからには女性達は水着であるに違いない。そして、砂浜には着替える為の小屋なんて気の利いた物は存在しない。
もしも、彼が承認を得に行った際、彼女達の着替え時間に乱入してしまったら。
ラッキースケベなんてもんじゃない。アンラッキーじゃ済まないくらいの地獄が待っている。
「1時間待て。1時間後、男軍人向けの息抜き時間になる」
「……そうします」
情報部の男は素直に頷いた。
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ブライアンが言った通り、白い砂浜には多くの水着姿で海を楽しむ女性軍人がいた。
「冷たくて気持ち~」
「やっぱ夏は海ね!」
死と隣り合わせの戦争から一時的な解放だったとしても、軍人にとっては良いリフレッシュとなるだろう。
そう提案したのはリーズレットだった。
何事も気分転換が無ければ長くは続かない。疲弊した心を癒す機会が無ければ人の心は朽ちていく。
こういったリフレッシュが無ければ軍人などすぐに壊れてしまう、と彼女はよく知っていた。それこそ復活させた麻薬に手を伸ばす者が出てしまうかもしれない。
敵を麻薬汚染させようとしている自軍が麻薬に手を伸ばすなど笑い話にもならないだろう。
キャッキャと冷たい海の水を浴びて楽しむ女性軍人の背後、砂浜に並べられたリゾートチェアには水浴びを終えたリーズレットがマチルダ、コスモスと共に横になって日差しを浴びていた。
「私、決めましたわ。共和国を滅ぼしたらガーベラからこのビーチを報酬として頂きますわよ」
サングラスをかけながら日差しを浴びて、冷たくなった体に熱を与える彼女はそう言って輝かしい未来の話を始めた。
平和になったらリゾート地を経営して一攫千金を狙う、などと話すリーズレットの横にいるマチルダは大きく頷く。
「良い案です。私の別荘も建てさせて下さい」
「ええ、勿論よろしくってよ」
水着姿でも気品溢れるスタイル抜群なリーズレット、森の中で鍛え上げられたスタイルを緑色のビキニで隠すも、熟した色気が溢れ出るマチルダ。
2人が揃って並ぶ姿は同じ女性であっても目を引くほどのインパクトだ。
その証拠に多くの女性軍人からチラチラと視線を向けられていると知りながら彼女達は語り合う。
「戦争が終わったらですか。考えた事なかったですね」
リーズレットの左側で横になるコスモスもまた水色のワンピースタイプ水着を纏って、訓練と実戦に身を投じた中で作られたモデルのような体形を晒していた。
コスモスは上半身を起こすとサリィが用意してくれたジュースを口にする。
「マムが現れる前は絶望的だったからな。しかし、終わった後を考えるのは良い事だと思うぞ。特に軍人の私達はな」
もしも、世界が平和になって戦争が無くなったとしたら。技術進歩は進められたとしても軍縮が行われるのは確実だろう。
そうなれば真っ先に削られるのは兵士である。マチルダやコスモスは教官として生き残れるだろうが、それでも別の道に行くのも1つの選択肢としてアリだ。
「コスモス。貴女、夢はございませんの?」
「夢ですか……。ありませんね。家族にも軍人になれと言われていたので」
しかし、代々軍人を輩出してきた家であり、先祖がアイアン・レディのメンバーともなれば自由な夢を持つ前に『将来』を与えられてしまう。
そうして育ったコスモスは確かに強くなった。しかし、人間としては少々つまらない。
「マムは……結婚ですよね」
「ええ。勿論でしてよ。私は戦いなんて嫌いですもの。金と権力を持つイケメンの旦那様と暮らしながら平和で幸せな日々を過ごしたいですわ」
「え? 戦うのはお嫌いなのですか?」
リーズレットの言葉に驚くコスモス。驚いたのは戦う事が嫌い、という部分だ。前世でもアイアン・レディなんて組織を結成したのだから、嫌いとまで言うとは思わなかった。
「そうでしてよ。私は元々貴族の娘でしたの。王子様と結婚する予定でしたのよ? それが、メスブタに邪魔され……。次の婚約者候補と付き合ったと思ったらまたメスブタに邪魔されて……!」
リーズレットは前世を思い出して奥歯をギリリと鳴らした。
あくまでも彼女は邪魔者を排除してきただけだ。1人排除すれば次が現れ、それを排除したら次が……と終わりの見えぬ戦いが向こう側からやって来たに過ぎない。
前世で世界中を恐怖に陥れたのでさえ、理想の旦那様を追い求めた行動の副産物に過ぎないのだ。
「婚約破棄だなんて……。男運が絶望的じゃないですか」
コスモスがリーズレットの前世をしっかり聞いたのはこれが初めてだろう。伝説として描かれた物語の裏側がこんなにも悲しい事実だったとは。
コスモスは正直に同情を露わにして、マチルダも黙ってはいるものの内心同情していた。
「自分でもそう思いましてよ。しかし、今度はッ! 今度こそッ!」
しかし何度婚約破棄されようとも、何度婚約者候補の額にケツの穴が開こうとも、へこたれないのがリーズレット。
2度目の人生では絶対に結婚してみせる、と拳を握りながら強い意気込みを露わにした。
「どんな男性がタイプなのですか? 財産の度合いや権力の大きさではなく、内面の方で」
コスモスが問うとリーズレットは「んー」と可愛らしく悩み始めた。
「そうですわねぇ。優しさも重要ですが、やはり積極的なタイプが好きですわね。私を、こう……強く抱きしめてくれるような。戦場の中で窮地に陥った私を助けてくれて、腰を抱きながら敵を殺して……。それから、私の事を誰にも渡さないと独占するような超強気なタイプも良いですわね!」
ウフフ、と妄想するリーズレットは頬に両手を当てて体をくねらせた。
伝説の淑女であるレディ・マムが窮地に陥る。そりゃレアすぎる状況じゃないか、とはコスモスもマチルダも口が裂けても言えない。
どうやら話を聞くと、リーズレットはヒロイン願望があるようだ。
颯爽と現れるヒーローが自分を助けに来て、敵を倒して脱出! 夕日をバックに2人は見つめ合い、キスをして……END! が理想なシチュエーション。
総じて自分は受け身、相手が積極的にリーズレットへ愛を囁くといった感じの男性が理想の内面らしい。
リーズレットの理想に完全一致している者、もしくは本人からアプローチを受けているならば別だが、彼女が気に入らない相手が同じ事をすれば……ただの自殺志願者である。
そもそもリーズレットという人物を知った上で、そんな度胸のある行為が出来るタフガイはこの世にいるのだろうか。
「……条件に合う良い男がいたら教えます」
「……私もです」
「頼みますわよ!」
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