108 / 134
本編
101 2人の魔法少女 2
しおりを挟む「逃がしませんわよォォォォッ!!」
マキを地上に引き摺り下ろしたリーズレットは再び空に飛ばれる前に勝負を決めようと突撃した。
両手に持つアイアン・レディを連射しながら対魔法少女戦のセオリー通りに体術による近接戦闘を仕掛けようと急接近。
「チッ! うざったいのよ!」
マキは手から炎の鞭を生み出した。
生み出された鞭は新型魔導具によって強化されているのか、連邦首都で戦った時よりも威力が増しているように見える。
以前はゴウゴウと燃えて見た目通り、炎が鞭になっていたが今回生み出したモノはマグマを鞭にしたような、より鞭に近いしなやかさ感じられる形になっていた。
マキが鞭を振るうと火の粉が飛んだ。火の粉が地面に落ちると地面にあった石がジュワッと溶ける。
石すらも一瞬で溶かしてしまう鞭に人の体が触れたらひとたまりもないだろう。火傷どころじゃ済まない、下手すれば体の一部が焼き切れるかもしれない。
「ハッ! 所詮は芸の無いファッキンマジカルビッチですわねェ!」
だが、マキの振るう驚異的で高火力な鞭を前にしてもリーズレットは止まらない。
それどころか獰猛な目を彼女に向けて、まるでマキが喰われるだけの憐れな子兎であると証明するかのように鞭を掻い潜って近づいて行く。
彼女も言うように、所詮は魔法少女。
魔法しか撃てぬ、魔法しか能のない、魔法に頼るだけの愚か者。
「おーっほっほっほ!! クソガキがァ! 死んで下さいましィー!!」
鞭を潜り抜けたリーズレットは恐怖を植え付けるように、銃弾が弾かれると知りながらマキの顔面に連射した。
この行為で彼女は思い出したであろう。
首都で一度負ける寸前だった事を。仲間が助けに来てくれなければ、あの場で死んでいた事を。
「ほらほらァ! 私を殺すんでしょう? 殺すと言いましたわよねェッ!?」
本物の戦争を、本物の闘争を、本物の戦いを潜り抜けて来たリーズレットには劣るのだ。
彼女のトラウマを掘り起こすような、顔面ゼロ距離射撃を終えたリーズレットは回し蹴りを見舞う。
マキは脇腹に蹴りを喰らい、そのまま吹き飛んでしまった。
「マキッ!」
未だ空を飛ぶアリアは吹き飛ばされたマキを助けるべく、氷の槍を放とうとするが……。
「だめですぅ~!」
サリィの発射したミサイルがアリアのケツを捉えた。
「ぐうう!! 邪魔ッ!!」
彼女はずっとサリィにマキへの援護を封殺されている。
しかも、サリィは前方に展開する連邦とマギアクラフトの混成部隊を攻撃しながらという有能っぷり。
やはり淑女と淑女付き侍女はスペックが違う。いくら装備を強化しようと魔法少女なんぞは足元にも及ばないのか。
「調子に乗るなぁぁぁ!!」
吹き飛ばされたマキが怒りに顔を染め、叫び声を上げる。
すると彼女の体から衝撃波と共に炎が撒き散らされた。
灼熱の炎が散って周辺の大地をドロドロに溶かし、衝撃波と共に噴出した熱波だけでも火傷してしまうんじゃないかと思えるほど熱い。
「私は、もう負けないッ! お姉様なんかに負けないんだからああああ!!」
ヒステリックな叫びを上げたマキの左腕に装着された魔導リングが眩しい光を発した。
すると、彼女の体には炎と同色である魔素のオーラが纏う。
マキは手をリーズレットへ向けると炎の渦を撃ち出した。
炎の渦は蛇の形になって、大口を開けるとリーズレットを追尾するように動き出す。
彼女の体に喰らい付こうと炎の口をガチリと閉じるが、リーズレットは寸前で回避する。
「チッ!」
マキがブチギレているせいか、炎の蛇の動きは単純。
だが、単純に効果範囲が広い。掠ってもいないのに、蛇が放つ熱波を至近距離で浴びただけでリーズレットが着るドレスの一部がチリリと焦げた。
しかも、蛇が這った後を残すように地面の一部が魔法の炎で燃え始める。
「リズッ!」
ラムダがフォローしようとするが、
「お止めなさい! 食らうとマズイですわ!」
リーズレットが制止する。これは近接戦に特化したラムダが相手するには分が悪いと判断したようだ。
「死ねッ! 死ね死ね死ねッ!」
銃を撃って炎を散らそうとするが、マキは炎の蛇でリーズレットの放つ弾丸を口で飲み込んだ。
当然、灼熱の炎によって弾自体が溶かされる。炎の蛇に撃っても効果は全く見込めない。
「だったらッ! こちらですわッ!」
そう叫びながらリーズレットは術者であるマキに銃弾を撃ち込んだ。
こちらも魔法防御で弾かれる。が、撃ち込んだ瞬間に彼女はラムダを一瞬だけ見た。
言葉を口にせず、何かを訴えるかのような眼差しで。
すぐにマキの顔を見ると、せっかく距離を取った炎の蛇へ向かって走り出す。
「ファァァァック!!」
走りながらグレネードを持ち、口でピンを抜くとマキへと投げる。
彼女の足元で爆発を起こしたグレネードは土を巻き上げた。
恐らく魔法防御でマキ本人は無傷だろう。だが、それで良い。
空へと舞う大量の土と土煙で彼女の視界を遮るのが狙いだった。
見えなければ操作もできまい。リーズレットは炎の蛇とぶつかる直前でスライディング。
「ぐっ」
一瞬だけ熱波を浴びながら蛇をすり抜けて、マキへと駆ける。
彼女の視界を塞ぐ土煙を突破して――
「オラァァァッ! ですわよォォォォッ!!」
土煙の中を突破して来たリーズレットに目を剥くマキ。
「あぎッ!?」
リーズレットは彼女の顎に飛び膝蹴りをお見舞いした。
彼女が地面を転がるのは何度目だろうか。地面を転がり、全身汚れ塗れになったマキは痛みに耐えながら立ち上がろうとするが――
「これで終わりだねッ!」
リーズレットが一瞬だけ送ったサインを察したラムダが距離を詰めていた。
まさに以心伝心。リーズレットが隙を作るのを待ち構えていたラムダは、右目の色を赤に変えて爆発的な加速を発現させながらナイフを振り被った。
マキはラムダを目で捉えてはいたものの、体を動かすには時間が足りない。
彼の持つナイフはマキの首筋を狙う。万事休すか、と思われたが。
「マキッ!」
割って入ったのはアリアだった。
箒から飛び降りて氷の盾を発動するとラムダのナイフを受け止める。
が、リーズレットはこの機会を諦めない。
「邪魔でしてよォォォッ!!」
アイアン・レディを連射して氷の盾を破壊する。駆け出しながら素早くリロードを終えて、再び連射。
「くっ!」
再び氷の盾を生み出そうとする間、アリアは魔法防御で銃弾を防ぐ。その際、アリアの右手の指に装着している指輪がキラリと光った。
その光を目撃したリーズレットはアリアの装備を見た。首元、胸、腕、と視線を巡らせ魔法少女が持っているペンダントが無い事に気付く。
剥き出しの弱点だったペンダントを廃止して指輪に代えたか。もしくは左腕に装着している腕輪か。
「ラムダッ! 手首!」
リーズレットはラムダに狙う部位を伝えた。明確な言葉ではなかったが、ラムダが察するには十分な量である。
再び氷の盾を発動しようとするアリアへ駆けながら銃を撃ち、魔法の発動が少しでも遅れるよう集中力を乱す。
「あっ!?」
アリアがあと少しで氷の盾を発動しそうだった時、リーズレットは彼女の腕を上に弾いた。
「チェック、ですわね?」
そう言って笑うリーズレット。彼女の背後、影となった部分からラムダが飛び出すと――アリアの右手首を切断した。
「ああああああッ!?」
「アリア!?」
切断された手首から血を流し、絶叫するアリア。
マキは慌ててアリアの服を掴み、後ろに引いて位置を入れ替えようとするが……。
「ざぁんねん」
華が咲き誇るように笑ったリーズレットが既にアリアの頭部に銃口を向けていた。
マキにはこの瞬間、全てがスローモーションに見えていただろう。
「マキ、逃げて」
そう言ったアリアの言葉が、マキの耳に張り付くように聞こえた。
同時に銃声が鳴るとリーズレットの放った弾はアリアの首に命中した。
命中した弾はアリアの首を貫通すると、首に出来た穴からはドクドクと血が流れ始めた。
「アリアァァァァッ!!」
マキがアリアの体を抱き寄せるが、状況は変わらない。アリアの首と切断された手首からは大量の血が流れ、ヒューヒューとか細い息だけが聞こえるだけ。
「やっぱり。ペンダントから指輪に変えましたのね?」
ニコリと笑うリーズレットがそう言うが、マキの耳には全く届いていなかった。
「アリア!! アリア!!」
焦るマキはアリアの首を押さえて周囲に顔を向ける。後方にアリアが放り出した箒を見つけた。
今すぐ本部に帰れば。本部の医務室ならばアリアを救えるかもしれない。
医療の知識など持ち合わせぬ彼女はこの場で荒々しくとも応急処置をするという事など思いつきもしなかった。ただこの状況、敵の真ん前で応急処置など論外であるが。
友を失いたくないと焦るマキはアリアの体を抱いて立ち上がり、箒が転がっている位置まで駆け出す。
「あら? 逃げますの?」
当然、リーズレットは逃がす気は無かった。
銃口を地面に転がる箒へ向けてトリガーを引こうとするが……。
「黙れええええ!! 邪魔するなァァァッ!!」
マキは強烈な絶叫に似た叫びと同時に、自分達とリーズレットの間に炎の壁を生み出す。
今まで以上に素早い魔法の発現と威力を見せたそれは、リーズレットを拒絶するように巨大な炎の壁に成長した。
「死なせないッ! この子だけはッ! 死なせないからァァァッ!!」
巨大な炎の壁を発現させても尚、マキは叫びながら魔法を発動した。
「なっ!?」
「リズ、引いて! 危ない!」
巨大な炎の壁がどんどんと厚みを増して行き、流石のリーズレット達でもどうにもできない程になった。
徐々に範囲が広がって行く炎の壁は広がるにつれて地面をドロドロに溶かしていく。近くにあった魔導車の残骸を飲み込むと一瞬で溶かしてドロドロの液体へ変えた。
リーズレットも人生初めて見るほどの魔法。魔導兵器でならば可能だろうが、人間自体がこんな広範囲で高威力な魔法を人が生み出すなど瞬間など、さすがに見た事はなかった。
可能にした理由は新型魔導具である、術者の魔力増幅を行う腕輪のおかげなのだが……。
魔導具を作り出したマギアクラフトの技術者が見ても、これは明らかにオーバーロードと言うだろう。
故に炎を生み出したマキの体にも大きな負荷が掛かる。マキの髪は真っ白に変化して、腕輪を付けていた左腕はミイラのような状態になってしまう。
魔導具本体にも強烈な魔力が一瞬流れた事で腕がミイラ化したと同時に砕け散ってしまった。
「待ってて、絶対に、助けるから!」
それでもマキはアリアの体を抱いて箒に跨った。
空を飛び、戦線を離脱してマギアクラフト本部を目指して去って行く。
「お嬢様! 空を飛んで逃げたですぅ!」
戦車の中から去って行く姿を捕捉したサリィが知らせると、リーズレットはまだ広がっていく炎から逃げながら舌打ちをした。
「チッ! ラムダ! 戦車に飛び乗りなさい!」
「うん!」
魔法少女をまたしても逃してしまった。腹立たしいが、今は炎から逃れるのが先決。
リーズレットとラムダは機動戦車に飛び乗ると、サリィに炎から逃げるよう命じた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました
丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、
隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。
だが私は知っている。
原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、
私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。
優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。
私は転生者としての知識を武器に、
聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、
王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。
「婚約は……こちらから願い下げです」
土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。
私は新しい未来を選ぶ。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる