女神殺しの悪役貴族 ~死亡フラグを殴って折るタイプの転生者、自分と推しキャラの運命を変えて真のハッピーエンドを目指す~

とうもろこし

文字の大きさ
3 / 50
0章 プロローグ

第3話 ハーゲット家 2

しおりを挟む

「母様! 僕に魔法を教えて!」

 シオンの腕から抜け出し、今度は母親――エリスの足にしがみつく。

 ――エリス・ハーゲット。今年で三十三歳になる魔法使い。

 元々平民だった彼女は魔法使いとしての才能に恵まれていることを自覚すると、傭兵として生計を立てることを決意した。

 孤児だったこともあり、身一つで生きていく傭兵は身軽で楽だったのもあるのだろう。

 ただ、この選択は将来の旦那との出会いに繋がることになる。

 たまたま依頼で一緒になった父アンドリューと意気投合し、二人はパーティーを組んで行動することに。

 そこから徐々に仲間が増え、傭兵団『鷹の剣』は次第に功績を積み上げていき、遂に団長であった親父が爵位を得るほどの戦果を上げたのだ。

 そして、かねてより恋人関係にあった二人は結婚。領地で可愛い息子を産みましたとさ。

 今は夫を支える妻として家を守ってはいるが、傭兵魔法使いとして活躍していたのは事実。

 魔法について教えを乞うなら彼女以外にはいない。

「え? 魔法?」

「うん、魔法! 僕、魔法使いたい!」

 俺は子供らしく母親の足にしがみついたまま、おねだりするように彼女を見上げた。

 すると、後ろからむにゅっと頬を優しく摘ままれる。

「あら、坊ちゃん。さっそく浮気ですか。この浮気者。女泣かせ」

 むにゅむにゅと頬をいじくってくるのはシオンだった。

 そんな彼女の行動に母様はクスリと笑って、しゃがみながら俺と目線を合わせてくる。

「シオンよりもお母さんがいいの?」

「シオンからも習うけど、母様からも習う」

 俺はどっちも、と二人の間で答えた。

「欲張りね。将来、女の子を泣かせちゃだめよ?」

 彼女は俺の前髪をかき上げておでこにキスをした。

 そして、優しい母親として微笑むのだ。

「魔法、教えて?」

 俺に魔法の才能は無いかもしれないが、無いなら無いなりに活用していきたい。

 使えるものは全て使ってやる。

「うん、いいわよ」

 母様は俺と手を繋ぎ、庭に作った花壇の前へ連れて行く。

「魔法ってのはね、魔法陣を構築することで発動させるのよ?」

 母様は黄色い花に手をかざすと、小さな青い魔法陣を作り出す。

 魔法陣からは緩やかな水が放たれ、花壇の土を濡らしていく。

「どう?」

「おおー」

 ここで俺が目撃したのは、魔法陣に『文字』が書かれていたということ。

 魔法陣は二重円。その中心に恐らく魔法名を示す文字が描かれているのだが、全くもって知らない文字だった。

「母様、魔法陣の中に文字がある。読めないよ?」

「魔法陣を構築する文字は『魔法文字』と呼ばれていてね? 私達が使うログレス王国文字とは違うのよ」

 そして、前世で使っていた文字とも違う。

「魔法を使うには魔法文字の習得が必要なの」

「ふぅん……」

 ここまでの情報は設定資料集にも書いてあった通りであるが、肝心の『魔法陣を構築する方法』が不明だ。

 前世には魔法なんてものはなかったし、バリバリの科学技術世界だったし。

 魔法なんて映画やテレビ、ゲームの中にしかなかったからなぁ。

「そもそも、どうやって魔法陣を構築するの? 構築するのも魔法文字が必要なの?」

「おっ、良いところに気が付くわねぇ」

 母様は「さすが、私の息子」と俺の頭を撫でた。

「魔法陣を構築するには『魔力を練る』行為が必要よ。魔力を練ることができれば、カラの魔法陣は構築できるの」

 母様の言う「空の魔法陣」とは、文字の入ってない状態の魔法陣を指す。

 要は魔力で魔法陣の基礎形となる二重円を作る、ということ。

「魔法を使うには、まず空の魔法陣を意識せずに構築できる練習からね」

 これは初期の魔法訓練に用いられる基礎訓練の一つでもあるようだ。

「空の魔法陣をちゃんと作れるようになったら、その中に文字を入れていく練習をするの。そうするとスムーズに魔法陣を構築できるようになるからね」

 なるほど。

 基礎訓練と応用訓練ってところか。

「魔力を練るってどうやるの?」

「私達人間の体には魔力を貯める器官があるの。そこから必要な分の魔力を取り出すのだけど……。説明しても難しいわよね」

 八歳の息子には難しい話だと判断したのか、彼女は俺の小さな手を優しく包み込む。

 すると、握られた俺の手に温かい感触が生まれた。

 同時に淡い青色の光まで見え始めたのだ。

「どう? 何か感じる?」

「……なんか、温かい。温かいのが手の先から腕の中に入っていく感じ」

「そうそう。それが魔力よ」

 今、彼女は俺の体に魔力を流し込んでいる状態だという。

 この温かい感触が魔力の正体であり、この感触を目印にして体から魔力を放出することが最初のステップ。

「…………」

 人間には魔力を貯める器官があると言っていた。

 前世の体には備わっていない、この世界の人間にしか備わっていない臓器があるのだろう。

 そこから魔力を放出するって仕組みだと思うのだが……。

 俺は体の中にある臓器を探るように意識して、手に感じた温かさを見つけようと集中する。

 すると、驚くくらい簡単に見つかった。

 心臓の少し下に熱を感じる。この熱を体外に排出するように意識すると、魔力が体内を移動する感覚が走った。

 たぶん、これはこの世界に生きる人間の体に備わった機能の一つなのだろう。

「わぁ! レオン、上手い上手い!」

 どうやら成功だったらしく、手を繋いだ母様に俺の魔力が流れ込んだみたいだ。

 母様は俺を抱きしめると、さすがは私の息子と褒めてくれた。

「レオンは魔法使いとして大成しちゃうかもね?」

 ……いいや、ないよ。

 それは息子を愛する母親の甘い幻想だ。

 幻想を夢見て笑う母様の笑顔を見ていると、胸が締め付けられる。

 こんなにも自分を愛してくれる人が狂うところなど見たくないと強く想った。

 ――今、俺の人格は前世の記憶があるせいで『混ぜ物』状態になっている。

 しかし、レオンとして家族への愛を抱いているのも事実なのだ。

「……母様、僕は強くなるよ」

「ん? 強くなるの? どうして?」

「母様を守るため。シオンも、父様も。みんな守るため」

 これは本音だ。

 今、レオンとして生きている俺の本音。

 幸せな家族を、優しく息子を愛してくれる家族を失いたくないから。

「レオンが母様を守ってくれるの?」

「そうだよ。僕が守るの」

 そう言うと、彼女はフフと小さく笑って俺を抱きしめた。

「嬉しい。じゃあ、レオンが私を守るれるようになるまで、私が貴方を守ってあげる」

 優しくて温かい。人のぬくもりとは違う、母親特有のぬくもりだ。

 こんな感触を感じたのはいつ以来だろう?

 母って存在はどんな世界でも偉大な存在なのだと改めて思った。

「おーい! 帰ったぞー!」

 庭で抱きしめられていると、新たな人物が登場した。

 俺と同じ濃い茶の髪を持つムキムキマッチョマン。領主であり、俺の父親であるアンドリュー・ハーゲットだ。

 身長は高く、腕や脚は丸太のように太い。厳つい顔の頬には傷跡が残っている。

 巨大な剣を背負い、肩には大きな魚が入った籠を下げる姿はまさに傭兵って感じだ。

「魔物退治のついでに魚採ってきた。今夜は魚料理にしよう」

 そう言って籠を下ろすと、俺達の元へやって来る。

「どうした? レオンと庭で遊んでいたのか?」

「この子が魔法を教えて欲しいって」

「私には戦い方を教わりたいと」

 母様とシオンが説明すると、親父はニッと笑った。

「そうか、レオンは強くなりたいのか」
 
「うん。強くなる。父様を守れるくらい」

 俺は宣戦布告するように言ってやると、俺を見下ろしていた親父の顔にはニカッと笑顔が浮かぶ。

 そして、彼は俺の体をヒョイと抱き上げた。

「そうか! 俺まで守ってくれるのか! さすがは俺の息子だ!」

 親父はガハハ! と笑って――俺を真上に放り投げた。

「んおおおおお!?」

 めっちゃ高い! 今の俺、屋敷の屋根まで浮いてる! 二階建ての屋敷より上にいるゥ!

「ひゃあああ!?」
 
 重力に負けた俺は悲鳴を上げながら落下していき、ぼすんとごつくて硬い腕の中に戻った。

「もう、アナタ! 子供を放り投げるのは止めてっていつも言ってるわよね!?」

「馬鹿筋肉マン! 何してんの!? 坊ちゃんを殺す気!?」

「え、あ、す、すまん……。つい……」

 女性陣にガン詰めされる親父は、俺を抱きながらシュンと小さくなってしまった。

 子供一人を空高く放り投げられるほどの力を持った男も女には弱い。

 これが世界の真理だ、と俺は新しい知識を得た。

「もう! これだから馬鹿は!」

 親父は俺をシオンにひったくられ、妻である母様からは「早く魚を運んで!」と尻を叩かれる。

「わかった! わかったから!」

 だが、親父の顔は幸せそうだった。

 これがハーゲット家の形。家族の形なのだ。

「さぁ、坊ちゃん。お魚を焼いて食べましょうね」

「うん」

 俺が守ってみせるさ。

 必ず。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...