女神殺しの悪役貴族 ~死亡フラグを殴って折るタイプの転生者、自分と推しキャラの運命を変えて真のハッピーエンドを目指す~

とうもろこし

文字の大きさ
5 / 50
1章 死亡フラグへの第一歩

第5話 十一歳 1

しおりを挟む

 更に一年が経過し、俺は十一歳になった。

「ほっ、ふっ!」

「踏み込みがあまいですよ! もっと思い切って!」

 三年間欠かさず続けたトレーニングは徐々に成果が出始め、今ではシオンのスピードを完全に追えるようになっていた。

 俺の拳を弾くシオンの顔も真剣な表情に変わり、稀にだが彼女は大きく避ける動きを見せるようになったし、組手が終われば汗を掻かせることも可能になってきた。

 ただ、相変わらずシオンは素手だ。シオンの得意とする剣を使っての組手は未だ無い。

「シオン、剣は使わないの?」

「可愛い坊ちゃん相手に剣を使うメイドがどこにいますか」

 トレーニングの休憩中に問うてみると、シオンはスススと近寄ってきた。

 そして、然も当然のように俺のシャツをめくり上げて腹筋を触りだす。

「ああ、いい感じ……」

 最近の俺はシオンの理想に近い筋肉に成長してきたようで、顔をうっとりさせながら――たまに涎を垂らしながらのスキンシップが年々に増してきている。

 だが、俺だって学ぶんだ。

「こしょこしょ」

「ひゃん!」

 腹筋に頬擦りしていたシオンの耳をくすぐってやると、彼女は実に可愛らしい声を上げる。

 ハーフエルフだから耳はヒューマンと同じの形をしているけど、敏感なところはエルフと変わらないのが彼女の弱点だ。

「……坊ちゃんは歳を重ねる毎に悪い男になっていきますね」

 弱点を突かれたからって……。

「シオンだけズルいよ。僕だってやられっぱなしじゃないからね」

「まぁ、男らしい。シオンは年々濡れる頻度が増えているんですよ? 責任とって?」

 耳をくすぐられたせいか、ほんのり頬を赤くしながらシオンは言う。

 ……人生二週目の俺だから耐えられているけど、マジのガキだったら確実に性癖歪んでるだろ。

 いや、これが彼女の作戦か? マジで俺と結婚しようとしているんじゃ?

 読めない彼女の思惑に疑問を抱くが、少なくとも今はそんなこと考えている場合じゃない。

 トレーニング! とにかくトレーニングだ!

 ――さて、シオンは武器を用いたトレーニングを行ってくれないが、代わりを務めてくれるのは我が領地最強の男である親父だ。

「ようし! 全力で来い!」

 親父は木剣を持って相手してくれて、尚且つこちらも革のガントレットをはめた上で魔法の使用アリという実戦に近い形式でのトレーニングに付き合ってくれる。

「ふんっ!」

 だが、こちらはシオン以上に実力差を感じる結果に毎日終わる。

 全力で振った拳は木剣でガードされるし、衝撃波を使った決め手の一撃もギリギリ回避されてしまう。

「ほらっ! 受け止めてみろ!」

 親父が振り下ろした木剣に合わせ、俺は衝撃波の魔法陣を貼り付けた拳を振り上げる。

 木剣に拳をぶつけて防ぐと、衝撃波が発生して木剣を叩き折る。同時に俺の腕にはジーンと痺れが走り、思わず顔を歪めてしまった。

 拳をガードするためのガントレットを装備しているとはいえ、親父の馬鹿力は子供の体では完全に受け止めきれない。

 しかも、まだ全力じゃないってんだからね。

 剣を折られても余裕の笑みを浮かべているのが証拠だろう。

「ガハハッ! いい一撃だ! さすがは俺の息子!」

 豪快に笑う親父は俺の頭をクシャクシャと荒々しく撫でるが、こちらとしては実力差を痛感する毎日なのであまり嬉しさは感じない。

 ……あと一年だ。

 あと一年で俺はどこまで強くなれるのか。

 若干の焦りを感じ始めた俺は、現段階での実力を知るために家族へある提案をした。

「魔物を狩ってみたい?」

 俺の提案を聞いた母様は露骨に嫌そうな顔を見せる。

「ダメよ。何言ってるの。レオンはまだ十一歳でしょう?」

「坊ちゃんが怪我したらシオンは悲しいです」

 母様とシオンは完全なる「ダメ」を突き付けてきた。

「ん~。俺は良いと思うけどなぁ。俺もレオンと同じ歳の頃は魔物狩りで金を稼いでたし」

 唯一賛成してくれるのは親父だ。

 ただ、親父も「まずは俺が狩るところを見せるのはどう?」と魔物退治の見学をさせる段階からの提案だったが。

「何言ってるのよ! 貴方が子供だった頃とは状況が違うの!」

「そうですよ。貧乏で野生児だった貴方とは違うんです。坊ちゃんはすごく可愛くて賢い子供なんです」

 ただまぁ、親父の提案も大反対されるんだけどね。

 それにしても酷い言われようだ。

 親父、同情するぜ。

「しかし、どうするかな……」

 自室に戻った俺は窓の外を見ながら考える。

 窓の外に見える大きな山を見つめていると、頭の中にはどんどん焦りが降り積もっていくのだ。

 来年に向けて少しでも確信めいたものが欲しい。現状の実力を把握し、弱い魔物なら倒せるという自信が欲しい。

 でも、家族は未来を知らないので反対する。

 これがもどかしく、気持ち悪い。

「……よし」

 結果、俺は「こっそり魔物狩りに行く」という選択肢を選んだ。

 子供らしく勝手にしてしまおう。バレたら我慢できない子供を演じてしまおう、と。


 ◇ ◇


 俺は「外を走って来る」と言って屋敷を出て、そのまま山へ直行した。

 街のすぐ近くにある山には魔物が棲みついていることで有名だ。

 そして、領主である親父の狩場でもある。

 親父は領主としての仕事と並行しながら、元傭兵団の仲間達と街に近付く魔物を狩るという仕事を毎日して――いや、ストレス発散か?

 とにかく、大人達は街に魔物が入り込まないよう警戒しているし、家に帰ってきた親父の土産話にもなっている。

 そういった話を聞くことで、既に生息する魔物の種類はリサーチ済み。

 主に生息しているのは、国の定めた危険度ランク――Dランクと称される『ブラウンウルフ』という狼に似た魔物と『ワイルドボア』と呼ばれる猪に似た魔物の二種類だ。

 二種類とも同じDランクと定められた魔物ではあるが、強さ的にはワイルドボアの方が強い。

 ワイルドボアは幼体から体が大きく成長すると体長二メートルにもなる。

 巨体と鋭利な牙を用いて他の魔物を蹴散らしてしまう魔物だが、山に生息している数はそう多くないという。

 となると、主に戦うのはブラウンウルフの方だろう。

 山の麓に足を踏み入れた俺もブラウンウルフを相手にしようと考えながら、道なき道を進んでいく。

 すると、早速見つかった。

「グルル……」

 俺を威嚇する一頭のブラウンウルフ。

 茶の毛並み、鋭利な牙。人間に対して問答無用に殺意を向ける目。

 大きさは大型犬くらいだろうか?

 殺意剥き出しな目を見つめると、嫌でも「逃がしてはくれないんだな」とわかる。

 いや、最初から逃げる気もないのだが。

「…………」

 俺は革のガントレットをはめた両腕を持ち上げてファイティングポーズを取る。

「……さぁ、来い。俺を喰い殺してみろ」

 初めて魔物と対峙して、怖いか怖くないかで言えば怖い。

 前世でも街に熊が下りて来ただけで大騒ぎしてたんだ。それ以上に殺意剥き出しな生き物と対峙するってなると、内に広がる恐怖心は想像の倍以上である。

 だが、それ以上に俺は「死にたくない」と思った。

 ここで負けるわけにもいかないし、一年後に起きる悲劇を回避しなきゃいけない。

 俺は「死にたくない」んだ。

 俺は死亡フラグを折るためにトレーニングを積んできたんだ。

 だから、ブラウンウルフ如きで躓いてられない。

「グウォンッ!」

 唸り声を上げていたブラウンウルフが俺に向かって飛び掛かって来た!

 大口を開けて、人間の肉など簡単に食いちぎってしまう鋭利な牙をこれでもかと見せつけて。

「―――ッ!」

 しかし、見える。

 俺の目にはブラウンウルフの動きが完全に見えている。

 シオンより遅い。

 合わせられる。

 俺は腰を捻りながら拳を溜め、同時に魔法陣を構築して拳に貼り付けた。

「シッ!!」

 飛び込んで来たブラウンウルフに合わせ、その殺人的な頭部めがけて拳を振るう。

 俺の拳はブラウンウルフの横顔に突き刺さる。

 拳には骨を粉砕する感触が伝わってきて、同時に接触時に起動する衝撃波が追加ダメージを与える。

 バヂン。

 結果、ブラウンウルフの頭部は砕け散り、紫色の血が盛大に飛散する。

 残ったのは硬い岩を粉砕したような感触と首から先が無くなったブラウンウルフの死体。

「…………」

 ブラウンウルフの返り血を頬に浴びながらも、俺はその場に立ち尽くしてしまった。

 今、俺の中にある感情は何だろう?

 トレーニングの効果が通用したという歓喜? 初めて生き物を殺したことへの恐怖? 自分の実力が想像以上だったという驚き?

 なんにせよ、浴びた返り血を拭く気にもなれない。

 脚が震える。

 ガクガクと震える脚をさすりながら、座り込まないように我慢する。

「ふふ……」

 漏れた笑みの意味は自分でも分からなかった。

 ――ガサ

 草が揺れる音がした。

 音の方向に顔を向けると、そこにはもう一頭のブラウンウルフがいた。

「グルル……」

 仲間の死体を見たからか、先ほどの個体以上に敵意を向けてくる。

「いいぜ。やろうや」

 丁度良い、と俺は再びファイティングポーズを取るも――俺の前に現れたのは一頭だけじゃなく。

「全部で九頭?」

 近くにいた群れが仇討ちにきたか? それとも単に血の匂いに惹かれてきただけ?

「いや、丁度良い」

 自分でも不思議なくらい、今の俺は興奮している。高揚している。

 自分がどこまで通用するのか、九頭のブラウンウルフを殺せるのか試してみたい。

 これを乗り切れば、きっと俺は大本命のオークも殺せるようになるはずだから。

「やってやろうじゃん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...