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4 いざ、冒険者活動
しおりを挟むサトシとツトムは少年魔法使いの放った魔法に圧倒され、遂にアリウェルランドの凄さを認めた。
それからの2人は早かった。
本当に異世界の街で暮しているような気分が味わえて、街の外では魔獣と戦う事で『冒険者』の気分を味わえる。
まずはこのテーマパークのウリをとことん楽しんでやってやろう、とフィールドを探索し始めたのだ。
「おい、サトシ! スライム! スライムいた!」
アリウェルランドの壁沿いに少し進んだところで再び地面を跳ねるスライムを見つけた。
透き通った体の中に赤く光る核が見える。
「よし、き、斬ってみる!」
サトシは腰に差した鞘から剣を抜く。刀身はゴムのような弾力であると更衣室で確認済みであるが……。
「本当に斬れるのかな?」
ロングソードを中段で構えたサトシはポヨンポヨンと跳ねるスライムへ恐る恐る近づいた。
スライムはサトシに対して敵意は見せていない。
「せい!」
ゆっくり近づいたサトシは剣を勢いよく振り下ろすと「むにょん」と空気の入った浮き輪を叩いたような感触が腕に伝わった。
そのまま強引に腕を下ろすと、刀身はスライムの透明な体内へ侵入していく。
バタバタと暴れ出したスライムは体の一部をサトシに向かって飛び散らせた。
「うおおおお!?」
突然の粘液攻撃に仰け反りながら絶叫を上げるサトシ。
胸に装着した革製の胸当てと半袖Tシャツの裾から露出した腕に粘液が付着する。
スライムの攻撃方法といえば酸性の粘液を飛ばして相手を溶かす、といったタイプがポピュラーだろうか。
飛んで来た粘液も酸性でサトシの肌が溶けて……いない。
「おい、大丈夫か?」
「あ、ああ……」
セーフティが掛かっている、と冒険者ギルドで説明された通り、サトシは腕に粘液が付着しても痛みは感じなかった。
勿論、肌が溶けるような事もない。
仰け反って尻餅をついた時の衝撃の方が痛かったくらいだ。
付着した粘液の感触は……大人の店で使用するローションみたいな感じだろうか。
「驚きすぎだろ」
ツトムは尻餅をつくほど驚いたサトシに笑いながら手を差し出した。
「いや、マジでビックリするって……」
暴れるタイミングやスライムの挙動は思ったよりもリアル感があった。
まさに生きているスライムが外敵から攻撃を受けた時に起こす反応、と言えば良いだろうか。
「剣で斬ったけど消えないな」
少年魔法使いが魔法を当てたら、当たったスライムは光になって消えていた。しかし、サトシが斬ったスライムは未だポヨンポヨンと跳ねている。
「体内の核を壊さないとダメなんじゃないか? そういう設定、よく聞くだろ?」
そう言ったツトムは木の枝のような杖――スティックをスライムに向ける。
「そういえば、魔法は何が使えるんだ? ……ファイアーボール!」
ツトムは最初に目にした魔法を使ってみようと思ったようだ。
少年魔法使いがやっていた方法と同じように、ファイアーボールと魔法の名を口にする。
すると、スティックの先端から炎の玉が生成されてスライムへ飛んでいった。
炎の玉はスライムに着弾すると相手を炎で包み込む。先ほど見た光景と同じようにスライムは光になって消えてしまった。
「すげえ! おい、サトシ! 見たか!? 魔法だ! 俺は魔法を撃ったぞ!?」
初めて魔法を撃ったツトムは両手を上げて、童心に戻ったかのような喜びようを見せた。
いや、案外現代日本人が初めて魔法を撃ったらツトムのように喜ぶ者がほとんどかもしれない。
なんたって、現代日本には魔法なんてモノは存在しない。ファンタジーな物語の中だけ、空想の産物。
それを使えるとなれば、喜ぶのも無理はないだろう。
「すげえ~……。間近で見ると本当に炎が飛んでるみたいだった」
親友が発動した魔法を見たサトシも驚きと感動を覚えたようだ。
まさに異世界ファンタジー。2人は確かに異世界で生活しているような体験をしている。
「よし! 俺も倒すぞ!」
ツトムに負けてられない、とサトシは再び剣を持ってスライムを探し始めた。
きょろきょろと周囲を見渡していると――飛び跳ねている1匹を見つけた。
「うおお!」
サトシは剣を構え、走る。
「俺は、今、戦士だぁー!」
見つけたスライムに近づき、剣を振り下ろした。今度は体内にある核をしっかりと狙って。
振り下ろした剣の先が核に触れて、そのまま核を切り裂く。
すると、スライムは一瞬だけ破裂するような姿を見せて光になった。
「やったー!」
田中サトシ 27歳、初のスライム討伐である。
剣を持ったまま両手を上げて子供のように喜ぶと、近くにいた冒険者がクスクスと笑っていたり、笑顔で拍手を送ってくれた。
「初討伐? おめでとう!」
サトシを見ていた1組のパーティ――4人組の大学生らしき男達の中にいた1人が笑顔でサムズアップしながらサトシを祝福してくれる。
「あはは……ど、どうも」
子供のように喜んでしまった自分が少し恥ずかしくなり、サトシは顔を赤らめながら控えめに反応を返した。
祝福してくれた4人組が手を上げて去って行くとサトシも手を上げて挨拶して彼等を見送った。
「テンション上がりすぎでしょ」
サトシを見ていた他の冒険者が再び歩き出したタイミングを見計らってツトムがサトシの背中へ声を掛けた。
彼は先ほどまでの自分を棚に上げ、サトシをからかうような声音と共に笑顔を浮かべて。
「うるせー! いや、でも、楽しい!」
しかし、お互いに浮かぶ表情は笑顔だ。それもとびきりの笑顔。
スライムを倒したサトシは異世界の住人、本物の冒険者になった気分を味わえたようだ。
子供の頃、友達と一緒にやったゴッコ遊びの本格的なバージョンと言うべきか。
「アニメにもなったフルダイブ型のMMOってこんな感じなのかな?」
「あー、確かに」
ゴッコ遊び、もしくはフルダイブ型MMOのリアル版。ゲームの世界には入っていないが、ゲームやファンタジー小説の世界がリアル世界に投影・反映されたような……表現の仕方は色々あるだろう。
どのような技術で再現しているのかは全く不明。現代日本で物語通りの本物ファンタジー体験などあり得ない。
作り物だと分かっていても、体験している自分達は『リアル』だと感じてしまう。
平原を跋扈するスライムの姿も、スライムを斬った感触も、魔法が発動する瞬間も。
ゲームじゃない。ハリボテじゃない。
全てがリアル。
『俺達は今、異世界にいます! 冒険者しています! アリウェルランドは異世界です!』
アリウェルランドをレビューするブログ記事、取材にやって来たTVクルー、ネットに動画を投稿している者達が口を揃えて言うように。
2人は確かに異世界で、冒険者として活動しているのだ。
「よっしゃ! もっと倒そうぜ!」
「おう!」
2人は平原を駆け出した。クエスト達成まで残り3匹となるスライムを求めて。
太陽の光降り注ぐ青空の下、人生をつまらないと言い合っていた27歳の男達が満面の笑みを浮かべて駆け出した。
「はぁ、はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
しかし、100メートル程度走ったところで無念の息切れである。
当然だ。異世界のような世界、ゲームのようなシステムではあるものの、体験している本人達はあくまでも生身である。
「楽しいが、疲れるぜ……」
「運動不足を痛感する……」
東京都内の駅にある長い階段を歩いて登るだけで疲れ果ててしまうような運動不足な男達なのである。
異世界転生・転移系物語のようにいくら走っても疲れない、めちゃくちゃ早く走れるようなチートを神様から与えられたわけじゃない。
生身だ。27歳、平凡な社会人である。
肩で息をする2人は平原で座り込んで、息が整うまで周囲にいる他の冒険者に目を向けた。
「1人で冒険者している人もいるんだな」
「うん。装備が俺達みたいな簡単な物とは違うし、本登録している人達じゃないかな?」
門を抜け、フィールドにやって来る人々は家族連れや友達同士といったパーティを組んでいる人がほとんどだ。
彼等はサトシ達と同じように革の胸当てや黒いローブを着ている事から自分達と同じく仮登録の冒険者であると推測できる。
しかし、仮登録者に混じって1人でフィールドにやって来たと思われる冒険者――本登録者であろうソロ冒険者は周辺にいる冒険者と身に着けている物が違う。
彼等が身に着けている防具は銀色の鎧であったり、赤色のローブに金の模様が刺繍されたローブなど……仮登録で与えられた簡素な防具ではなく、趣向を凝らしたオリジナリティ溢れる防具を身に着けていた。
勿論、中には本登録者同士でパーティを組んでいる者も見られるが。
「本登録して稼いだポイントで防具や武器を交換してるんじゃない?」
サトシの推測にツトムは「なるほど」と頷いた。
「そういう人は奥に向かうね」
ソロ冒険者を目で追って行くとサトシ達のいる門の入り口に近い場所から、周囲にいるスライムを無視してどんどん奥へと向かって行く。
「奥に行くにつれて強い魔獣がいるとか?」
サトシが簡単な推測を口にする。
「あり得るな。でもよ、奥ってどこまであるんだ?」
サトシの推測はありきたりだったが、それを聞いたツトムも素直に肯定できる『定番さ』がどこかあった。
2人は揃ってフィールドの先を見る。青々と生い茂る草が広がって、一番奥には山も見えるが……。
「行き止まりってどこ?」
「壁っぽいのも見えないよな?」
ここはあくまでも日本に存在するテーマパークである。敷地という概念が決まってるはずだ。
平原の先、ずっとずっと先までアリウェルランドの敷地……なんて事、あるわけない。
どこかで行き止まり、敷地の端っこがあるはずだ。しかし、そういった物を示す壁なんてモノは見えない。
「まったく、どうなってんのやら……」
サトシは考えるのを止めた。
ここはそういう場所なんだ、と無理矢理理解するように首を振って。答えの出ぬ問題を考えるより、そう割り切る事にしたようだ。
「まぁ良いじゃん。楽しけりゃよ」
ツトムも同じようだ。楽しければ仕組みなどどうでも良い。
この異世界のような世界観とゲームのようなシステムを組み合わせて構築された場所に対し、そう感じる者は多いんじゃないだろうか。
「よっし、続きやろうぜ!」
「うん」
ツトムの言葉に頷いたサトシ。2人は立ち上がってスライム狩りを再開した。
「あ、見つけた!」
目標を見つけては駆け出し、剣で斬って、魔法を撃って。時より他の冒険者と獲物がかち合うが、日本人特有の譲り合い精神を見せる。
クエスト目標の5匹討伐を終えても2人はフィールドから出なかった。
まだ異世界を堪能したい。まだ冒険者でいたい。そんな気持ちが溢れているかのような笑顔を浮かべる。
「今度は2匹同時だ! サトシ、お前が特攻隊長になれ!」
「はは! 任せて!」
たまにスライムの反撃を受けて体にベトベトした粘液が付着した。
別の個体は粘液を飛ばすのではなく、自らの体で体当たりをしてくるヤツもいた。
逃げ出したスライムを追いかければ運動不足の体が悲鳴を上げる。
それでも2人は少年時代に戻ったかのようにフィールドを駆け回って冒険者活動を続けた。
疲れ、驚き、笑って。
理由は単純だ。
楽しいから。
ぷるぷるした硬いゼリー状の魔獣を倒す行為は、疲れ果てた現代社会人である2人にとって良い『ストレス発散』になっているようだ。
少々暴力的なストレス発散法であるが、魔獣だから倒して良い。そう免罪符を掲げられた設定なのだから仕方がない。
何たって彼等は冒険者。現代社会に生きる、社畜としての自分を解き放った冒険者なのだから。
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