異世界体験テーマパーク:アリウェルランド

とうもろこし

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13 スキル取得とお買い物

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 サトシ達4人が本登録を行い、本格的にパーティとして活動してから2度目の来園。

 10月に入ってからは雨の日が多くなってきた最近の天気事情であるが、通算で3回目の来園となった本日の空は爽やかな晴れの日となっていた。

 平日、仕事をこなしながら4人は休日の来園日に向けて「次は何をしよう」と相談しつつ、この日も開園時間に合わせてアリウェルランドへやって来た。

 もはや慣れた動きで入場門を潜った4人は冒険者の恰好に着替え、その後すぐに行ったのはサトシとツトムのスキル取得だった。

 先週の休日に稼いだポイントは1000ポイント。

 フィールドに出てひたすら魔獣を倒した結果だが、クエストを受けていれば2倍以上は稼げていたかもしれない。

 効率的にはナンセンスだが、4人は楽しめていたのでこれで正解なのだろう。

「スキル取得は魔法ギルドだっけ?」

 魔法使いの恰好をしたツトムがアリウェルランド内の地図を広げながら道を探るサトシに問う。

「うん。北西エリアにあるみたい」

 サトシが「あっちだね」と指差しながら目的地に続く道を示した。 

「なんでスキル取得が魔法ギルドなんだろうね?」

 咲奈は最初、スキル取得を行うのが魔法ギルドだと知った時に首を傾げていた。

 冒険者に関わる事は全て冒険者ギルドで行うのだと思っていたようで疑問を口にする。

「冒険者ギルド混んでるから分けたんじゃないかな?」

 まひろの出した答えは現実的なモノだった。

 確かに冒険者ギルドは毎日、いつ訪れても列が出来ている。

 A・B館と2軒あるが、それでも凄い混みようだ。そこにスキル取得をしようと冒険者が殺到したらとんでもない事になるだろう。

「確かにあり得そうだな」

 いつもの混み具合を想像したのか、ツトムは苦笑いを浮かべた。

「あれだね」

 先導していたサトシの目線の先には2階建てレンガ造りで、やや横長な建物があった。

 1階と2階の間には『魔法ギルド』という文字が掘られた木製看板が掲げられていた。

 ドアは冒険者ギルドのスイングドアと違い、しっかりとした金属製のドアがはめられていて、中からはギコギコと木を切断するような音が微かに聞こえる。

 ドアノブを捻って中に入ると内装的には冒険者ギルドと似ていて、3つの窓口があった。

 ただ、キャスト全員が魔法使いのローブを着ていたり、ケープを羽織っていたりと制服が違う点が最初に目につく。

 他にも観葉植物が建物の隅に置かれたり、奥には大量の本棚とカフェにあるようなテーブルと椅子が置かれた休憩スペースらしき場所が見えた。

 開園直後という事もあるが、冒険者ギルドと比べて建物内にいる来園者は少ない。

 といっても、冒険者の装いをした来園者が10人はいるのだが。

「こんにちは。魔法ギルドへようそこいらっしゃいました」

 4人が建物に入ってすぐ、メガネを掛けた金髪ロングヘアーの女性エルフが声を掛けてきた。

 黒いケープを羽織った彼女は片手に本を抱えていており、メガネを掛けているの相まって魔法使い特有の知的な雰囲気が溢れていた。

「スキルの取得をしようと思いまして」

 先頭にいたサトシがそう言うと、エルフ女性はニコリと笑って1番と番号の描かれた窓口に手を向ける。

「かしこまりました。1番窓口でお伺い致しますね」

 タイミングよく1番窓口が開いた事もあって、4人はすぐに案内された。
 
 1番窓口を担当していたのは銀色のロングヘアーを後ろで束ねたエルフ。エルフはモノクルを装着してニコリと笑う。

「スキルの取得ですね。準備致しますので少々お待ちを」

 声は男性だった。むしろ、彼の声を聴かなければ男性だという事もわからないくらいの美形である。

 そんな男性エルフは窓口の下からタイプライターのような機械を取り出して窓口の机に置いた。

「では、順番にやっていきましょう。まずはどなたがなさいますか?」

「じゃあ、俺が」

 一瞬、サトシとツトムは顔を見合わせたが先頭にいたサトシが先陣を切る。

 冒険者の腕輪を外してくれ、と男性エルフに言われて腕輪を渡すと、男性エルフは機械に腕輪を縦にした状態で全体の半分ほど挿入した。

「戦士の方ですね。では、こちらをどうぞ」

 腕輪を機械に挿入した事で内部のデータが閲覧できたのだろうか。男性エルフは机の下からファイルを取り出すと取得できるスキルが書かれた一覧表をサトシに見せた。

 サトシは『戦士スキル一覧表』と題名のあるリストを見やる。

 1番上から取得に必要なポイント数が少ない順にスキル名が並び、簡単なスキル説明が記載されていた。

「この生命力増加をお願いします」

 サトシは迷う事無くすぐにスキル名を口にした。冒険者入門書にあった戦士スキル一覧表の中から既に取得したいスキルを決めていたようだ。

 生命力増加のスキルは基礎生命力に200の生命力を付与するパッシブスキルである。

 必要なポイント数は1000ポイントで、これでも一番必要ポイント数が少ないスキルだ。

 スキル取得に必要なポイント数は総じて高い。

 例として鉄の剣をポイントで購入・交換しようとすると必要ポイント数は300程度。

 鉄の剣よりもグレードが1つ上がった銀の剣に必要なポイントは700程度。

 加えて、一番必要ポイント数が少ない『生命力増加』は追加取得する事で最大レベル10まで上昇させる事が可能である。

 タンク役を極めるならば基本的かつ必須なスキルであり、上位の者はレベル10になるまでポイントを注ぎ込むそうで。

 しかしながらレベルが上昇していく度に必要なポイント数は増加していく仕組みである。

 そう考えると装備品を揃えただけでは『最強』になれないという意味がよくわかるだろうか。

「承知しました」

 サトシがスキル名を告げると男性エルフは機械と一体化したキーボードらしき物をカチカチと指で叩く。

 すると、挿入されていた冒険者の腕輪が金色に発光しながらクルクルとゆっくり回転し始めた。 

 発光・回転しながら冒険者の腕輪に謎の文字が刻まれていくが、男性エルフが作業を終了すると発光現象と文字は消え失せて、いつもの通りの腕輪と変わりないままであった。

「取得完了です。どうぞ、ステータス画面でご確認を」

 腕輪を渡され、サトシは装着してから画面を確認。するとスキル一覧の中に『生命力増加』の文字があって総生命力数もアップしていた。

「はい。大丈夫です」

「ご利用ありがとうございました。では、次の方どうぞ」

 順番にスキルを取得していく。
 
 ツトムは攻撃魔法としてウィンドカッターを取得。

 こちらもサトシと同じく一番必要ポイント数が少ないもので、初級魔法にカテゴライズされる魔法である。

「2人もスキル取得ですか?」

 ツトムのスキル取得が終わると男性エルフは後ろにいた咲奈とまひろに問う。

「あの、私は魔法装備を購入しに来たのですが」

「左様でございますか。あちらの販売ブースで購入できますよ」

 まひろの答えに対し、男性エルフは並んでいる窓口の左奥にある休憩スペースの傍に用意された物販エリアのような場所を手で指し示した。

「ありがとうございます」

 スキル取得を終えて、4人は魔法ギルド内の販売ブースへ移動する。

 販売ブースとされた場所はショッピングモールやデパート内にあるブランドメーカーの売り場と表現すれば良いだろうか。

 スペース的には狭いが、並べられたガラスケースの中には装備品が置かれていて装備品に紐付けされたタグには必要ポイント数が記載されていた。

 壁にはトルソーでディスプレイされた魔法使い用のローブや杖なども展示されている。

「ありました」

 まひろの目当ては目に見た者の生命力をオーラで可視化するメガネである。

 こういった魔法的な効果が付与された装備品――魔法装備と呼ばれる類の物は冒険者ギルドの景品にはラインナップされていない。

 その手のプロが作る、といった設定になっているようで専門店に出向かなければ入手できないようで。

 まひろが購入しようとしている生命力オーラ可視化のメガネも、魔法使いが専門知識と技術を駆使して作り出した『魔導具』という扱いである。

 この魔導具にも値札のタグがあり、記載されていたのは1000クオーツ。

 クォーツとはアリウェルランド特有の通貨単位であるが、1クオーツ = 冒険者活動で得られたポイントの1ポイントと等価である。

 対し、日本円をクオーツに換金する際は1クオーツ10円である。

 スライム1匹討伐に対して得られるポイントは5クオーツ。日本円にして50円相当。

 アリウェルランド内で購入できる飲料――ポーションが10クオーツ。100円相当でスライム2匹分。

 そう考えると冒険者活動で遊んだついでに、と考える方が何かと美味しいかもしれない。

 このレートを見る限り、日本円を換金するよりも冒険者活動でポイントを稼ぐ事をお勧めする、アリウェルランド側の思惑が反映されているのだろうか。

 話が少し逸れてしまったが、魔導具もスキル同様に景品交換できる装備品と違って少々割高と言えるだろうか。

 ただ、ベテラン冒険者の多くは魔導具や魔法を付与された装備品で身を固めているようで、上を目指すのであればやはり多くのポイントが必要になるだろう。

「こんにちは。こちらの商品をお求めですか?」

 まひろが目的の魔導具を見つけると販売ブースを担当していた女性魔族のキャストが近寄って声を掛けてきた。

「こちらは黒と赤の2色をご用意しております」

 魔族の女性はガラスケースから商品を取り出し、黒と赤のメガネ両方をケースの上に置いてから鏡を用意するとまひろに試着を勧めた。 

 勧められたまひろは実際にメガネをかけてみる。伊達メガネで度は入っていないようだ。

 普段からメガネをかけている人はどうするんだ? とツトムが疑問を口にすると魔族の女性は隣にあったコンタクトレンズタイプもあると言った。

「黒は神田さんのイメージ通りだけど、赤も似合ってるね」

 試着するまひろに対し、サトシは笑顔でそれぞれの色に対して感想を述べる。

 どこか恥ずかしそうに頬を赤くしながら縮こまるまひろだったが、確かに黒も赤も両方似合っていた。 

 黒は大人しいイメージのあるまひろにピッタリだ。だが、赤もまひろの見た目に反してギャップを感じる。

「赤の方が良いんじゃない? 田中さんもそう思うよね?」

「うん。赤色も似合ってて可愛いと思うよ」

 咲奈の問いに意見を添えて同意するサトシ。彼の表情には自然な笑顔があって、きっと本心から言っているのだろうと読み取れる。

「じゃ、じゃあ……。赤にしようかな」

 少し照れながらまひろは赤色のメガネを選んだ。

 彼女は大人しいイメージとあるように、普段から服装も咲奈と比べて控えめだ。

 赤色のメガネを選んだのは彼女にとって大胆で殻を破るような選択だったのだろう。

 その証拠に勧めた咲奈は少し驚きの混じった意外なモノを見たような顔をしていたが、すぐに笑顔に変わる。

「かしこまりました。今、新しい物を持って来ますね」

 ガラスケースの中にあったのはあくまでもディスプレイ用だったようだ。

 魔族女性が販売ブースの奥へ引っ込むと小さな箱に入った新しい赤色のメガネを持って来た。

「掛けていかれますか?」

 はい、とまひろが頷くと魔族の女性は箱からメガネを取り出してまひろに手渡した。

「冒険者の腕輪と購入した装備品は紐付けされます。万が一破損しましても半年間は無償で新しい物に交換させて頂きますので――」

 個人が取得した装備品は冒険者の腕輪と紐付けされて個人データに書き加えられるようだ。

 破損時のアフターサービスもバッチリであるが、メガネは装備品扱いなのでアリウェルランド外に持ち出しは禁止と説明された。

「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

 販売ブースで魔導具の購入を終えた4人は魔法ギルドを後にする。

「じゃあ、次は樋口さんのクロスボウを買いに行こうか」

 次に目指すは武器屋である。

 武器屋はアリウェルランド内に何軒も存在するが、大体はカテゴリ別に店舗が決まっているようだ。

 特に既製品を販売している武器屋の多くは北西エリアに固まっている。

 別のエリアにある武器屋は上位の冒険者が利用する素材持ち込み専用の武器屋――というよりは、鍛冶屋だろうか。

 サトシ達が初来園時に見たメインストリート沿いにある店舗も鍛冶屋と称するところが多い。

 こちらはオーダーメイド品を依頼する店舗であり、生産ジョブである鍛冶師を楽しむ来園者が向かう場所である。

「あった、あれだ」

 魔法ギルドを後にした4人は再びマップを見ながら店舗を探すサトシを先頭にして北西エリアを進むと目的地を見つけた。

 1階建てレンガ造りの店舗でドアの傍に武器屋を表す小さな看板が掲げられた場所をサトシが指差した。

 入店すると中には多くの武器が飾ってあった。その多くはシーフやハンターが使用する武器である。

 様々な素材で作られた短剣や大きさや造りに違いのある弓、ボウガンなどが用意されているが全て量産された既製品。

 初心者から中級者までの客層をターゲットとした店のようだ。

「いらっしゃい」

 入店してすぐ声を掛けて来たのは背が低く、銀色の短髪で褐色肌の女性――ドワーフ族の女性である。

 彼女は店のカウンター越しにサトシ達の姿を見ていた。

「すいません。初心者用のボウガンを探しているんです」

 サトシが店員であるドワーフの女性に咲奈が使うと手で示しながら問う。

 彼の問いに対し、ドワーフの女性は黙って頷きながら咲奈の姿を下から上まで目で追った。

「なるほど。少し待って」

 店の奥に引っ込んだドワーフの女性は奥でゴソゴソと物音を立てると、やや小さめのボウガンを持ってやって来た。

「簡素な造りだけど女性でも扱いやすいやつだよ。価格は1000クオーツ。買うならボルトはサービスしてあげる」  

 カウンターの上に置かれたボウガンはほぼ木製。固定する部分や弦の留め具にだけ金属を使用して、彼女の言う通りオモチャのような簡素な造りだった。

 ただ、使われている材質がほぼ木製な事もあって軽く、コンパクトなので持ち運びも簡単であると説明された。

 比較の対象として金属製のボウガンを用意すると咲奈に持ってみるよう勧めると、確かに軽くて持ちやすいと咲奈は評価を口にする。

「ボルトの装着も簡単。連射機構は無いけど、このガイドに引っ掛けて後ろに伸ばすだけ」

 軽くてコンパクトであるメリットはあるが、性能としても初心者向けだ。

 連射機構は無し。威力も高価な既製品と違って劣る。

 ただ、恐ろしく強い魔獣を相手にしないかけだしの冒険者には丁度良いサブウェポンになりそうだった。

「試射させてあげる」

 そう言うとドワーフの女性は店の奥に4人を案内し、店舗の奥側にあった小さな庭へ向かう。

 木製の案山子に向かって撃ってみろ、と咲奈は言う通りに試射する。

 狙いを定め、トリガーを引く。バスン、とボルトが案山子に当たった。

「弓より楽だし、軽くて良いわね!」

 その扱い易さに咲奈は目を輝かせた。

 これでようやくシーフの利点を全て活かす事が出来ると喜びの声を上げる。

 ボルトのリロードも問題無く出来て、軽い本体は女性でも慣れれば片手で撃てそうだ。

 咲奈が牽制、遠距離用の武器として使うには十分だと判断を下す。  

「これ買います!」

「まいどあり」

 サービスとしてボルト20本入りの矢筒をセットにして、咲奈は念願のクロスボウをゲットした。

「ボルトは消耗品だから、足りなくなったら買いに来て」

 ドワーフの女性は咲奈に対してしっかり店の営業もすると4人を見送った。

「これで準備は整ったね」

 スキル取得と買い物を終えた4人はフィールドに出る準備を終えた。

「早く試したいわね!」

 いよいよ新スキルと新装備を携えて変化を感じられる時間が来た。

 特に念願のクロスボウを手に入れた咲奈はワクワクが止まらないようだ。

「今回はクエスト受けていかね? ポイントも稼げるしさ」

「そうですね。装備にスキルに……ポイントいっぱい使いますからね」

 ツトムの提案にまひろが苦笑いを浮かべる。

 確かにポイントは重要だ、とサトシと咲奈も頷いた。

「じゃあ、冒険者ギルド寄って行こうか」

 4人は冒険者ギルドに寄っていくつかクエストを受注すると、西門を潜ってフィールドへ向かうのであった。
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