帝国特務隊 : クビになった帝国軍人と道具扱いの第四皇女

とうもろこし

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1章

interval :星空に沈む豚

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 ロイドに捕まり、逮捕されたシャターンは帝城の地下にある牢屋へとぶち込まれていた。

 彼を逮捕・連行したのは次期皇帝である第一皇子アイザック・ローベルグの私兵団。

 軍人の中でも精鋭と評価された者達のみを選りすぐり、忠誠心を問うテストに合格した者達。

 簡単に言えば第一皇子であるアイザックのケツを喜んで舐める事が出来る最強集団といったところか。

 彼等は第一皇子に仇名す者を容赦しない。アイザックから直々に「処刑許可」を得ている彼等は、シャターンが下手なマネをすればすぐに魔導銃の引き金を引いただろう。

 そんな噂の集団に連行されたシャターンも今回ばかりは黙るしかなかった。お得意の賄賂も狂っているほどの忠誠心を持つ者達に効くわけがないからだ。

 ただ、チャンスが無いとも言えない。

 逮捕された以上、尋問はされるだろう。そこで黙秘を貫き、法務部の『友人』に弁護してもらえばいい。

 その為に今まで賄賂を渡してきたのだから。じゃなければ、その『友人』も道連れになると本人も分かっていよう。

「クソッ! 何で私が!」

 薄暗く、湿っぽい空間。以前に牢屋へ入れられた別の者が漏らしたであろう尿の臭いが漂う。

 簡易ベッドすらもなく、石ブロックと鉄格子だけで作られた空間。

 伯爵位を持ち、輝かしい貴族の一員となった自分には相応しくない。1秒でも早くこんな場所からオサラバしたいと苛立ちを募らせる。

「ここから出たら……。まずはあの男を始末してやる」

 牢屋に続く扉の外で番をする軍人に聞こえぬよう、小声で恨み言を漏らし始めた。

「あの男を始末したら、次はあの女だ! たっぷりと可愛がって、最後は苦しめて殺してやるッ!」

 ややヒートアップしてきた独り言を気にする事もなく、シャターンの脳裏にはアリッサの姿が映し出されていた。

「お飾りの分際で……。ここを出たらまずは侯爵に会わねば……。残りの商品も早急に……」

 ブツブツと彼の独り言は続く。

 シャターンが漏らした独り言から察するに、ここからすぐに出れると思っているのだろう。

 法務部と憲兵隊、2つの組織とズブズブの関係にあるシャターンは逮捕とは無縁の存在だと自分でも思っているはずだ。

 なんたってロイドのような邪魔者を陥れる為にわざと逮捕されて釈放されるというシナリオですら実行できるのだから。

 司法組織を使って好き勝手出来るのだから逮捕なんてされるはずがない。何をしても許される。犯罪に関する法律は自分に適応されない。

 だが、ロイドによる2度目の追撃は想定外だったようだ。アリッサと第一皇子の私兵団の件も。

 ロイドをクビにしただけではなく、すぐに殺しておかなかったのが悔やまれる、とばかりにシャターンは奥歯を噛み締めた。

 解雇した後にホームレスになった彼を見つけて嘲笑ってやろうと思っていたようだが、まさか第四皇女に拾われているとは思うまい。
 
「ああッ! 腹が立つッ! なんでこの私が――」

 と言いかけたところで、シャターンの口は彼の背後から伸びた革手袋をはめた手に塞がれる。

「んんんッ!?」

 叫ぼうとするも声は出ない。しっかりと口を塞がれ、厚手の革手袋が漏れた声を殺した。

 塞がれた口を解こうと藻掻くシャターン。だが、背後から伸びた2本目の手には屈曲した刃を持つナイフ――カランビットナイフと呼ばれる形のナイフが握られていた。

 牢の外にある壁に取り付けられた室内灯の光を反射させるナイフの刃を見て、シャターンの顔には焦りが浮かぶ。

「んーッ!? んーッ!!」

 塞がれ続ける口。ドアの先にいるであろう軍人に助けを求めるが、シャターンが必死に叫ぶも届かない。

 牢屋の中にはシャターン1人だけだったはずなのに。一体、彼の口を塞ぐ人物はどこから現れたのだろうか。

「シィー……」

 振り返る事ができず、顔は確認できないがシャターンの耳元で囁かれた声は男のものだった。

 死にたくないと手足をバタつかせるシャターン。バタバタと暴れる手足、必死に体を捻じって拘束から抜け出そうとするが彼の力ではどうにもできない。

 そして、遂に――ナイフの先がシャターンの体に当たった。刃が当てられたのは丁度、心臓の中心。

 男は一気に突き立てるのではなく、ゆっくりと刃を差し込んでいく。

 ズブ、ズブ、ズブ、と時間を掛けて沈んでいく刃。刺した箇所からシャターンの血がじわりと滲み出て、次第に溢れ出していく。

「シィー……」

 背後からシャターンの耳元に囁く男の声はまるで眠りの中へ誘うように。

 事実、シャターンは心臓にナイフを刺されているにも拘らず、顔には苦痛の表情が無かった。

 バタつかせていたシャターンの手足がゆっくりと動きを止めていく。とろん、と瞼が落ちてきて眠りに抗う小さな子供のような表情を浮かべていた。

 虚ろになっていくシャターンの瞳には死に際の闇と星のように光る室内灯の灯り、2つが混じり合って見えているのだろう。

 まるで綺麗な星が輝く夜空を見上げているような、幻想的な景色に違いない。

「それは救いだよ」

 男の声はシャターンが今見ている物を知っているかのように囁く。

 それから数秒後、シャターンの動きが完全に停止した。男は体からナイフを抜くと、牢屋の中には再び静寂が訪れる。 

 背後から伸びていた2本の腕はゆっくりと彼の体を床に寝かせ、床には零れ出る血が少しずつじんわりと広がっていく。

 影に立っているせいで、シャターンを見下ろす男の顔は見えない。ただ、男の風貌は――黒い上下のスーツに白いYシャツ。灰色のネクタイに黒いコート。それと、スーツと揃いの黒いハットを被っていた。

 黒い革手袋をはめた男は、自分の服を軽く叩いて汚れを落とすような仕草を見せる。

 その後、その場でパチンと指を一度だけ鳴らした。

 鳴らした直後、男の姿は闇に吸い込まれるように消え、再び牢屋の中にはシャターン1人きり。

 先ほどまでの下品極まりない独り言は聞こえない。

 翌日なって彼の死体が発見され、その報告はアリッサにも届けられるのであった。
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