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2章
35 介入者
しおりを挟む戦闘用魔導義手を装着する獣人はロイドに向かって赤いレーザーを放ったが、ロイドは真横に飛び込むと地面を転がりながら受け身を取った。
弾速は速いが撃ち出す際に掌の赤い球体がピカッと強い光を放つ。それが合図となるので躱す事自体は簡単であった。
獣人の男も承知の上か、レーザーによる追撃はしない。代わりに片膝を地面についてマグナムを構えるロイドへ向かって駆け出した。
「アホウがよッ!」
真っ直ぐ突っ込んで来るならマグナムで迎撃すれば良い。なんとも簡単な話であるが、そうもいかないのが人の人生である。
獣人はローブの中にあったもう左手でベルトのナイフホルスターからナイフを取り出すとロイドに向かって投擲した。
トリガーを引くよりも早く投げられてしまってはロイドは躱すしかない。だが、ただ避けるだけじゃない。
ロイドは傍に落ちていたやや大きめの石を拾い、低い体勢のまま前へ飛び出す。投擲されたナイフに石を投げて防ぐといった超攻撃的な避け方をしてみせた。
となると、向かって来る獣人との距離が詰まる。
相手は金属の手を握り締めてパンチを繰り出し、ロイドは至近距離でパンチを躱す。躱し終えるとお互いに攻守が入れ替わり、次はロイドがパンチを放つ番。
何度かの格闘戦を行い、獣人はロイドのパンチを避けると左手をナイフホルスターに伸ばす。一瞬だけ間合いが離れるとナイフを放り投げた。
ロイドがナイフを避ける前から距離を詰め始め、金属の腕を構えて振るう。ロイドはナイフを避けた直後で体の反応が間に合わない。
「チッ」
辛うじて握っていたマグナムの腹でパンチを受け止めると、すかさず左手で銃口を掴んで押し負けまいと足に力を入れた。
ガチガチ、と金属同士が押し付けられる音を発しながら至近距離で睨み合う2人。
2人の自力は拮抗しており、どちらも押し合いで負ける事はなかった。
しかし、次の先手を取ったのはロイド。マグナムを持った腕を押し上げるようにして、獣人のパンチを上に弾いた。
その瞬間、相手の腹に向かって蹴りを繰り出した。後手となった獣人は空いている片手をロイドの足に添えるようにして、上体を横に逸らしながら蹴りをいなす。
獣人はロイドの足首に添えた手で彼の足を掴もうとするが、今度はロイドがそうはさせない。
「いい加減にしやがれッ!」
足を掴ませまいと至近距離でマグナムを横向きにしたまま発射する。ロイドとしてはこの選択肢しかなかったが、相手も銃口を認識した瞬間に魔弾の直撃を避けようと大きく飛び退くしか選択肢はない。
一度目のやり取りとしてはイーブンか。お互いにどちらも退かず、そして攻撃的なやり取りであった。
「ロイドさん!」
距離を取り合ったロイドと獣人の間にアリッサの声が割り込む。顔を向ければ、アリッサは道の端っこにあった木箱の裏に隠れており、残り2人の獣人がローラと戦闘を行っていた。
1人は既に薬を飲んだのか、両腕が大きく膨れ上がって体毛に覆われた異形の姿に。
もう1人は変身した獣人の後ろから支援するように魔導拳銃を放つ。
変身した獣人が繰り出すパンチをクルリと回転するように避け、今度は放たれた魔弾を身を屈めて避ける。
背後から再び叩きつけるように出されたパンチを低い体勢のまま横跳びで避け、魔導拳銃を構える相手を牽制するべくクナイを投げる。
「やっぱ人間じゃねえんじゃねえか?」
ヒュウ、と口笛を鳴らしながらローラの動きを追うロイド。先ほどまで戦っていた獣人を横目でチラリと見ると、彼もまた驚愕するような表情を浮かべていた。
どうやらローラの動きは元魔導機士団員にとっても驚愕に値するようだ。
「言ってる場合ですか! どうにかして下さいよ!」
「分かってるっつーのッ!」
アリッサがツッコミを入れると、ロイドは変身した獣人へマグナムの銃口を向けた。
「させん」
が、ロイドと対峙していた元魔導機士団の獣人が猛スピードで向かって来る。ロイドにマグナムを撃たせまいとしたようだが……。
「知ってるよ」
マグナムの向きを変え、向かって来る獣人へ向けて放つ。
赤い弾が発射されたが、相手もロイドがトリガーを引く瞬間を見ていたのだろう。獣人は地面にベッタリとくっつくくらい身を低くして躱すと、両手と足を使って飛ぶように再加速する。
「取ったッ!」
低い体勢から繰り出されるパンチ。狙いはロイドの顎。
「取らねえよッ!」
が、予測していたロイドは体を横に捻じって躱す。最小の動きで躱した瞬間、ロイドは相手の足を払った。
不意に足を払われた獣人はパンチした際の勢いもあって前のめりに倒れ込み、ゴロゴロと地面を転がりながら受け身を取る。
転がって受け身を取りながら体の向きを変えるが――彼の目の前には赤熱した金属製の物体が飛んで来ていた。
それはロイドのマグナム用カートリッジである。相手を転ばした瞬間、ロイドはリリースボタンを押しながらマグナムを縦にして、カートリッジを排出させる。
高温になっているカートリッジが地面に落ちる前に、ロイドはそれを蹴って相手に飛ばしたのだ。
「悪いね。足癖が悪いのは西部出身者の十八番だ」
ニィと口角を吊り上げながらロイドは慣れた手つきで新しいカートリッジを装填。本体を振るようにしてジャキンと音を鳴らしながらカートリッジ差し込み口を本体に戻した。
「ぐっ!?」
アッツアツのカートリッジが獣人の顔にぶち当たると、ほんの一瞬だけ隙が出来る。
だが、それで十分。ロイドと元魔導機士の力量は拮抗していたのか。否だ。
ロイドの方が上手だった。相手が咄嗟に瞑ってしまった瞼を開くと、もう目の前にはマグナムの弾が迫っていた。
このままでは頭部に着弾して即死する。そう考えたのか、獣人は悪あがきとして横に飛んで避けようとした。
が、弾速の速いマグナムの弾は避けきれず。頭部被弾の即死は免れたものの、右肩に直撃して魔導具化した腕が千切れ飛んだ。
「ぐああああッ!?」
肩が撃ち抜かれ、腕が千切れ飛んだ事で大量の血がボタボタと地面に落ちる。
「ぐ、うう、うううッ!」
忌々しい。邪魔をしやがって。そう言いたいのか、苦悶の表情を浮かべる獣人はロイドを睨みつける。
だが、ロイドは獣人を見ていなかった。足払いが成功した時点でロイドと獣人の格付けは終わっているのだ。主な武装である義手が千切れた時点で獣人はロイドに勝てやしない。
故に向けられた顔と銃口の先にあったのはローラが戦っている変身した獣人。
今まさにローラの背中へパンチを繰り出した変身済みの獣人へ狙いを定めると、
「飛べ! メイドッ!」
ロイドはローラに向かって指示を叫んだ。彼の意図に気付いたローラは素直に真上へ飛ぶ。
瞬間、ロイドの構えたマグナムから赤い弾が飛び出して変身した獣人の胴体にぶち当たる。ワーウルフと同様に上半身と下半身が分かれて地面に転がった。
「…………」
真上に飛んだローラもそのまま着地はしない。空中で縦に体を回転させるとスカートの中からクナイが3本飛び出した。
飛び出したクナイの行先は魔導拳銃を構えた獣人である。咄嗟に反応できなかった獣人は肩、腕、顔にクナイが突き刺さる。
「ぎゃああああッ!?」
即死とはならなかったが、これで獣人の3人は無力化できた。
「どういう原理でスカートから刃物を飛ばしているんだ?」
「メイドですので」
着地したローラにロイドが質問するが、答えにはなっていなかった。
「……ロイドさんも異常じゃない?」
一方で一部始終を見ていたアリッサもロイドに対しての感想を呟くが、ロイドの耳には届いていなかった。
代わりに、ローラが近寄って「お怪我はございませんか」といつもの質問を行う。
「さて……あ?」
お前らの目的と所属はどこか、そう問おうとしたロイドは元魔導機士の獣人に顔を向けると彼は被弾した肩に注射器のような物を刺していた。
「フゥー……。フゥー……。お前ら……!」
どうやら変身する為の薬ではなかったようだが、肩から流れていた大量の出血が止まっていた。
それどころか、獣人は立ち上がってロイドを睨みつける。あれだけ大量の血を流したにも拘らず、瀕死でないというのは驚きしかない。
「これで終わりではないッ! 我々は必ず悪の国から皆を解放させるのだ……ッ!」
苦しそうに息をしながら獣人はそう叫ぶように言った。すると、彼の背後にあった狭い路地から誰かが走って来る音が聞こえる。
「大丈夫か!?」
なんと追加で仲間の獣人が5人ほど登場した。
5人の獣人は小瓶を取り出して薬を飲み込む。すると、やはり体を痙攣させた後に変身する。
「クソッタレめ……」
それぞれ違ったフォルムに変身した獣人は荒い息や鼻息を吐き出しながらロイドに狙いを付けたようだ。
両足を巨大化させた獣人がロイドに向かって奇声混じりの雄叫びをあげた。
ロイドがマグナムを構え、相手を排除しようとした瞬間――変身した獣人の真上から白い何かが落ちて来た。
「あへへえぇ~」
「あ?」
気の抜けるようなイカれた声を聞いたロイドの声が漏れ、白い物体を認識した瞬間に顔が引き攣った。
アヘアヘ言いながら変身した獣人の頭部に剣をぶっ刺したのは教会で解体ショーを開催していたアンヘルであった。
「ヒヒッ! 死んじゃえ」
頭部に剣をぶっ刺したアンヘルの表情が激変する。完全にキマった顔でニタニタと笑いながら愛用である魔導剣のトリガースイッチを握り込んだ。
回転刃が起動して変身した獣人の頭部を縦に引き裂く。引き裂いた頭部から大量の血が噴出し、アンヘルはそれを顔から浴びた。
殺害した獣人から飛び降り、獣人が地面に沈むと彼は次の獲物達に顔と体を向けた。
唇付近に付着した血をベロリと舐め取り「どれにぃしよぉ~?」などと品定め。この場にいる誰もが状況を一瞬理解できなかっただろう。
「君にしよぉ」
残り4人の変身獣人から1人に狙いを定め、アンヘルは両手に持った魔導剣を起動しながら獣人達へと突っ込んで行った。
「教会……?」
ロイドがそう零すと、背後から気配を感じ取る。振り返れば長い水色の美しい髪を持った若いシスターが立っていた。
「ロイドさん。教会でシスター・マリアがお待ちになっておりますわ」
そう告げると、若いシスターはモーニングスターを手に持ちながらニコリと笑う。
その笑みはまるで聖母のようであるが、手に持っているモーニングスターには血と肉片がベッタリと付着していた。
「どういう事だ?」
ロイドが問うとシスターは笑みを崩さずに答える。
「第四皇女殿下が仰っていたではありませんか。相手が悪魔であれば、私達が祓うようにと」
確かにアリッサはそう言ったが。それはロイド達が情報を提供してからの話ではなかったのか。
だが、シスターはロイドの問いを察したのか獣人と戦うアンヘルに向かって歩きながら言った。
「全部、教会に行けば話して下さると思いますよ。シスター・マリアはお優しいので」
コツコツ、と履いているヒールの音を鳴らしながらロイドの横を通り過ぎた。
「イヒヒッ! 今、どんな気持ちだよォ~? ねぇ、ねぇ~?」
「あらあら。アンヘル? それではいけませんよ? 殺す時は苦しみを与えないようにと神も仰っておりますわ」
変身した獣人の四肢を解体するアンヘルにシスターは、頬に手を添えながら困り果てているような声音で注意する。
だが、次の瞬間には握っていたモーニングスターで瀕死の獣人の頭部を叩き潰した。
教会の異常性が分かる1コマだろう。ロイドが関わりたくないと言うのも頷ける。
「ロイドさん! ロイドさん!」
チョイチョイ、と手招きしながらロイドを小声で呼ぶアリッサ。
「その魔導義手、回収して下さい! 証拠にしますから!」
小声で叫んだアリッサの言う通り、ロイドは義手を回収して彼女に近寄る。
「持ち主は逃げたな」
アンヘルが1人目を殺した時にはもう元魔導機士の姿はなかった。
恐らくは彼がリーダーなのだろう。アジトかどこかへ逃げて再起を狙うかもしれない。
「どちらにせよ、教会に行きましょう。話を聞かないと」
「ああ」
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