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14話「プロポーズ」
しおりを挟む――ミハエル・オーベルト視点――
「先に伝えておきますね。
今日付けで、私とベルンハルト様の婚約は正式に破棄されました。
もちろんベルンハルト様の有責で」
「それは、昨日僕が余計なことを言ってしまったからでしょうか……?」
どうしよう!
王族と高位貴族の婚約が僕のせいで壊れてしまった!
「ミハエル様の行動は私とベルンハルト様の婚約の破棄には、全く関係ありません。
原因は全てベルンハルト様にあります」
レーア様がきっぱりと言い切った。
「ベルンハルト様が浮気をした挙げ句、虚偽の罪をでっち上げ、公衆の面前で私を断罪し、婚約破棄すると言ったから、私とベルンハルト様の婚約が破棄されたのです」
そうだったのか。
「ついでに申しますと、ベルンハルト様は王位継承権を剥奪されました。
私があの方を、王子殿下ではなく名前で呼んでいるのはそのためです。
誤解なさらないでくださいね」
レア様は口角を上げ、軽やかな口調でそう言った。
「えっ? 第一王子殿下の王位継承権が剥奪されたんですか?」
「私とミハエル様の未来にはなんの関わりのない人間です。
あの方がどうなろうと、どうでもいいですし、興味もありません。
この話はここで終わりにしましょう。
それより私とミハエル様の未来についてもっと話したいわ」
「えっ、あっ……はい」
レーア様ににっこりほほ笑まれてしまうと嫌だとは言えない。
王位継承権を剥奪されるとか、大事だと思うんだけどな。
レーア様にはどうでもいいことなんだ。
「私は今まで婚約者を守るように言われ育ちました。
だから誰かに守ってもらったのは昨日が初めてなんです。
皆が公衆の面前で第一王子に非難される私を、見て見ぬふりをしました。
先生も、友人も、生徒会の仲間も、誰一人私をかばってくれませんでした。
私はあのとき寂しかったのです。
そんなとき、ミハエル様が颯爽と私の前に現れて、第一王子から守って下さった。
私はあのとき、とても嬉しかったのですよ。
昨日のミハエル様はとても勇敢で、かっこよかったですわ」
レーア様に褒められた、僕は今日死んでもいい!
そうかあのときレーア様は、誰にも助けてもらえず悲しんでおられたのか。
勇気を振り絞って助けてよかった!
「あ、あの時は必死で……」
「ご謙遜なさらないで。
昨日のミハエル様はとっってもかっこよかったですわ」
レーア様に褒められ、僕の頬が赤く染まる。
「その後、気を失ったミハエル様を私が担いで保健室に運びましたのよ」
「へっ……!!」
まさか気絶した後、レーア様にそのようなご迷惑をかけていたとは……!
「すみませんでした!」
僕は立ち上がり、頭を下げた。
「気になさらないでください。
私のために戦ってくれた方を、私が介抱するのは当然のことです」
レーア様に座るように言われ、僕は着席した。
レーア様が僕を担いで保健室に運んだのか。
レーア様は見かけによらず力持ちなんだな。
「私を天使と間違えて、涙ながらに男爵領の救済を訴えるミハエル様は、とても可愛いらしかったですわ」
レーア様がニコニコとほほ笑む。
好きな人と天使を間違えて告白して、泣きながら領地の救済をお願いしたなんて恥ずかしすぎる!
お願いですからレーア様の記憶から、昨日の出来事を消してください!!
「ミハエル様、ここからが本題です」
レーア様が真剣な目をされる。
「はい」
僕は背筋を正して、レーア様に向き合った。
「第一王子から私をかばった時の勇敢なミハエル様も、
保健室で泣きながら領地の救済を願う優しいミハエル様も、
どちらも大好きです。
ミハエル・オーベルト様、私と結婚してください!!」
「はっ、はいっ!?」
結婚ってあの結婚?
男女が一つ屋根の下に住んで、同じ部屋を使い、同じベッドで寝て、夜はその……ゴニョゴニョするあの結婚??
「やりましたね、お嬢様!
オーベルト男爵から了承の返事がもらえました!
私チェイ・ハーゼは、オーベルト男爵が『はい』と返事をするのを、しっかりとこの耳で聞きましたよ!
録音機にもしっかりと録音してあります!
言質は完璧にとりました!」
ガゼボの影から女性が現れた。
この人の顔には見覚えがある、確か学園でレーア様と一緒にいた人だ。
それよりも先ほど僕が言った「はい」は、了承するという意味ではないのだが……!
「よかったわ、ミハエル様から了承のお返事をいただいて。
断られたらどうしようと私、ドキドキしていたの」
「麗しいお嬢様からのプロポーズを、断る男などおりません!」
レーア様とチェイさんが、盛り上がっている。
い、いまさら先ほど僕が言った「はい」は了承の意味ではない……とは言えない。
レーア様と結婚できたら嬉しい。
だがレーア様は公爵家のご令嬢で、僕はしがない田舎の男爵で、レーア様のことは大好きだけど身分が釣り合わない。
「花嫁衣裳は、フランツ・クラウゼに頼みたいんだけど」
「すぐに予約を入れますね。
他の予約をキャンセルさせてでも、お嬢様の婚礼衣裳を仕立てさせます」
どんどん話が進んでいくでいく……!
もしかして、フランツ・クラウゼってあのフランツ・クラウゼ??
一年先まで予約でいっぱいの超人気デザイナーのフランツ・クラウゼ!?
「レーア様、チェイさん。ちょっと、待ってください。
あの僕の話も聞いてほしいのですが……」
「オーベルト男爵、一度了承の返事をしておきながら断るわけではないですよね?
お嬢様を糠喜びさせてから、どん底に突き落とすなんて、どこかのアホ王子よりたちが悪いですね」
チェイさんが懐からナイフを取り出した。
この人はやばい人だと僕の本能が告げる!
絶対に怒らせてはいけないタイプの人間だ!
「やめてチェイ!
ミハエル様に刃物を向けてはだめよ!」
「しかしお嬢様、オーベルト男爵はお嬢様を喜ばせてから、絶望に突き落としたのですよ」
「私が一人で舞い上がってしまっただけだわ。
ミハエル様は了承の意味で『はい』と言ったわけではないのかもしれません」
「そうなのですか! オーベルト男爵?」
チェイさんが鬼の形相で僕を睨む。
怖い……!
「チェイ、ミハエル様を睨んではだめよ」
「すみません、お嬢様」
レーア様に注意されてチェイさんはおとなしくなった。
「ミハエル様」
レーア様が僕の手を取る。
レーア様、僕の手など握ってはいけません……!
レーア様の手にばい菌がついてしまいます!
誰か医務室に行って消毒液を持ってきて!
「婚姻の了承を得たと思い込み、勝手に舞いがってしまって申し訳ありません」
「いえ、あの……僕は」
レーア様が僕に謝罪してくださった。
レーア様が謝ることなんて一つもないのに。
「ミハエル様は魅力的な方ですもの。
第一王子に婚約破棄されて、傷物になった私など眼中にありませんよね」
レーア様が悲しげに眉を下げる。
どうしよう!?
レーア様を悲しませてしまった!
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