21 / 22
21話「マクベス・イルクとの再会」侯爵令息ざまぁ
しおりを挟む
――ミハエル・オーベルト・視点――
僕とレーア様の前に現れたのは、イルク侯爵家の長男マクベスだった。
マクベスは学生時代レーアに恥をかかされたことを根に持っていると、以前カイテル公爵が教えてくれた。
マクベスはレーア様が元第一王子ベルンハルト様と婚約を破棄したという話を聞き、王族の庇護がなくなったレーアにちょっかいを出しに来たのかもしれない。
僕はレーア様を背に隠し、マクベスの前に立つ。
「カイテル公爵家のレーアだな!
シフ伯爵家の令嬢を階段から突き落とし、第一王子のベルンハルト様に婚約破棄されたそうじゃないか!
そんな悪女が恥ずかしくもなくパーティーに来れたものだ」
マクベスが大声でレーア様を非難した。
マクベスはだいぶ酔いが回っているようだった。
賑わっていたパーティー会場が一瞬で静まり返った。
熱気を持っていたパーティー会場が、今では真冬の湖より寒い。
パーティで騒ぎを起こしたマクベス様に、向けられる視線は真冬の雪山の吹雪のようだ。
パーティ会場に集まった人たちは、カイテル公爵が第一王子がレーア様に婚約破棄を突きつけたことに激怒し、王家を見限ったことを知っている。
カイテル公爵が宰相職を辞任した後、王宮の仕事が滞り、文官は家に帰れないほどの仕事量を背負わされている。
武官は各地に溢れたモンスターの討伐で、何カ月も家に帰っていない。
カイテル公爵は一人で千人分の文官の仕事をこなし、
武官が千人集まっても倒せないモンスターを一人で討伐していた。
エーダー王国が平和であったのは、王家の力ではない。
カイテル公爵家が城内の書類仕事をこなし、王国内のモンスターを間引きし、スタンピードが起きないようにしていたからだ。
今日のパーティーに参加した高位の貴族は、カイテル公爵に頭を下げ、カイテル公爵に宰相職に復帰してもらおうとしていた。
国内でこのことを知らないのはよほど情報に疎い者か、よほどのアホかのどちらかだ。
それなのにマクベスは、カイテル公爵が目に入れても痛くないほど可愛がっている、レーア様を罵倒してしまった。
「酔った勢いで言いました」とか、「酔っていたので覚えてません」という、言い訳は通じない。
マクベスの後ろには、殺気の籠もった目でマクベスを睨んでいるカイテル公爵がいた。
カイテル公爵の近くにいた貴族たちは、巻き添えを避け十歩後ろに下がった。
カイテル公爵の殺気に気づいていないのは、マクベスぐらいだ。
「おい何とか言えよこの凶暴女!
第一王子にフラれて誰にも相手にされなくて寂しいんだろ?
なんなら俺が一夜だけでも相手にしてやろうか?
もっともお前みたいな女と結婚する気はないから、責任は取らないがな。
ぐははははははは!」
マクベスが下品な笑い声を上げる。
会場にいる人々から
「イルク侯爵家のマクベス、あいつは愚かだな」
「カイテル公爵家の令嬢に罵声を浴びせるとは。イルク侯爵家は終わったな」
「イルク侯爵令息の命も今日かぎりか」
と囁いている。
「一曲踊ってやるよ」
と言って、マクベスがレーア様に手を伸ばす。
鬼の形相をしたカイテル公爵が、マクベスの肩を叩こうとしている……。
だが、カイテル侯爵よりも先に僕は動いていた。
マクベスがレーア様に伸ばした手を掴み、捻りあげる。
「ぐあっ! 何をする!
何だお前は!」
「僕はレーア様の婚約者です。
レーア様を侮辱したあなたを許しません。
元第一王子とレーア様との婚約破棄は、元第一王子のベルンハルト様の側に非があったからです。
その証拠にベルンハルト様は、王位継承権を剥奪され、王族を除籍簿され、牢屋に入れられています。
ハンナ・シフ様はレーア様に階段から突き落とされたと虚偽の訴えをしたことにより、伯爵家を除籍され牢屋に入れられています。
レーア様を『悪女』と言ったことを取り消してください。
それから、その後も暴言も聞き捨てなりません。
今すぐ発言を撤回し、レーア様に謝罪してください」
マクベスを真っ直ぐに見据え、毅然とした態度でそう言い放つ。
マクベスは僕に睨まれたじろいでいる。
マクベスはこんなに背が小さくて、ひ弱だっただろうか?
三年前の僕はなぜこんな奴に怯え、言いなりになっていたんだろう?
カイテル公爵と修行した死の荒野に出現したモンスターの方が、遥かに強かった。
「なんだ貴様!
俺はイルク侯爵家の嫡男だぞ!
家名と名前を名乗れ!」
マクベスは顔を真っ赤にしていきりたった。
「オーベルト男爵家の当主ミハエルです」
毅然とした態度でそう言い放つ。
マクベスは、僕がミハエル・オーベルトだと分かり驚いているようだ。
僕に言い返されるとは思っていなかったのだろう。
マクベスが知っているのは、学校でいじめられていた頃の、弱くて小さくてダサい僕だろうから。
「誰かと思えば学園で俺にいじめられてたいなか者の男爵じゃないか!
格上の侯爵家の子息である俺にそんな口を聞いていいと思っているのか?」
マクベスは力で敵わない相手には、身分で脅しをかけるしかないと悟ったのだろう。
「相手が誰であろうと、僕はレーア様を貶め傷つける人間を、許すことはできません。
さあ早くご自身の発言を撤回し、レーア様に謝ってください」
「なんだと男爵の分際で生意気な!
俺が怖くないのか!」
いきりたったマクベスが、顔を真っ赤にして怒鳴る。
「あなたなどちっとも怖くない。
義理の父になる人に比べれば、あなたのような小者、子猫も同然だ」
「なんだとーー!!」
格下の男爵にコケにされたマクベスが額に青筋を浮かべる。
そのとき、
「本当にそうだね。
わしの放つ圧に比べればこんな小者の放つ圧なんて、そよ風も当然。
恐れる理由がないよね」
マクベスの肩をカイテル公爵がポンと叩いた。
「カカカカ……カイテル公爵!」
マクベスは幽霊でも見たかのように怯え、真っ青な顔でブルブル震えている。
マクベスは会場にカイテル公爵が来ていないと思って、レーア様に絡んできたのだろうか?
酔っていたにしても、マクベスの行動は浅はかすぎる。
「お義父様」
「ミハエルくん、わしはまだ『お義父様』呼びを許可した覚えはないよ。
調子に乗らないように」
「すみません」
カイテル公爵に注意され、僕は頭を下げた。
「でも今日は許してあげるよ。
私の可愛い娘を体を張って守ってくれたからね」
カイテル公爵が僕に向かってウインクした。
「カイテル公爵がミハエルのお義父様と呼んだ……??
一体何がどうなっている??」
「先ほどミハエルくんがレーアを婚約者として紹介したよね?
聞いてなかったのかな?
君の頭の中には脳みその代わりに、ぬいぐるみのように綿が詰まっているようだね。
イルク侯爵家のマクベスくん」
カイテル公爵はマクベスをじっと見つめ口角を上げた。
だが公爵の目は全く笑っていなかった。
マクベスはライオンに睨まれたインパラのように、体を小刻みに震わせていた。
「先ほどとは娘に向かって数々の暴言を放ってくれたね。
なんだっけ?
第一王子に婚約破棄された?
誰も相手にしない?
自分が一夜の相手をしてやる?
だが責任は取らない?
だったかな?
ぜーんぶ聞いていたよ」
「はわわわわ!
そっ、それは……!」
マクベスの顔の色は青を通り越して、真っ白だった。
「カイテル公爵!
申し訳ありません!
愚息が閣下にご迷惑をおかけしたでしょうか!」
騒ぎを聞きつけたのか、イルク侯爵がやってきた。
お義母様に貴族名鑑を渡され、貴族の顔と名前を覚えるように言われたので、大概の貴族の顔と名前はしっている。
イルク侯爵はマクベスに駆け寄り、マクベスの頭を掴み無理やり下げさせた。
「痛いです!
父上!
何をするのですか!」
「馬鹿者!
相手はカイテル公爵だ!
もっと頭を深く下げろ!
この国でカイテル公爵に睨まれたら生きていけんぞ!」
「レーア嬢は第一王子に婚約破棄されました。
カイテル公爵家をそんなに恐れる必要はないのではありませんか?」
先ほどまでカイテル公爵を前にぶるぶると震えていたマクベスは、保護者が現れた途端、急に強気になった。
しかもマクベスは、父親であるイルク侯爵に怒られているのか分からないようだ。
「もっと世の中に興味を持ち、世情に明るくなれとあれほど言っただろう!
レーア様をハメようとした元第一王子は、レーア様に婚約破棄され、王位継承権を剥奪され牢屋に入れられたのだ!」
「ええっ!!」
それもさっき僕が説明しました。
酔っているとはいえ、マクベスは何を聞いていたのだろう?
本当に彼の頭の中には綿が詰まっているのかもしれない。
「カイテル公爵とそのご家族が、国中のモンスターを討伐してくださっているから、この国は平和なのだ!」
「そ、そんなすごい人だったのですか……?」
マクベスが血の気の引いた顔で、カイテル公爵を見る。
「頭が高い!
もっと頭を深く下げろ!」
マクベスはイルク侯爵に頭を掴まれ、頭を深く下げさせられた。
「職を辞したあとも各地のモンスターを狩っていたんだけど……。
イルク侯爵領に行くのは止めることにするよ」
イルク侯爵の顔が、真っ青になる。
「閣下。そそそそそ………それだけはご勘弁を!」
「謝ってほしいのはイルク侯爵じゃなくて、マクベスくんの方なんだけど?」
「閣下のおっしゃるとおりです!
マクベス、閣下に謝れ!
土下座して謝れ!!」
マクベスは、イルク侯爵に促されるまま土下座した。
「「申し訳ありませんでした!!」」
イルク侯爵はマクベスと共に土下座して、カイテル公爵に謝罪した。
「見事な土下座だね。
ところで、娘と娘の婿候には謝罪したのかな?」
「カイテル公爵令嬢、オーベルト男爵、先ほどは暴言を吐いてしまい、申し訳ありませんでした!!
発言は撤回します!
お許しください!!」
「カイテル公爵令嬢、オーベルト男爵、息子が失礼なことを言った!
本当にすまなかった!!」
イルク侯爵とマクベスが僕とレーア様に謝罪した。
謝罪は嬉しいが、僕だけの力で謝罪させられなかったことが悔しい。
「謝罪は受け入れよう。
しかしマクベスくんが娘と娘の婿候補を侮辱した罪は、土下座したぐらいでは許せないな」
カイテル公爵がイルク侯爵を睨む。
「マクベスを侯爵家から除籍します!
原型がわからなくなるほどマクベスの顔を殴り、強制労働所送りにします!
ですからどうかお許しください……!」
イルク侯爵は泣きながら、カイテル公爵に訴えた。
「父上!
それはあんまりです!」
マクベスが父親に抗議する。
「煩い!
侯爵領をモンスターの巣窟にしたいのか!
貴様は鮫のいる海に生きたまま投げ込まれなければ、カイテル公爵の恐ろしさがわからないのか!!」
「さ、鮫……!?」
イルク侯爵に怒鳴られ、マクベスはおとなしくなった。
「考えておく。
そうそう言い忘れたけど、二度とわしの娘と娘の婿候補に近づかないでおくれ」
「はい!
絶対に!
神に誓って近づけさせません!」
「イルク侯爵家も終わりだな」
「カイテル公爵を怒らせるなど愚かな奴らだ」
「イルク侯爵家とは今後取引しないことにしよう。こちらまでカイテル公爵に睨まれてはかなわない」
「イルク侯爵は、息子の教育も満足にできなかったようだ」
成り行きを見守っていた貴族たちが、囁いく。
イルク侯爵はマクベスを連れ、逃げるように会場を後にした。
僕とレーア様の前に現れたのは、イルク侯爵家の長男マクベスだった。
マクベスは学生時代レーアに恥をかかされたことを根に持っていると、以前カイテル公爵が教えてくれた。
マクベスはレーア様が元第一王子ベルンハルト様と婚約を破棄したという話を聞き、王族の庇護がなくなったレーアにちょっかいを出しに来たのかもしれない。
僕はレーア様を背に隠し、マクベスの前に立つ。
「カイテル公爵家のレーアだな!
シフ伯爵家の令嬢を階段から突き落とし、第一王子のベルンハルト様に婚約破棄されたそうじゃないか!
そんな悪女が恥ずかしくもなくパーティーに来れたものだ」
マクベスが大声でレーア様を非難した。
マクベスはだいぶ酔いが回っているようだった。
賑わっていたパーティー会場が一瞬で静まり返った。
熱気を持っていたパーティー会場が、今では真冬の湖より寒い。
パーティで騒ぎを起こしたマクベス様に、向けられる視線は真冬の雪山の吹雪のようだ。
パーティ会場に集まった人たちは、カイテル公爵が第一王子がレーア様に婚約破棄を突きつけたことに激怒し、王家を見限ったことを知っている。
カイテル公爵が宰相職を辞任した後、王宮の仕事が滞り、文官は家に帰れないほどの仕事量を背負わされている。
武官は各地に溢れたモンスターの討伐で、何カ月も家に帰っていない。
カイテル公爵は一人で千人分の文官の仕事をこなし、
武官が千人集まっても倒せないモンスターを一人で討伐していた。
エーダー王国が平和であったのは、王家の力ではない。
カイテル公爵家が城内の書類仕事をこなし、王国内のモンスターを間引きし、スタンピードが起きないようにしていたからだ。
今日のパーティーに参加した高位の貴族は、カイテル公爵に頭を下げ、カイテル公爵に宰相職に復帰してもらおうとしていた。
国内でこのことを知らないのはよほど情報に疎い者か、よほどのアホかのどちらかだ。
それなのにマクベスは、カイテル公爵が目に入れても痛くないほど可愛がっている、レーア様を罵倒してしまった。
「酔った勢いで言いました」とか、「酔っていたので覚えてません」という、言い訳は通じない。
マクベスの後ろには、殺気の籠もった目でマクベスを睨んでいるカイテル公爵がいた。
カイテル公爵の近くにいた貴族たちは、巻き添えを避け十歩後ろに下がった。
カイテル公爵の殺気に気づいていないのは、マクベスぐらいだ。
「おい何とか言えよこの凶暴女!
第一王子にフラれて誰にも相手にされなくて寂しいんだろ?
なんなら俺が一夜だけでも相手にしてやろうか?
もっともお前みたいな女と結婚する気はないから、責任は取らないがな。
ぐははははははは!」
マクベスが下品な笑い声を上げる。
会場にいる人々から
「イルク侯爵家のマクベス、あいつは愚かだな」
「カイテル公爵家の令嬢に罵声を浴びせるとは。イルク侯爵家は終わったな」
「イルク侯爵令息の命も今日かぎりか」
と囁いている。
「一曲踊ってやるよ」
と言って、マクベスがレーア様に手を伸ばす。
鬼の形相をしたカイテル公爵が、マクベスの肩を叩こうとしている……。
だが、カイテル侯爵よりも先に僕は動いていた。
マクベスがレーア様に伸ばした手を掴み、捻りあげる。
「ぐあっ! 何をする!
何だお前は!」
「僕はレーア様の婚約者です。
レーア様を侮辱したあなたを許しません。
元第一王子とレーア様との婚約破棄は、元第一王子のベルンハルト様の側に非があったからです。
その証拠にベルンハルト様は、王位継承権を剥奪され、王族を除籍簿され、牢屋に入れられています。
ハンナ・シフ様はレーア様に階段から突き落とされたと虚偽の訴えをしたことにより、伯爵家を除籍され牢屋に入れられています。
レーア様を『悪女』と言ったことを取り消してください。
それから、その後も暴言も聞き捨てなりません。
今すぐ発言を撤回し、レーア様に謝罪してください」
マクベスを真っ直ぐに見据え、毅然とした態度でそう言い放つ。
マクベスは僕に睨まれたじろいでいる。
マクベスはこんなに背が小さくて、ひ弱だっただろうか?
三年前の僕はなぜこんな奴に怯え、言いなりになっていたんだろう?
カイテル公爵と修行した死の荒野に出現したモンスターの方が、遥かに強かった。
「なんだ貴様!
俺はイルク侯爵家の嫡男だぞ!
家名と名前を名乗れ!」
マクベスは顔を真っ赤にしていきりたった。
「オーベルト男爵家の当主ミハエルです」
毅然とした態度でそう言い放つ。
マクベスは、僕がミハエル・オーベルトだと分かり驚いているようだ。
僕に言い返されるとは思っていなかったのだろう。
マクベスが知っているのは、学校でいじめられていた頃の、弱くて小さくてダサい僕だろうから。
「誰かと思えば学園で俺にいじめられてたいなか者の男爵じゃないか!
格上の侯爵家の子息である俺にそんな口を聞いていいと思っているのか?」
マクベスは力で敵わない相手には、身分で脅しをかけるしかないと悟ったのだろう。
「相手が誰であろうと、僕はレーア様を貶め傷つける人間を、許すことはできません。
さあ早くご自身の発言を撤回し、レーア様に謝ってください」
「なんだと男爵の分際で生意気な!
俺が怖くないのか!」
いきりたったマクベスが、顔を真っ赤にして怒鳴る。
「あなたなどちっとも怖くない。
義理の父になる人に比べれば、あなたのような小者、子猫も同然だ」
「なんだとーー!!」
格下の男爵にコケにされたマクベスが額に青筋を浮かべる。
そのとき、
「本当にそうだね。
わしの放つ圧に比べればこんな小者の放つ圧なんて、そよ風も当然。
恐れる理由がないよね」
マクベスの肩をカイテル公爵がポンと叩いた。
「カカカカ……カイテル公爵!」
マクベスは幽霊でも見たかのように怯え、真っ青な顔でブルブル震えている。
マクベスは会場にカイテル公爵が来ていないと思って、レーア様に絡んできたのだろうか?
酔っていたにしても、マクベスの行動は浅はかすぎる。
「お義父様」
「ミハエルくん、わしはまだ『お義父様』呼びを許可した覚えはないよ。
調子に乗らないように」
「すみません」
カイテル公爵に注意され、僕は頭を下げた。
「でも今日は許してあげるよ。
私の可愛い娘を体を張って守ってくれたからね」
カイテル公爵が僕に向かってウインクした。
「カイテル公爵がミハエルのお義父様と呼んだ……??
一体何がどうなっている??」
「先ほどミハエルくんがレーアを婚約者として紹介したよね?
聞いてなかったのかな?
君の頭の中には脳みその代わりに、ぬいぐるみのように綿が詰まっているようだね。
イルク侯爵家のマクベスくん」
カイテル公爵はマクベスをじっと見つめ口角を上げた。
だが公爵の目は全く笑っていなかった。
マクベスはライオンに睨まれたインパラのように、体を小刻みに震わせていた。
「先ほどとは娘に向かって数々の暴言を放ってくれたね。
なんだっけ?
第一王子に婚約破棄された?
誰も相手にしない?
自分が一夜の相手をしてやる?
だが責任は取らない?
だったかな?
ぜーんぶ聞いていたよ」
「はわわわわ!
そっ、それは……!」
マクベスの顔の色は青を通り越して、真っ白だった。
「カイテル公爵!
申し訳ありません!
愚息が閣下にご迷惑をおかけしたでしょうか!」
騒ぎを聞きつけたのか、イルク侯爵がやってきた。
お義母様に貴族名鑑を渡され、貴族の顔と名前を覚えるように言われたので、大概の貴族の顔と名前はしっている。
イルク侯爵はマクベスに駆け寄り、マクベスの頭を掴み無理やり下げさせた。
「痛いです!
父上!
何をするのですか!」
「馬鹿者!
相手はカイテル公爵だ!
もっと頭を深く下げろ!
この国でカイテル公爵に睨まれたら生きていけんぞ!」
「レーア嬢は第一王子に婚約破棄されました。
カイテル公爵家をそんなに恐れる必要はないのではありませんか?」
先ほどまでカイテル公爵を前にぶるぶると震えていたマクベスは、保護者が現れた途端、急に強気になった。
しかもマクベスは、父親であるイルク侯爵に怒られているのか分からないようだ。
「もっと世の中に興味を持ち、世情に明るくなれとあれほど言っただろう!
レーア様をハメようとした元第一王子は、レーア様に婚約破棄され、王位継承権を剥奪され牢屋に入れられたのだ!」
「ええっ!!」
それもさっき僕が説明しました。
酔っているとはいえ、マクベスは何を聞いていたのだろう?
本当に彼の頭の中には綿が詰まっているのかもしれない。
「カイテル公爵とそのご家族が、国中のモンスターを討伐してくださっているから、この国は平和なのだ!」
「そ、そんなすごい人だったのですか……?」
マクベスが血の気の引いた顔で、カイテル公爵を見る。
「頭が高い!
もっと頭を深く下げろ!」
マクベスはイルク侯爵に頭を掴まれ、頭を深く下げさせられた。
「職を辞したあとも各地のモンスターを狩っていたんだけど……。
イルク侯爵領に行くのは止めることにするよ」
イルク侯爵の顔が、真っ青になる。
「閣下。そそそそそ………それだけはご勘弁を!」
「謝ってほしいのはイルク侯爵じゃなくて、マクベスくんの方なんだけど?」
「閣下のおっしゃるとおりです!
マクベス、閣下に謝れ!
土下座して謝れ!!」
マクベスは、イルク侯爵に促されるまま土下座した。
「「申し訳ありませんでした!!」」
イルク侯爵はマクベスと共に土下座して、カイテル公爵に謝罪した。
「見事な土下座だね。
ところで、娘と娘の婿候には謝罪したのかな?」
「カイテル公爵令嬢、オーベルト男爵、先ほどは暴言を吐いてしまい、申し訳ありませんでした!!
発言は撤回します!
お許しください!!」
「カイテル公爵令嬢、オーベルト男爵、息子が失礼なことを言った!
本当にすまなかった!!」
イルク侯爵とマクベスが僕とレーア様に謝罪した。
謝罪は嬉しいが、僕だけの力で謝罪させられなかったことが悔しい。
「謝罪は受け入れよう。
しかしマクベスくんが娘と娘の婿候補を侮辱した罪は、土下座したぐらいでは許せないな」
カイテル公爵がイルク侯爵を睨む。
「マクベスを侯爵家から除籍します!
原型がわからなくなるほどマクベスの顔を殴り、強制労働所送りにします!
ですからどうかお許しください……!」
イルク侯爵は泣きながら、カイテル公爵に訴えた。
「父上!
それはあんまりです!」
マクベスが父親に抗議する。
「煩い!
侯爵領をモンスターの巣窟にしたいのか!
貴様は鮫のいる海に生きたまま投げ込まれなければ、カイテル公爵の恐ろしさがわからないのか!!」
「さ、鮫……!?」
イルク侯爵に怒鳴られ、マクベスはおとなしくなった。
「考えておく。
そうそう言い忘れたけど、二度とわしの娘と娘の婿候補に近づかないでおくれ」
「はい!
絶対に!
神に誓って近づけさせません!」
「イルク侯爵家も終わりだな」
「カイテル公爵を怒らせるなど愚かな奴らだ」
「イルク侯爵家とは今後取引しないことにしよう。こちらまでカイテル公爵に睨まれてはかなわない」
「イルク侯爵は、息子の教育も満足にできなかったようだ」
成り行きを見守っていた貴族たちが、囁いく。
イルク侯爵はマクベスを連れ、逃げるように会場を後にした。
119
あなたにおすすめの小説
「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?
パリパリかぷちーの
恋愛
「失礼いたしますわ」――断罪の広場で令嬢が告げたのは、たった一言の沈黙だった。
侯爵令嬢レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、“涙の聖女”によって悪役とされ、王太子に婚約を破棄され、すべてを失った。だが彼女は泣かない。反論しない。赦しも求めない。ただ静かに、矛盾なき言葉と香りの力で、歪められた真実と制度の綻びに向き合っていく。
「誰にも属さず、誰も裁かず、それでもわたくしは、生きてまいりますわ」
これは、断罪劇という筋書きを拒んだ“悪役令嬢”が、沈黙と香りで“未来”という舞台を歩んだ、静かなる反抗と再生の物語。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、魔法薬の勉強をはじめたら留学先の皇子に求婚されました
楠結衣
恋愛
公爵令嬢のアイリーンは、婚約者である第一王子から婚約破棄を言い渡される。
王子の腕にすがる男爵令嬢への嫌がらせを謝罪するように求められるも、身に覚えのない謝罪はできないと断る。その態度に腹を立てた王子から国外追放を命じられてしまった。
アイリーンは、王子と婚約がなくなったことで諦めていた魔法薬師になる夢を叶えることを決意。
薬草の聖地と呼ばれる薬草大国へ、魔法薬の勉強をするために向う。
魔法薬の勉強をする日々は、とても充実していた。そこで出会ったレオナード王太子の優しくて甘い態度に心惹かれていくアイリーン。
ところが、アイリーンの前に再び第一王子が現れ、アイリーンの心は激しく動揺するのだった。
婚約破棄され、諦めていた魔法薬師の夢に向かって頑張るアイリーンが、彼女を心から愛する優しいドラゴン獣人である王太子と愛を育むハッピーエンドストーリーです。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
始まりはよくある婚約破棄のように
喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」
学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。
ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。
第一章「婚約者編」
第二章「お見合い編(過去)」
第三章「結婚編」
第四章「出産・育児編」
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる