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22話「炊き出しとウキウキ街の散策」
一週間後――
ヴォルフハート王国、城下町の広場――
その日はとてもよく晴れ、六月にしては涼しく、風の心地よい日でした。
今日は城下町で炊き出しをすることになりました。
この一週間、来る日も来る日も、お庭でじゃがいもを育てました。
城下町の人にも、おすそ分けできる量を収穫できました。
王太子殿下から、メイドを五人、兵士を五人貸していただきました。
私もメイド服に身を包み、皆と共に炊き出しをするつもりです。
フェルは離宮でお留守番をしています。
街に来るのは初めてですし、炊き出しに専念したいのです。
フェルを連れてきて、彼が迷子になったら困ります。
なので今日はお留守番してもらいました。
じゃがいも作りが落ち着いたら、フェルと一緒に町の散策をしたいです。
ウィンドウショッピングや、食べ歩きというものを、一度してみたかったんですよね。
問題は、私が一人で街に出ることを王太子殿下が許可してくれるかなんですよね。
そのへんは、上手に相談してみましょう。
◇◇◇◇◇
広場に大きめのテントを設置しました。
細かく刻んだじゃがいも入りのスープを厨房で作り、鍋を広場まで移動しました。
広場でスープを温め直し、町の人に配っています。
街の人達が食事を楽しめるように、テーブルと椅子も設置しました。
王宮から持ってきた炊き出し用の鍋は三つ。
私とクレアさんが担当する鍋。
お城のメイドが担当する鍋。
そして……なぜか炊き出しについてきた王太子殿下が担当する鍋。
彼が怖い顔で睨むので、彼の鍋に並ぶ人は少なく、彼の鍋だけ減っていません。
殿下が民を心配するお気持ちはわかります。
炊き出しは兵士や、メイドに任せて、お城で休んでいても良いと思います。
「王太子殿下は、きっと王太子妃様のことが心配でついてきたんですね」
クレアさんがそう言ってフフッと笑いました。
殿下が私の心配……?
私が粗相をしないか、心配だったのでしょうか?
私は彼に粗忽者だと思われてるんでしょうか?
少なくとも、殿下よりは上手にスープをよそう自信があります。
「お姉さんお城のメイド?
美人だね。
今度デートしない?」
その時、炊き出しに並んでいた男性から声をかけられました。
お母様から聞いたことがあります。
これが俗に言う「ナンパ」というやつですね。
実際に見るのは初めてです。
きちんとした挨拶もなく女性に声をかけるなど……。
クレアさんが美人なので、声をかけたくなる気持ちも分かりますが……。
礼儀をわきまえて欲しいです。
「失礼ですが……」
私が男性に注意しようとした時……。
「これは飢えに苦しむ民を助けるための炊き出しだ! 食事以外が目的なら帰れ!」
いつの間にか私の隣に立っていた王太子殿下が、厳しい口調でそう告げていました。
「しっ、失礼しました……!」
殿下の真紅の瞳に睨まれた男性は、顔を真っ青にして逃げていきました。
「全く……王太子妃を籠絡しようなどと考えるとは、民の風上にも置けぬ輩だ!」
王太子殿下は眉毛を寄せ、不機嫌そうにそう呟きました。
彼は誤解しています。
声をかけられたのは、私ではなくクレアさんなのに……。
「これからこの列には、女性と子供以外並ぶことを禁止する!
男は俺の列に並べ! これは王太子命令だ!」
殿下は鋭い目つきで、私の列に並んでいた男性を睨みつけました。
私の列に並んでいた男性は顔を真っ青にし、殿下の鍋のある列に移動していきました。
殿下はそれだけ言うと、自分の鍋に戻っていきました。
彼は怖い顔をさらにしかめながら、男性達にスープを配っていました。
「王太子殿下の列はスープが余っていました。
よく食べる若い男性を、自分の列に連れて行きたかったんでしょうか?」
「王太子妃様、あれは嫉妬ですよ」
クレアさんが目をニマニマさせながら言いました。
「嫉妬……?」
自分の列の前にほとんど人が並ばなかったから、たくさん人が並んでる私に嫉妬したのでしょうか?
それとも他に嫉妬する理由があったのでしょうか?
王太子殿下の考えはよく分かりません。
◇◇◇◇◇
「王太子妃様、困ったことになりました。
炊き出しに集まった民が予想よりも多く、事前に準備していただけでは足りません」
「まあ、そうなの」
大勢の民に集まって貰えて嬉しいわ。
「追加で鍋を作りたいと思います。
しかし、じゃがいもはあるのですが塩が足りないのです。
塩をお城まで取りに戻ると時間がかかってしまいます。
いかがいたしましょう?」
クレアさんが私に相談に来ました。
お城に塩を取りに戻ったのでは、時間がかかりすぎるのね。
とはいえ味のないものを食べさせるのも、民を待たせるのも、どちらも気の毒だわ。
「クレアさん、この辺に塩を売ってるお店はありますか?」
塩がないなら、現地で調達すればいいんです!
生前、お母様がおっしゃっていました。
街には調味料を売ってるお店があると。
「はい、ここから少し歩きますが雑貨店があります」
「ならそこに買いに行きましょう。
私とクレアさんは塩を買いに行きます。
他の方々は、私たちが戻るまでに味付け以外の調理を進めていてください」
私は調理担当のメイドにそうお願いし、クレアさんと共に雑貨店に向かいました。
というのは口実で、街を歩いてみたかったのです。
お城でお留守番しているフェルには申し訳ないのですが、一足先に城下町を探索してしまいましょう。
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