妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ

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23話「ならず者とヒーロー」



「街ってこのような感じなのですね!
 お店の窓に綺麗な洋服や靴が並んでいます!
 あのお店の前からはコーヒーのいい匂いがします!
 こちらのお店からはトンテンカンテンという音とともに、火花が散っています!」

目当てのお店を見つけ、すぐに帰るつもりでした。

珍しいものがいっぱいで、ドキドキしてつい足を止めてしまいます。

「王太子妃様は街を歩くの初めてですか?」

「はい、結婚が決まるまでずっとお城で過ごしました。
 この国に嫁ぐとき初めて馬車に乗りました。
 そのとき、馬車から街の様子を見たのですが……」

あの時は沿道に沢山の人がいて、お店までよく見えませんでした。

「こうして、自分の足で街を歩くのは初めてです」

お城に帰ったら、街の様子を話してあげましょう。

お母様がまだ独身だった頃、フェルはお母様と共にいろんな街を巡ったそうです。

私よりフェルの方が町には詳しいから、フェルは私の話を聞いても驚かないかもしれません。

でも確実に羨ましがると思います。

お母様が結婚してからはフェルはずっとお城の中にいたから。

次はフェルと一緒に街に行きたいわ。

フェルと一緒に街を歩いたら、きっともっと楽しいわ。

ドン……! という衝撃音と共に何かにぶつかった感触がしました。

考え事をしながら歩いていたので、人にぶつかったみたいです。

私はバランスを崩しましたが、クレアさんに支えられなんとか転ばずにすみました。

前を見ると、人相の悪そうな男性がこちらを睨んでいました。

私がぶつかったのは、大柄で強面の男と、痩せ型で背の低い糸のように細い目をした男でした。

「おいおい、姉ちゃん。
 ぶつかっといて挨拶もなしかい?」

大柄の男が凄みのある声で言いました。

「すみません。
 よそ見をしていたものですから」

「ごめんで済んだら、兵士も牢屋も裁判もいらないっての。
 兄貴の骨が折れたんだ。
 慰謝料払ってもらおうか?」

細目の男が、細い目をさらに細めてそう言って睨んできました。

「ぶつかったぐらいで骨が折れるでしょうか?
 それに、本当に骨が折れたのならまず病院に行くべきです」

私は二人にぶつかって転びそうになったのに、二人はびくともしていませんでした。

彼らがそれほどのダメージを負ったようには見えません。

私がそう返すと、二人組の男は眉間に皺を寄せ不機嫌な顔をしました。

「兄貴の体はデリケートなんだよ。
 ぶつかっただけでも骨が折れんだよ!」

細目の男が険しい表情でそう言いました。

「骨が折れたのなら、悲鳴を上げ、目から涙を溢していても不思議はありません。
 あなたのお兄さんは平気そうな顔をしていますが、本当に骨が折れたのですか?」

おそらくですが、彼はかすり傷ひとつ負っていないのではないでしょうか?

「王太子妃様、こういう輩には関わらない方がいいです!
 わたしがお金を払いますから、この場を立ち去りましょう!」

クレアさんが私の袖をぐいぐいと引っ張りました。

彼女は顔を真っ青にし、震えていました。

私のメイドを怖がらせる人達を許すことはできません。

「大丈夫ですよ、クレアさん。
 民の血税をそのような無駄なことに使うことはできません」

私は彼女を安心させる為に優しい口調でそう伝えました。

「本当に怪我をしたと言うのなら王宮で治療します。
 お金は取りませんからお城まで来てください」

彼らに向き直り、キッと睨みつけました。

王宮にはお医者様がいます。

一応私は王太子妃ですし、私が迷惑をかけた方だといえば無料で診察してもらえますよね?

「うるせえ!
 つべこべ言ってねえで有り金置いてきな!」

細目の男がつばを飛ばしながら凄んできます。

「金が払えないって言うなら、体で払ってもらったっていいんだぜ」

大柄な男が唇を歪ませ、ニヤニヤしながら言いました。

体で払うとは、私達にどのような労働をさせる気なのでしょうか?

「なかなかの上玉じゃねぇか……」

大柄な男が下卑た笑みを浮かべ、私に手を伸ばしました。

男の手が私に触れる前に、彼の手は後ろ手にひねられていました。

「痛でででででっっ……!!」

大柄な男が顔を顰め呻いています。

「貴様らこそ、俺の妻に何をしている!」

男の手をひねり上げたのは、王太子殿下でした。

彼は冷酷な瞳で、二人組の男を睨んでいます。

「あ、兄貴~~!!」

細目の男が、大柄な男を心配しています。

「あの、王太子殿下。
 この方は私とぶつかって怪我をしたそうです。
 今から王宮に連れて行き、治療してもらおうと思います。
 そうですよね?」

私が二人の男に問いかけると、彼らは真っ青な顔で首を横に振りました。

「そうか、お前らの望み通り今すぐ王宮に連れて行ってやろう。
 最もお前たちが行くのは診療室ではなく、地下牢だがな!」

殿下は険しい表情で、冷徹に言い放ちました。

「この二人を拘束し、地下牢に放り込んでおけ!」

「「承知いたしました!」」

殿下の背後には二人の兵士が控えていました。

兵士はあっという間に、二人の男を拘束しました。

「それで、君はこんなところで何をしている?」

殿下は眉根を寄せ、少し不機嫌そうな顔で私を見ました。

「お塩がなくなったので、クレアさんと一緒に買い物に。
 殿下こそどうしてこちらに?」

私とクレアさん、殿下と兵士二人が抜けてしまったのでは、炊き出しは手が足りないのではないでしょうか?

「君の姿が見えないから探しに来た!
 塩ぐらい兵士に買いに行かせろ!
 君は自分が王太子妃だという自覚がないのか!?」

殿下に叱られてしまいました。

王太子妃といっても私はお飾りなので自覚はあまり……。

ですがこちらを睨んでる殿下には、とても言えません。

「すみません。
 街に来るのは初めてだったので、少し散策してみたかったのです」

軽はずみな行動で、周りの人に迷惑をかけてしまいました。

「君は街に来たことがないのか?」

殿下は驚いた顔でこちらを見ています。

「はい、結婚するまでずっと離宮で暮らしていましたから。
 結婚が決まった時、ノーブルグラント王国からヴォルフハート王国まで馬車で移動したとき、初めて外を見ました」

馬車からでは、街の様子はよく分かりませんでした。

「そうだったのか、頭ごなしに叱ってすまなかった……」

殿下が申し訳なさそうに言いました。

彼に謝罪されるとは思いませんでした。

「君はアリアベルタ付きの侍女の、クレアといったな?
 塩が買える店が近いのか?」

「はい、王太子殿下。
 雑貨店は、その角を曲がって少し行った所にあります。
 看板がかけられた大きなお店です」

クレアさんが答えました。

「分かった。
 兵士は男達を連行しながら、クレアを広場まで送れ。
 クレアは広場に着いたら、炊き出しに戻れ」

「承知いたしました、王太子殿下」

「かしこまりました、王太子殿下」

兵士とクレアさんは、そう返事をしました。

兵士はならず者を連行しながら、広場へと戻っていきます。

クレアさんは彼らのあとをついて行きました。

私は、王太子殿下とその場にとり残されてしまいました。

気まずいです。

彼と何を話せば良いのでしょう?

「何をしている。
 行くぞ」

「えっと、どちらに?」

「塩を買いに行くんだろ?」

「ですが、王太子殿下にそのようなことをさせるわけには……」

「王太子妃の君が良くて、俺が駄目ということはないだろう」

彼はそう言って、歩き出しました。

このような場所に一人残されても困るので、私は彼の後をついて行くことにしました。

もしかしたら、彼は私が街が初めてと言ったことを気に留めてくれたかもしれません。

離宮の庭でお会いした時も思ったのですが、彼は見た目よりずっと優しい方なのですね。




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