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25話「王太子、メイド服に興味を持つ」
しおりを挟む「前々から聞きたかったのだが、
君はなぜメイドの服を着ているんだ?」
私が走ってるのに気付いて、彼は少しゆっくり歩いてくれました。
殿下はそういう気遣いができる人なのですね。
「離宮でも着ていたし、今日も着ている。
何か理由があるのか?」
「メイド服ってとっても動きやすいんですよ」
「確かに動きやすいのかもしれない。
だが王太子妃が着るものではないだろう?」
彼は世間体を気にしてるのでしょうか?
形だけでも王太子妃なのだから、それらしい格好をしろと……?
「まさか、他に服を持っていないわけではないのだろう?」
そのまさかなんですよね。
「母の形見のドレスの他には、殿下とお会いする時に着ていた派手なドレスと、ナイトドレスしか持っていません……」
普段使いの、着やすいドレスがあれば良いのですが、そういう服は持ち合わせていないんですよね。
「まさか……!
本当にそれだけしか持っていないのか!?
祖国では普段使いのドレスなどはどうしていたんだ?」
王太子殿下が目を大きく見開いています。
「特にそのようなものは用意されなかったので、母のお古のドレスを手直しして着ていました」
殿下は口をぽかんと開けていました。
「嫁に行く時、ドレスを仕立てたりはしなかったのか?」
「そういうことは特には……。
一応ウェディングドレスは持たせてくれました。
そのドレスも結婚式が終わった後、装飾品と一緒に、メイドが祖国に持ち帰りました」
「王太子妃のウェディングドレスと装飾品をメイドが持ち帰っただと……!?」
よほど驚いたのか、殿下の瞳孔が広がり、口を大きく開け、顔が赤くなっていました。
普通のメイドは、主の結婚式の衣装やアクセサリーを持ち帰ったりはしないんでしょうね。
「では、君は普段どのような服を着ているんだ……?」
「昼間は、この国で用意していただいた農作業用の服かメイド服を着ています。
夜は祖国から持参したナイトドレスを身に着けております」
「なぜそのことを俺に言わなかった?」
殿下は少々ムッとした表情をしていました。
殿下に相談しなかったことに、彼は腹を立てているようです。
「この国は今、深刻な食糧難に見舞われております。
そんな折にドレスが欲しいなどは言えません」
ドレスを仕立てるお金があるなら、他国から少しでも食料を買うべきです。
「た、確かにそうかもしれないが……ドレスの一着や二着くらいなら……」
彼は眉間に皺を寄せ、目が泳いでいました。
「そのような贅沢はいけません。
私のドレスのことなら、気にしなくても大丈夫です。
私は農作業用の服も、メイド服も、とっても気に入っていますから」
「だが……」
「いざとなったら祖国から着てきたゴテゴテしたドレスを売って、素朴な服を買います。
あんなものでも、売ればいくらかにはなるでしょうから」
私がそう言って微笑みましたが、彼はまだ不服そうな顔をしていました。
形だけとはいえ王太子妃である私が、作業着やメイド服を着てるのがよほど気になるようです。
「君が身につけたドレスを売るのは駄目だ!
変態が買って変なことに使ったらどうするつもりだ!?」
「変なこととは……?」
私の質問に、彼は言葉に詰まらせていました。
「いや……だから、その……夜のアレに……」
彼は顔を真っ赤に染め、目を泳がせ、額から汗を流していました。
「夜のアレとは?」
「無垢な顔でそのようなことを尋ねないでくれ!
と、とにかくドレスを売るのは駄目だ!」
「……はい」
そこまで反対されると断りづらいです。
「それからメイド服で出歩くのも駄目だ……!
可愛いし、似合ってるし、そそるものがある……」
そそるもの……とは?
「だが、変な輩に声をかけられたり、絡まれたりもする危険がある!
現に君は今日二回も男に声をかけられている!
炊き出しの時と、塩を買いに行くときだ!」
炊き出しの男性は、私ではなくクレアさんに声をかけたと思います。
街でぶつかった男性の目的は金品で、誰でも良かったのではないかと……。
「やはり王太子妃にふさわしいドレスが必要だ!
…………俺が着飾った君を見たい」
殿下の最後の言葉は小さくてよく聞こえませんでした。
「ドレスのことはこちらでなんとかする。
それまで君は離宮から出ないように」
「はい……」
つまりそれは、ずっと離宮にいろということですね。
炊き出しや、買い物の為に、もっと街に出たかったです。
しばらくは離宮で、じゃがいもを育てましょう。
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