39 / 50
39話「面倒な物を拾ってしまった。粘着質な王太子にご用心」
しおりを挟むミドガルズオルムの住処から王都に戻る途中、リスベルンの王太子と兵士を乗せたカヌーと再び遭遇した。
空気と水を浄化し、食料も分け与えた結果か、彼らは午前中に会った時より元気そうに見えた。
「クヴェルたん、リスベルンの王太子と兵士達がいるよ」
「そうだね」
クヴェルたんは彼らにあまり興味がないらしく、そっけない返事が返ってきた。
「リスベルンの王様から、王太子を助けるように依頼されていたよね??」
「そうだっけ?」
クヴェルたんたら忘れてるのかしら? それとも忘れた振りをしてるの?
「食料も水も分け与えたし、湿原の空気も水も浄化されたし、ほっといても自力で帰れるんじゃない?」
クヴェルたんは庶民には優しいが、王族や兵士には冷たいところがある。
ここからカヌーで帰るとなると、三日から一週間ほどかかるのではないだろうか?
国王も兵士の家族も、彼らが無事に帰還するのを一日千秋の思いで待っていることだろう。
「帰り道は一緒だし、彼らの船を引っ張って行けないかな?」
クヴェルたんは私のお願いに弱い。口ではあれこれと冷たい事を言うが根はお節介だ。ダメ元でお願いしてみよう。
「はぁ……アデリナは本当に人がいいね」
クヴェルたんが折れてくれた。
クヴェルはカヌーに向かってゆっくりと降下していく。ステルスの魔法を使っているので私達の姿は彼らには見えない。
行くときは霧で太陽が隠れてた。ミドガルズオルムを浄化したので霧が晴れ、太陽の光が降り注いでいる。
クヴェルたんの影が湿原に大きな影を作っている。姿が見えなくても勘の良い人間には、誰が助けたのかわかってしまうかもしれない。
クヴェルたんは竜神としてリスベルンに協力する気はないので、まずいかもしれない。
しかし、彼らが見たのはあくまでクヴェルたんの影だ。いくらでも言い訳できる。
私はカヌーに向かってロープを下ろした。ロープでカヌーとカヌーを固定して、纏めて引っ張っていく作戦だ。
リスベルンの王太子が「女神~~! またあなたの声を聞けて光栄です!! なんと神々しくも美しく神秘的な声~~!」空に向かってなにか叫んでいる。
王太子は毒が抜けきらずに幻覚を見ているようだわ。
面倒なので王太子は無視し、話が通じそうな隊長に必要事項を伝えてロープを船に結んで貰った。
片方の端をカヌーに結んび、反対の端をクヴェルたんのしっぽにくくりつけた。
全ての準備が終わるとクヴェルたんは川沿いにゆっくりと飛び始めた。
行きは猛スピードで、真っ直ぐに飛んできた。
帰りはくねくねと曲がる川の上を、カヌーを引きながら進んでいる。
クヴェルの飛ぶスピードは行きの半分くらいだ。
西の空に日が沈みかけてきた。このペースだとリスベルンの王都に着く頃には夜になっているだろう。
しょうがないよね。王太子と兵士を置いて帰るわけにもいかないし。
クヴェルたんには無理を言ってしまったので、後でお礼をしないとね。
早く王宮に帰って、ふかふかのベッドで休みたい。
◇◇◇◇◇◇◇
リスベルン王国、王宮、夜九時。
リスベルン王都近くまで来たので、カヌーを繋いでいたロープを外した。
ここまで来たら王都は目と鼻の先だ。自力で帰れるだろう。
「女神のお手に触れたロープ! 私をこのロープでぐるぐる巻きにして解かないでくれ!!」
暗闇にリスベルンの王太子の声がこだましている。
テオドリック様はミドガルズオルムの毒に犯され、幻覚に犯され深刻な状況のようだわ。一刻も早くお医者様に診てもらった方がいいわね。
彼らを川に残し、私達は一足先に王宮に帰った。
クヴェルたんは屋上に降り立つと、人間(ショタ)の姿に戻った。
今日一日でいろんなことがあったのでクヴェルたんも疲れてるみたい。
国王にミドガルズオルムを浄化したことと、王太子と兵士を王都の近くまで運んだ事を告げ、休むことにした。
詳しいことは明日伝えればいいよね。
国王は安堵の表情を浮かべ、王太子を迎えに行くように兵士に命じていた。
明日は王太子の帰還とミドガルズオルムを浄化したお祝いの宴が開かれるそうだ。
美味しいものが出るといいなぁ。
クヴェルたんにライニゲンダー・シャワーの魔法をかけてもらい、天蓋付きのベッドに潜り込む。
大人の姿に戻ったクヴェルたんと口付けを交わし、クヴェルたんの温もりを感じながら眠った。
447
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
婚約破棄された令嬢は、選ばれる人生をやめました
ふわふわ
恋愛
王太子フィリオンとの婚約を、
「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で破棄された令嬢・セラフィナ。
代わりに選ばれたのは、
庇護されるだけの“愛される女性”ノエリアだった。
失意の中で王国を去ったセラフィナが向かった先は、
冷徹と噂される公爵カルヴァスが治めるシュタインベルク公国。
そこで提示されたのは――
愛も期待もしない「白い結婚」。
感情に振り回されず、
責任だけを共有する関係。
それは、誰かに選ばれる人生を終わらせ、
自分で立つための最適解だった。
一方、セラフィナを失った王国は次第に歪み始める。
彼女が支えていた外交、調整、均衡――
すべてが静かに崩れていく中、
元婚約者たちは“失ってから”その価値に気づいていく。
けれど、もう遅い。
セラフィナは、
騒がず、怒らず、振り返らない。
白い結婚の先で手に入れたのは、
溺愛でも復讐でもない、
何も起きない穏やかな日常。
これは、
婚約破棄から始まるざまぁの物語であり、
同時に――
選ばれる人生をやめ、選び続ける人生を手に入れた女性の物語。
静かで、強くて、揺るがない幸福を、あなたへ。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる