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一章
5話「パンとチーズ」
しおりを挟む「だけどあたしこの世界の地理に疎くて……。
適当な馬車の荷台に隠れて王都を脱出できたのは良かったんだけど、馬車から降りて歩いてたら森に迷い込んちゃって。
森から抜け出せなくてフラフラしてたら崖から落ちちゃったんだよね。
崖から落ちたとき足をくじいたから歩けないし、助けを呼んでも誰も通りかからなくて、そのまま気を失っちゃったんだよね。
いや~~ほんと、コルトが通りかかってくれて助かったよ~~!
コルトはあたしの命の恩人だね!」
リコはそう言って花が綻ぶように笑った。
俺の胸がキュンと音を立てる。
なんだろうこの不思議な感覚は……?
今まで味わったことのない感覚だ。
でもとても心地よい。
☆
俺は彼女に足の怪我が治るまで家に住めばいいよと伝えた。
ここはめったに村の人が来ない。彼女が隠れ住むにはうってつけだ。
本当は彼女にずっとここにいてほしかった。だけどそれは言えなかった。
☆
彼女は足の怪我に響かない範囲で家の手伝いをしてくれた。
「この世界って洗濯機も掃除機もないのね。
食器洗い乾燥機やオーブンレンジもミキサーもない。
今までは洗濯や食事の支度はメイドさんがしてくれたから気づかなかったわ」
彼女の言ってる道具がどんなものなのか全く想像できない。
ここは王都から遠く離れた田舎だからな。
もしかして王都ではどこの家庭にも、そんな便利な道具があるのだろうか?
田舎の生活に嫌気が指して彼女が出ていってしまったらどうしよう……?
「でもここではお肉もチーズも食べられる。
幸せ~~!」
チーズを乗せたパンとお肉入りのスープを、交互に口に運びながら彼女が幸せそうに笑う。
いっぱい稼いで、チーズとお肉をたくさん買えるようになろう。
彼女の笑顔が見たいから。
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