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1巻
1-3
◆
ついに五歳になった。
実際に私が生まれた日付は分からないが、ここは春夏秋冬で誕生日をまとめて祝う。私は、夏生まれとなっている。
「ミリー、五歳おめでとう。プレゼントは、お母さんからはこれね。お父さんからはこれよ」
マリッサからは、青のレースのリボン。ジョーからは、念願の本をプレゼントされた。早速マリッサに、髪にリボンを付けてもらう。我ながら、可愛いんじゃないかな。そして本は……おう、神様イラストが表紙の本だ。
「お父さん、お母さん、ありがとう。大切にするね」
二人に抱きつくと、ジョーが照れ隠しのように、忘れていた五歳児のイベントの話をする。
「ミリーも五歳になったから、教会で魔力を測らないとな」
(あー、そうだった)
ここでは五歳になったら魔力量を測定されるんだった。
多分、気絶訓練を続けた私の現在の魔力はとんでもない量だと思う。平均を知らないので、なんとも言えないけど……ジョーたちの魔法を見る限り、私の魔力は普通の量をはるかに超えていると思われる。
「そうね。いつ行こうかしら? その日は測定に影響するから、体力を使わないようにしないといけないわね。魔力が多いと、王都学園に入学ができるのだけど、貴族にも目を付けられるのよね」
そうなのだ。だから私は検査での魔力量を誤魔化す予定だ。
私の計画では、魔力を枯渇近くまで使ってから検査を受けるつもりだ。
五歳未満で魔法を使う子供は存在しない。そういう前提で検査が実施されるのだ。マリッサの言うようにその日の体力が計測する魔力量に影響するなら、測られる魔力の方を使い切れば、より直接的に結果に影響するはず。
魔力量の測定はそれでいいとして、属性の検査の方は、四大元素の魔法を教え、適性した放てる属性で判断するらしい。そんな曖昧な検査をしているなら、一属性だけの魔法を放ち残りは使えないフリをすれば済みそうだ。
魔法を使い始めて三年。つい最近、ライトの百個の豆電球に包まれて、『ライト百個出せる記念』を独りドヤ顔でやったばかりだ。枯渇寸前のギリギリのラインまで豆電球を出すのは得意なのだ。
学校には興味あるが、貴族問題に費用問題……問題が多そうだ。日本では大学まで行ったし、魔法も改めて習わなくとも、既にそれなりに使える。異世界の学生体験をできないのは残念だけど、お貴族様リスクは避けたい。そんなことを数日考えていたら魔力検査の日になった。
教会へ出発する前に豆電球を百と一個出す。フー。ちょっと気持ちが悪い。今の限界はここだ。
「ミリー、教会に行くわよ。ちゃんと靴を履いて下りてきてね」
今日は、一番いい服と靴を履いてレースのリボンで髪を結っている。
「あら、顔色が悪いわね。大丈夫?」
「そんなことはないよ! 急いで下りて来たからかな?」
「そう? 気分が悪くなったら言うのよ」
そういうマリッサも顔色が悪い。大丈夫かな?
教会は、家から四十分くらい歩いたところにある。今日は体力の使用を最小限にするため、宿の前に乗り合い馬車が呼ばれている。近所の五歳児とその親をまとめて乗せ教会に向かう。同い年のニナも馬車に乗っている。
「ミリーちゃん、おはよう。ドキドキするね」
「そうだね。馬車って結構揺れるんだね。ドキドキハラハラするね」
「もう、違うよ! 魔力検査の話だよ」
御者が出発の合図をすると馬車が動き出すが……揺れる揺れる。乗っている全員が無言で耐えている。ニナは母親にしがみつきながら泣きそうだ。
教会に着いたはいいが、馬車の揺れが激しく、余計に気持ちが悪くなった。マリッサも手拭いを口に当てている。
教会は、ザ・教会って感じの建物で権力と金を象徴していた。中は意外と質素な造りでびっくりしていたら……こちらは平民用のエリアらしい。けっ。平民のほうには金を使わない主義か。案外無駄使いしていない、権力に溺れていないんだなと感心した私の気持ちを返してほしい。
魔力検査は一人ずつやるそうで、順番待ちの間はニナと長椅子に並んで腰を掛ける。
馬車の揺れの影響でまだ少し顔色が悪いニナ。
「ニナちゃん、大丈夫?」
「うん。ニナもう大丈夫だよ。でも、帰りは馬車に乗りたくない」
帰りは歩きだから大丈夫だとニナに教えるとホッとしたような表情をした。
待ち時間は特にやることがないので、トイレに行ったあと、しばらく座りながら教会の中をキョロキョロ見回す。目の前の中央には、大きな像が五体。女神っぽいのが二つと、老人に男神、あと…獣人? 頭から何かが生えてる。ここの神様だろうか?
「あれは、何が生えてるんだろう? 触覚?」
「あれは角ですよ。五つ柱の一柱、神獣バルティ様です」
「神獣なんだ。てっきり獣人か宇宙人かと思った。よく知って……ご、ご存じなのですね」
いつの間にか私の隣に座って質問に答えていた男性は、どう見ても高位の神官だった。しかも見事な金髪だ。上品な身なり、きっと貴族だろう。隣に座っていたニナも怯えて畏まっている。神官のお貴族様がなんで平民用のエリアにいるんだろう。
金髪の神官は、こちらが驚いているのに気づきながらも話を続ける。
「中心にいらっしゃるのは、創造神様。女神の二柱は、豊穣の神クリシア様と愛の神ミヴェッタ様。男神は、戦闘神ヴァイン様。そして、平安の神が先ほどの神獣バルティ様です」
「そうでしたか。丁寧なご説明ありがとう存じます」
立ち上がり神官に感謝の礼をする。神官は、何故か驚いた顔でこちらを凝視。
え? 何か失礼をしたかな……
「君は……」
神官が、近寄って顔に手を伸ばして来る。
「ミリー、ここにいたのね。はっ、これは神官様、失礼しました」
マリッサが神官に急いで頭を下げ非礼を詫びる。
「顔を上げなさい。この子は、あなたの子ですか? 名前はミリーというのですか?」
「はい。私の子です。ミリアナと申します。何か、失礼がありましたでしょうか?」
マリッサもニナと同じく畏まっている。大丈夫。何も失礼はしていない……はず。
「そうですか。いえ、ただ五つ柱の神々の話をしていただけです。本日は、魔力検査で教会に? よろしければ……私が検査しますよ」
「いえいえ。神官様のお手を煩わせるわけにはまいりません。もう順番も次ですから」
神官はマリッサに断られて、やや残念そうにすると、『神のお導きがあらんことを』と私たち三人を祝福し去って行った。
列に戻ると、ちょうど私の順番になった。思ったより、検査の待ち時間が長くて魔力が復活していたので、少し前にトイレでも豆電球を出しておいた。
「こちらに手を置いてください」
検査員の女性から水晶の上に手を置くように促される。大丈夫かな? 大丈夫だと信じたい。
不安に思いながら水晶に手を置くと、フッと小さく光る。水晶を確かめながら検査員が紙に何かを書き、渡してくる。
「魔力量は弱です。属性の検査は、あちらの扉から外に出て行ってください。次、どうぞ!」
よしっ! 小さくガッツポーズをする。枯渇作戦は成功した。
ちなみに属性は水にした。宿屋で一番役に立ちそうだしね。水以外の魔法は、出せないフリをした。検査員は何故か驚いた顔をしてたが、判定は無事に水となった。
マリッサに結果を伝える。作戦成功で私はニヤケが止まらない。
「疲れたでしょう? 魔力は残念だったけど、お母さんはあなたの魔力が高くなくてよかったと思ってるの……ミリー、何をニヤニヤしてるの?」
「……早く帰って、リンゴチップス食べたいなって考えてた」
「相変わらず食いしん坊ね」
帰りは家までの長いウォーキング……子供の足じゃ疲れる。馬車よりマシだけどね。
閑話 金髪の神官
執務室の窓から外を眺めながら佇む金髪の神官は一人、幸せだった日々を思い出していた。愛する人たちはいなくなったのに、何故自分だけがこの世界に取り残されているのかを考えると、いつものように憂鬱な気分に陥り、大きなため息と独り言を漏らす。
「ここへ来て何年経っただろうか? もう五年か、まだ五年か……」
金髪の神官は、ラスターシャ公爵家の嫡子として生を受けた。両親は冷え切った関係で、とうの昔に家族として機能を失っていた。そんな中でも、弟が生まれたのは今でも不思議なことだ。
十歳の頃に、第一王女マリアンヌの婚約者となった金髪の神官。成人後は、マリアンヌの兄であるレオナルド王太子の次期宰相候補として、現宰相の父の下で補佐として仕えた。
金髪の神官にとって、マリアンヌと過ごす日々はとても幸せな思い出ばかりだった。みなに祝福され結婚した日の彼女の顔は今でも鮮明に記憶していた。
「目を瞑れば……彼女の美しいストロベリーブロンドの感触がこの手に蘇る」
二人はすぐに子宝にも恵まれ、これ以上の幸せはないと本人たちを含め誰もが思っていた。
「子供までと欲張り過ぎたのだろうか?」
マリアンヌは、子を産んだ後に体調を崩し、帰らぬ人となった。子も死産だった。
金髪の神官がその知らせを聞いたのは、各ギルド長を集めた、年に一度の定例会議の時だった。予定より早く陣痛が始まったせいか、知らされたのは会議の後だった。何故、会議を中断してでも知らせなかったのか? 愛する人の最期にも会えず、金髪の神官は怒りと悲しみで感情が高まり魔力を暴走させてしまった。
金髪の神官は、その後、次期公爵も宰相の座も放棄して神官になった。もちろん周囲には反対されたが、陛下も、それからレオナルド王太子も最終的には認めることで落ち着いた。だが、彼の父には、最後まで理解されることはなかった。
(今日は、よく子供の声がする)
夏生まれの魔力検査の時期だったかと金髪の神官は窓から外を見る。マリアンヌとの子も生きていたら五歳になっていた。死産した子は女の子と聞いていた金髪の神官は、生きていればマリアンヌ似のさぞかし可愛い子だっただろうと、育った自身の娘を想像しながら微笑んだ。
死産のため、亡骸も見ることが叶わなかった我が子。もし機会があったとしても、その勇気はなかっただろうと頭を振る。マリアンヌが亡くなったことを聞いた時でさえ正気を保てなかったのだから。
金髪の神官が昔の思い出に耽っていると、どこからともなく魔力の波動を感じた。昔から魔力の波動には敏感であったが、何故か懐かしくなるような優しいその魔力は心地よいものだった。
「私の執務室まで届くとは……魔法を使ったことのない子供たちのものではないな」
教会では、検査以外での外部の人間による魔法使用は禁止されている。金髪の神官は、誰が使ったのか確認するべく執務室を出た。
魔力の波動を感じた方向を辿ると、着いたのは平民用の祈りの間だった。魔力の波動はこの辺りで消えている。
金髪の神官が様子をうかがっていると、子供の話し声が聞こえた。
(あそこか)
長椅子に子供が二人座りながら、五つ柱を見上げている。一人の子がバルティ様を眺めながら、触覚という言葉をボソッと呟く。触覚? きっと、角のことだと察し、二人に声を掛けた。
「あれは角ですよ。五つ柱の一柱、神獣バルティ様です」
五つ柱について説明すると、呟いた子供が立ち上がって振り向き、丁重に礼を言う。平民にしては丁寧な言葉使いだ。金髪の神官は、商家の子かと顔を確認し息を止めた。
(マリアンヌ……)
子供の顔に触れようと自然と身体が動いたが、ミリーと呼ばれたその子に女性が駆け寄ったことで手を止める。
(母親か? この子はミリアナというのか)
もう少し話をしたくて、魔力検査を申し出るが断られる。残念であったが、あまりしつこくしないほうがいいだろう。そう思い、その場にいた三人を祝福して、金髪の神官は執務室に戻っていった。
金髪の神官が書類に目を通し始め小一時間経った時、執務室の扉を叩く音がした。
「神官長、失礼します。本日の魔力検査が終了しましたので資料をお持ちしました」
扉を開けたのは見習いの神官を束ねている若い神官だった。真面目で仕事も丁寧だと神官の中でも信頼されている男だ。
最近の神官不足の忙しさから、執務室に入ってきた若い神官の目の下には濃いクマがくっきりとできていた。若い神官は、今回の検査で魔力の多い者はいなかったと報告、書類を机の上に並べる。
書類の受け渡しが終わっても、若い神官は執務室を出ようとせず、何か言いたげに執務机の前に立っている。不思議に思った金髪の神官が執務机から顔を上げ尋ねた。
「どうしたのだ?」
「それが……今回はいつもより検査人数が多く、普段検査業務をしない神官見習いも動員したのですが……その一人が不思議なことを申すもので……」
「どんなことだ?」
見習いの神官の報告によると、属性検査を行った子供の一人が、魔力循環の説明をする前に当たり前のように水魔法を放ったという。
「魔法が既に使えていたと?」
「そんな子供は今まで存在したことがありません。忙しくて勘違いをしていたのだと思います。実際魔力の高い子もおりませんでした。飲み込みの早い子供に、見習いが大袈裟な反応をしているのだと思いますが……」
「その子供の資料は?」
「は、はい。こちらです」
金髪の神官が受け取った資料に目を通す。魔力は弱の最低ラインで属性は水との表示。名前はミリアナ・スパーク。
(ミリアナ? 今日のあの子だろうか?)
ミリアナという名は珍しい。そう幾人もいないと金髪の神官は受け取った資料の情報をもう一度読み返す。それに、スパークの家名には覚えがあった。
「そうか。スパークといえば魔道具男爵の親族か? 何故、平民の祈りの間で魔力検査を? エードラーの親族であれば、貴族の祈りの間を使えるはずだが?」
「申し訳ありません。私はその魔道具男爵という御仁を存じ上げません」
そうか、と金髪の神官は頷く。若い神官は知らないが、魔道具男爵といえばエドガー・エードラー・フォン・スパークが有名だと金髪の神官は前職の関係で良く知っていた。
本来は、魔道具男爵と呼ぶべきではないが、あまりの偉業を成す者が、平民出身のエードラーなのを許せない貴族のエゴか、はたまた純然たる賛美からか、魔道具男爵という呼び名が定着していた。近々男爵への陞爵も噂されていることから、あながち嘘ではない話だと金髪の神官は渡されたミリアナの資料を執務机に置く。
「気にするな。この資料は、こちらで保管する」
若い神官は、頭を下げ挨拶するとすぐに退室した。
再び一人きりになった執務室で金髪の神官が呟く。
「ミリアナ・スパークか……もしあの歳で既に魔法が使えていたとしたら、魔力を先に使い、空の状態で検査したのかもしれない。やはり先ほどの波動は、あの子の魔力だったのか?」
金髪の神官は考えを巡らしたが、確証がないのでは何もできないと結論付けた。
それに、仮に魔力が豊富だと知っていたのなら、故意に誤魔化していた可能性が高い。魔力検査のことを幼いミリアナが知っていたのかは、金髪の神官にはっきりと分からなかった。だが、貴族と関わることや、学園に行くことを本人が望んでないのかもしれない。とすれば、マリアンヌに似たミリアナに極力無理強いはしたくないという考えに至った。
「問題にならなければ大丈夫であろうが……」
そう呟き、金髪の神官は暫く空を眺めて執務に戻った。
神様イラストの本
「二人とも、おかえり。夕食を用意したから上で話そう。ミリーが好きなオークカツとコロッケだ」
ジョーは、教会から戻った私たちを笑顔で迎えてくれた。
オークカツとコロッケを早く食べたい。今日は、魔力枯渇アンド長時間ウォーキングで精神も体力もヘロヘロだしお腹はペコペコだ。帰り道、何度もお腹の大きな音が鳴った。着替えて早速準備されていた少し早めの夕食を頂く。
「それで、どうだったんだ?」
ジョーが、今日の魔力検査について尋ねてくる。
「魔力量は弱で属性は水だった」
「そうか。まぁ魔力量は残念だが、属性はよかったな。水は重宝される。弱の判定ならそんなに出ないだろうが……」
ここでは、殆どの家が井戸から水を汲む。それが結構な労働で何回も往復する。平民の間では、水属性を賜ることはアタリとされている。逆に使える用途が狭まる火魔法はハズレとされている。私は火魔法も十分に使える属性だと思う。それに鍛冶師や料理人、冒険者になるのなら火魔法は有用である。
ジョーは火属性で、マリッサは風属性だ。二人とも魔力量は中の下らしい。ジョーは調理で火魔法を、マリッサは掃除で風魔法を使っているとはいえ、私は今まで二人が属性魔法で魔力を大量に使っている姿を見たことがない。
中の下程度の魔力では、クリーンを広範囲で発動できないらしく、マリッサは普段、風魔法で埃やチリを集めて掃除をしたり髪を乾かしたりしている。ジョーはもっぱらコンロやオーブンの火の調整でしか魔法を使わない。
「それでだな。ミリーも五歳になったわけだ。そろそろ宿の手伝いをしてもらおうかと思う」
「うん、分かった」
ここでは、五歳で家業のお手伝いをすることは普通だ。
お手伝いは、最初は週に二、三回程度から始めることに決まった。お手伝い時間は、午前中の数時間らしい。
ジョーは時期もちょうどよかったと、頭を掻きながら気恥ずかしそうに言う。マリッサも苦笑いしてる。
ん? なんだろう?
「あー、実はだな。マリッサが妊娠したんだ。来年の初めには、新しい家族が増える。ミリーも、弟か妹ができるのを楽しみにしておけよ」
えええ。いつの間に⁉ 私も二人と一緒のベッドで寝ているんだけど……そういえば、春の四の月くらいにニナの家にお泊まりしたな。その時か?
「ミリー、何をニヤニヤしてるの?」
「いや‼ お母さん、お父さん、おめでとう。私、凄く楽しみ! あ! お母さん、今日馬車とか歩きとか大丈夫だった?」
「ちょっと気持ち悪かったわね。これでも悪阻は、大分なくなったのよ。だから、今は大丈夫よ」
無理をしないでほしい。仕事はどうするの? 誰かを雇うの? 働き過ぎは身体によくないよ。などと、ついマリッサを質問攻めにしてしまう。ジョーに落ち着けと宥められてしまった。
「マリッサには、力仕事を控えてもらう。ちゃんと従業員を雇うつもりだ。ギルドに頼んで募集を掛けている」
「冒険者ギルド?」
「商業ギルドだ。早ければ来週には雇えると思う」
商業ギルドが、人材募集の仲介業も受け負っているとは……ハローワークみたいなところだ。
ジョーによるとギルドでは労働者の身元調査を請け負っており、しかも雇用契約書の作成や契約の見届けも少額の手数料で行ってくれるので安心とのこと。
「じゃあ、私も頑張らないとね!」
「ミリーには、レシピや料理のアイディアをもらってるからな。食事が美味くなって、ここ一年は宿も繁盛してる。今回、人を雇えるのもそのおかげだ」
ジョーたちに初めてレシピの説明をした時は、二人とも訝しげに聞いていた。確かにいきなり幼女によく分からないレシピを作ってとお願いされても、おままごとの延長としか思えないだろう。
けれど、私のレシピを実際にジョーに作ってもらったところ、その美味しさに驚きながら、その後も私のレシピを次々と取り入れてくれるようになった。
猫亭は基本宿屋だが、宿泊していなくても一階部分の食堂の利用は可能だ。料理の味が更に美味しくなったこともあり、最近食堂はいつも満席。今まで人を雇ってなかったのが不思議なくらいだ。
今では猫亭の看板料理のオークカツも、ジョーに提案した当初は却下されたレシピの一つだった。
ついに五歳になった。
実際に私が生まれた日付は分からないが、ここは春夏秋冬で誕生日をまとめて祝う。私は、夏生まれとなっている。
「ミリー、五歳おめでとう。プレゼントは、お母さんからはこれね。お父さんからはこれよ」
マリッサからは、青のレースのリボン。ジョーからは、念願の本をプレゼントされた。早速マリッサに、髪にリボンを付けてもらう。我ながら、可愛いんじゃないかな。そして本は……おう、神様イラストが表紙の本だ。
「お父さん、お母さん、ありがとう。大切にするね」
二人に抱きつくと、ジョーが照れ隠しのように、忘れていた五歳児のイベントの話をする。
「ミリーも五歳になったから、教会で魔力を測らないとな」
(あー、そうだった)
ここでは五歳になったら魔力量を測定されるんだった。
多分、気絶訓練を続けた私の現在の魔力はとんでもない量だと思う。平均を知らないので、なんとも言えないけど……ジョーたちの魔法を見る限り、私の魔力は普通の量をはるかに超えていると思われる。
「そうね。いつ行こうかしら? その日は測定に影響するから、体力を使わないようにしないといけないわね。魔力が多いと、王都学園に入学ができるのだけど、貴族にも目を付けられるのよね」
そうなのだ。だから私は検査での魔力量を誤魔化す予定だ。
私の計画では、魔力を枯渇近くまで使ってから検査を受けるつもりだ。
五歳未満で魔法を使う子供は存在しない。そういう前提で検査が実施されるのだ。マリッサの言うようにその日の体力が計測する魔力量に影響するなら、測られる魔力の方を使い切れば、より直接的に結果に影響するはず。
魔力量の測定はそれでいいとして、属性の検査の方は、四大元素の魔法を教え、適性した放てる属性で判断するらしい。そんな曖昧な検査をしているなら、一属性だけの魔法を放ち残りは使えないフリをすれば済みそうだ。
魔法を使い始めて三年。つい最近、ライトの百個の豆電球に包まれて、『ライト百個出せる記念』を独りドヤ顔でやったばかりだ。枯渇寸前のギリギリのラインまで豆電球を出すのは得意なのだ。
学校には興味あるが、貴族問題に費用問題……問題が多そうだ。日本では大学まで行ったし、魔法も改めて習わなくとも、既にそれなりに使える。異世界の学生体験をできないのは残念だけど、お貴族様リスクは避けたい。そんなことを数日考えていたら魔力検査の日になった。
教会へ出発する前に豆電球を百と一個出す。フー。ちょっと気持ちが悪い。今の限界はここだ。
「ミリー、教会に行くわよ。ちゃんと靴を履いて下りてきてね」
今日は、一番いい服と靴を履いてレースのリボンで髪を結っている。
「あら、顔色が悪いわね。大丈夫?」
「そんなことはないよ! 急いで下りて来たからかな?」
「そう? 気分が悪くなったら言うのよ」
そういうマリッサも顔色が悪い。大丈夫かな?
教会は、家から四十分くらい歩いたところにある。今日は体力の使用を最小限にするため、宿の前に乗り合い馬車が呼ばれている。近所の五歳児とその親をまとめて乗せ教会に向かう。同い年のニナも馬車に乗っている。
「ミリーちゃん、おはよう。ドキドキするね」
「そうだね。馬車って結構揺れるんだね。ドキドキハラハラするね」
「もう、違うよ! 魔力検査の話だよ」
御者が出発の合図をすると馬車が動き出すが……揺れる揺れる。乗っている全員が無言で耐えている。ニナは母親にしがみつきながら泣きそうだ。
教会に着いたはいいが、馬車の揺れが激しく、余計に気持ちが悪くなった。マリッサも手拭いを口に当てている。
教会は、ザ・教会って感じの建物で権力と金を象徴していた。中は意外と質素な造りでびっくりしていたら……こちらは平民用のエリアらしい。けっ。平民のほうには金を使わない主義か。案外無駄使いしていない、権力に溺れていないんだなと感心した私の気持ちを返してほしい。
魔力検査は一人ずつやるそうで、順番待ちの間はニナと長椅子に並んで腰を掛ける。
馬車の揺れの影響でまだ少し顔色が悪いニナ。
「ニナちゃん、大丈夫?」
「うん。ニナもう大丈夫だよ。でも、帰りは馬車に乗りたくない」
帰りは歩きだから大丈夫だとニナに教えるとホッとしたような表情をした。
待ち時間は特にやることがないので、トイレに行ったあと、しばらく座りながら教会の中をキョロキョロ見回す。目の前の中央には、大きな像が五体。女神っぽいのが二つと、老人に男神、あと…獣人? 頭から何かが生えてる。ここの神様だろうか?
「あれは、何が生えてるんだろう? 触覚?」
「あれは角ですよ。五つ柱の一柱、神獣バルティ様です」
「神獣なんだ。てっきり獣人か宇宙人かと思った。よく知って……ご、ご存じなのですね」
いつの間にか私の隣に座って質問に答えていた男性は、どう見ても高位の神官だった。しかも見事な金髪だ。上品な身なり、きっと貴族だろう。隣に座っていたニナも怯えて畏まっている。神官のお貴族様がなんで平民用のエリアにいるんだろう。
金髪の神官は、こちらが驚いているのに気づきながらも話を続ける。
「中心にいらっしゃるのは、創造神様。女神の二柱は、豊穣の神クリシア様と愛の神ミヴェッタ様。男神は、戦闘神ヴァイン様。そして、平安の神が先ほどの神獣バルティ様です」
「そうでしたか。丁寧なご説明ありがとう存じます」
立ち上がり神官に感謝の礼をする。神官は、何故か驚いた顔でこちらを凝視。
え? 何か失礼をしたかな……
「君は……」
神官が、近寄って顔に手を伸ばして来る。
「ミリー、ここにいたのね。はっ、これは神官様、失礼しました」
マリッサが神官に急いで頭を下げ非礼を詫びる。
「顔を上げなさい。この子は、あなたの子ですか? 名前はミリーというのですか?」
「はい。私の子です。ミリアナと申します。何か、失礼がありましたでしょうか?」
マリッサもニナと同じく畏まっている。大丈夫。何も失礼はしていない……はず。
「そうですか。いえ、ただ五つ柱の神々の話をしていただけです。本日は、魔力検査で教会に? よろしければ……私が検査しますよ」
「いえいえ。神官様のお手を煩わせるわけにはまいりません。もう順番も次ですから」
神官はマリッサに断られて、やや残念そうにすると、『神のお導きがあらんことを』と私たち三人を祝福し去って行った。
列に戻ると、ちょうど私の順番になった。思ったより、検査の待ち時間が長くて魔力が復活していたので、少し前にトイレでも豆電球を出しておいた。
「こちらに手を置いてください」
検査員の女性から水晶の上に手を置くように促される。大丈夫かな? 大丈夫だと信じたい。
不安に思いながら水晶に手を置くと、フッと小さく光る。水晶を確かめながら検査員が紙に何かを書き、渡してくる。
「魔力量は弱です。属性の検査は、あちらの扉から外に出て行ってください。次、どうぞ!」
よしっ! 小さくガッツポーズをする。枯渇作戦は成功した。
ちなみに属性は水にした。宿屋で一番役に立ちそうだしね。水以外の魔法は、出せないフリをした。検査員は何故か驚いた顔をしてたが、判定は無事に水となった。
マリッサに結果を伝える。作戦成功で私はニヤケが止まらない。
「疲れたでしょう? 魔力は残念だったけど、お母さんはあなたの魔力が高くなくてよかったと思ってるの……ミリー、何をニヤニヤしてるの?」
「……早く帰って、リンゴチップス食べたいなって考えてた」
「相変わらず食いしん坊ね」
帰りは家までの長いウォーキング……子供の足じゃ疲れる。馬車よりマシだけどね。
閑話 金髪の神官
執務室の窓から外を眺めながら佇む金髪の神官は一人、幸せだった日々を思い出していた。愛する人たちはいなくなったのに、何故自分だけがこの世界に取り残されているのかを考えると、いつものように憂鬱な気分に陥り、大きなため息と独り言を漏らす。
「ここへ来て何年経っただろうか? もう五年か、まだ五年か……」
金髪の神官は、ラスターシャ公爵家の嫡子として生を受けた。両親は冷え切った関係で、とうの昔に家族として機能を失っていた。そんな中でも、弟が生まれたのは今でも不思議なことだ。
十歳の頃に、第一王女マリアンヌの婚約者となった金髪の神官。成人後は、マリアンヌの兄であるレオナルド王太子の次期宰相候補として、現宰相の父の下で補佐として仕えた。
金髪の神官にとって、マリアンヌと過ごす日々はとても幸せな思い出ばかりだった。みなに祝福され結婚した日の彼女の顔は今でも鮮明に記憶していた。
「目を瞑れば……彼女の美しいストロベリーブロンドの感触がこの手に蘇る」
二人はすぐに子宝にも恵まれ、これ以上の幸せはないと本人たちを含め誰もが思っていた。
「子供までと欲張り過ぎたのだろうか?」
マリアンヌは、子を産んだ後に体調を崩し、帰らぬ人となった。子も死産だった。
金髪の神官がその知らせを聞いたのは、各ギルド長を集めた、年に一度の定例会議の時だった。予定より早く陣痛が始まったせいか、知らされたのは会議の後だった。何故、会議を中断してでも知らせなかったのか? 愛する人の最期にも会えず、金髪の神官は怒りと悲しみで感情が高まり魔力を暴走させてしまった。
金髪の神官は、その後、次期公爵も宰相の座も放棄して神官になった。もちろん周囲には反対されたが、陛下も、それからレオナルド王太子も最終的には認めることで落ち着いた。だが、彼の父には、最後まで理解されることはなかった。
(今日は、よく子供の声がする)
夏生まれの魔力検査の時期だったかと金髪の神官は窓から外を見る。マリアンヌとの子も生きていたら五歳になっていた。死産した子は女の子と聞いていた金髪の神官は、生きていればマリアンヌ似のさぞかし可愛い子だっただろうと、育った自身の娘を想像しながら微笑んだ。
死産のため、亡骸も見ることが叶わなかった我が子。もし機会があったとしても、その勇気はなかっただろうと頭を振る。マリアンヌが亡くなったことを聞いた時でさえ正気を保てなかったのだから。
金髪の神官が昔の思い出に耽っていると、どこからともなく魔力の波動を感じた。昔から魔力の波動には敏感であったが、何故か懐かしくなるような優しいその魔力は心地よいものだった。
「私の執務室まで届くとは……魔法を使ったことのない子供たちのものではないな」
教会では、検査以外での外部の人間による魔法使用は禁止されている。金髪の神官は、誰が使ったのか確認するべく執務室を出た。
魔力の波動を感じた方向を辿ると、着いたのは平民用の祈りの間だった。魔力の波動はこの辺りで消えている。
金髪の神官が様子をうかがっていると、子供の話し声が聞こえた。
(あそこか)
長椅子に子供が二人座りながら、五つ柱を見上げている。一人の子がバルティ様を眺めながら、触覚という言葉をボソッと呟く。触覚? きっと、角のことだと察し、二人に声を掛けた。
「あれは角ですよ。五つ柱の一柱、神獣バルティ様です」
五つ柱について説明すると、呟いた子供が立ち上がって振り向き、丁重に礼を言う。平民にしては丁寧な言葉使いだ。金髪の神官は、商家の子かと顔を確認し息を止めた。
(マリアンヌ……)
子供の顔に触れようと自然と身体が動いたが、ミリーと呼ばれたその子に女性が駆け寄ったことで手を止める。
(母親か? この子はミリアナというのか)
もう少し話をしたくて、魔力検査を申し出るが断られる。残念であったが、あまりしつこくしないほうがいいだろう。そう思い、その場にいた三人を祝福して、金髪の神官は執務室に戻っていった。
金髪の神官が書類に目を通し始め小一時間経った時、執務室の扉を叩く音がした。
「神官長、失礼します。本日の魔力検査が終了しましたので資料をお持ちしました」
扉を開けたのは見習いの神官を束ねている若い神官だった。真面目で仕事も丁寧だと神官の中でも信頼されている男だ。
最近の神官不足の忙しさから、執務室に入ってきた若い神官の目の下には濃いクマがくっきりとできていた。若い神官は、今回の検査で魔力の多い者はいなかったと報告、書類を机の上に並べる。
書類の受け渡しが終わっても、若い神官は執務室を出ようとせず、何か言いたげに執務机の前に立っている。不思議に思った金髪の神官が執務机から顔を上げ尋ねた。
「どうしたのだ?」
「それが……今回はいつもより検査人数が多く、普段検査業務をしない神官見習いも動員したのですが……その一人が不思議なことを申すもので……」
「どんなことだ?」
見習いの神官の報告によると、属性検査を行った子供の一人が、魔力循環の説明をする前に当たり前のように水魔法を放ったという。
「魔法が既に使えていたと?」
「そんな子供は今まで存在したことがありません。忙しくて勘違いをしていたのだと思います。実際魔力の高い子もおりませんでした。飲み込みの早い子供に、見習いが大袈裟な反応をしているのだと思いますが……」
「その子供の資料は?」
「は、はい。こちらです」
金髪の神官が受け取った資料に目を通す。魔力は弱の最低ラインで属性は水との表示。名前はミリアナ・スパーク。
(ミリアナ? 今日のあの子だろうか?)
ミリアナという名は珍しい。そう幾人もいないと金髪の神官は受け取った資料の情報をもう一度読み返す。それに、スパークの家名には覚えがあった。
「そうか。スパークといえば魔道具男爵の親族か? 何故、平民の祈りの間で魔力検査を? エードラーの親族であれば、貴族の祈りの間を使えるはずだが?」
「申し訳ありません。私はその魔道具男爵という御仁を存じ上げません」
そうか、と金髪の神官は頷く。若い神官は知らないが、魔道具男爵といえばエドガー・エードラー・フォン・スパークが有名だと金髪の神官は前職の関係で良く知っていた。
本来は、魔道具男爵と呼ぶべきではないが、あまりの偉業を成す者が、平民出身のエードラーなのを許せない貴族のエゴか、はたまた純然たる賛美からか、魔道具男爵という呼び名が定着していた。近々男爵への陞爵も噂されていることから、あながち嘘ではない話だと金髪の神官は渡されたミリアナの資料を執務机に置く。
「気にするな。この資料は、こちらで保管する」
若い神官は、頭を下げ挨拶するとすぐに退室した。
再び一人きりになった執務室で金髪の神官が呟く。
「ミリアナ・スパークか……もしあの歳で既に魔法が使えていたとしたら、魔力を先に使い、空の状態で検査したのかもしれない。やはり先ほどの波動は、あの子の魔力だったのか?」
金髪の神官は考えを巡らしたが、確証がないのでは何もできないと結論付けた。
それに、仮に魔力が豊富だと知っていたのなら、故意に誤魔化していた可能性が高い。魔力検査のことを幼いミリアナが知っていたのかは、金髪の神官にはっきりと分からなかった。だが、貴族と関わることや、学園に行くことを本人が望んでないのかもしれない。とすれば、マリアンヌに似たミリアナに極力無理強いはしたくないという考えに至った。
「問題にならなければ大丈夫であろうが……」
そう呟き、金髪の神官は暫く空を眺めて執務に戻った。
神様イラストの本
「二人とも、おかえり。夕食を用意したから上で話そう。ミリーが好きなオークカツとコロッケだ」
ジョーは、教会から戻った私たちを笑顔で迎えてくれた。
オークカツとコロッケを早く食べたい。今日は、魔力枯渇アンド長時間ウォーキングで精神も体力もヘロヘロだしお腹はペコペコだ。帰り道、何度もお腹の大きな音が鳴った。着替えて早速準備されていた少し早めの夕食を頂く。
「それで、どうだったんだ?」
ジョーが、今日の魔力検査について尋ねてくる。
「魔力量は弱で属性は水だった」
「そうか。まぁ魔力量は残念だが、属性はよかったな。水は重宝される。弱の判定ならそんなに出ないだろうが……」
ここでは、殆どの家が井戸から水を汲む。それが結構な労働で何回も往復する。平民の間では、水属性を賜ることはアタリとされている。逆に使える用途が狭まる火魔法はハズレとされている。私は火魔法も十分に使える属性だと思う。それに鍛冶師や料理人、冒険者になるのなら火魔法は有用である。
ジョーは火属性で、マリッサは風属性だ。二人とも魔力量は中の下らしい。ジョーは調理で火魔法を、マリッサは掃除で風魔法を使っているとはいえ、私は今まで二人が属性魔法で魔力を大量に使っている姿を見たことがない。
中の下程度の魔力では、クリーンを広範囲で発動できないらしく、マリッサは普段、風魔法で埃やチリを集めて掃除をしたり髪を乾かしたりしている。ジョーはもっぱらコンロやオーブンの火の調整でしか魔法を使わない。
「それでだな。ミリーも五歳になったわけだ。そろそろ宿の手伝いをしてもらおうかと思う」
「うん、分かった」
ここでは、五歳で家業のお手伝いをすることは普通だ。
お手伝いは、最初は週に二、三回程度から始めることに決まった。お手伝い時間は、午前中の数時間らしい。
ジョーは時期もちょうどよかったと、頭を掻きながら気恥ずかしそうに言う。マリッサも苦笑いしてる。
ん? なんだろう?
「あー、実はだな。マリッサが妊娠したんだ。来年の初めには、新しい家族が増える。ミリーも、弟か妹ができるのを楽しみにしておけよ」
えええ。いつの間に⁉ 私も二人と一緒のベッドで寝ているんだけど……そういえば、春の四の月くらいにニナの家にお泊まりしたな。その時か?
「ミリー、何をニヤニヤしてるの?」
「いや‼ お母さん、お父さん、おめでとう。私、凄く楽しみ! あ! お母さん、今日馬車とか歩きとか大丈夫だった?」
「ちょっと気持ち悪かったわね。これでも悪阻は、大分なくなったのよ。だから、今は大丈夫よ」
無理をしないでほしい。仕事はどうするの? 誰かを雇うの? 働き過ぎは身体によくないよ。などと、ついマリッサを質問攻めにしてしまう。ジョーに落ち着けと宥められてしまった。
「マリッサには、力仕事を控えてもらう。ちゃんと従業員を雇うつもりだ。ギルドに頼んで募集を掛けている」
「冒険者ギルド?」
「商業ギルドだ。早ければ来週には雇えると思う」
商業ギルドが、人材募集の仲介業も受け負っているとは……ハローワークみたいなところだ。
ジョーによるとギルドでは労働者の身元調査を請け負っており、しかも雇用契約書の作成や契約の見届けも少額の手数料で行ってくれるので安心とのこと。
「じゃあ、私も頑張らないとね!」
「ミリーには、レシピや料理のアイディアをもらってるからな。食事が美味くなって、ここ一年は宿も繁盛してる。今回、人を雇えるのもそのおかげだ」
ジョーたちに初めてレシピの説明をした時は、二人とも訝しげに聞いていた。確かにいきなり幼女によく分からないレシピを作ってとお願いされても、おままごとの延長としか思えないだろう。
けれど、私のレシピを実際にジョーに作ってもらったところ、その美味しさに驚きながら、その後も私のレシピを次々と取り入れてくれるようになった。
猫亭は基本宿屋だが、宿泊していなくても一階部分の食堂の利用は可能だ。料理の味が更に美味しくなったこともあり、最近食堂はいつも満席。今まで人を雇ってなかったのが不思議なくらいだ。
今では猫亭の看板料理のオークカツも、ジョーに提案した当初は却下されたレシピの一つだった。
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